AWC CAMPUS> 過去からのファイル 1-2 ■ 榊 ■ (27/75)


        
#819/3137 空中分解2
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CAMPUS> 過去からのファイル 1-2  ■ 榊 ■  (27/75)
★内容


場内に審判の声が響くと同時に、歓声があがった。
「やったー!」「きゃー!」「さらさーん!」
そして、沙羅は面を取った。
その面から流れるように髪が落ち、腰の辺りまで届いた。
慢心の笑みを浮かべた顔には汗が輝いていた。
「さらさーん! やった!」
始めにルームメイトの綾が飛びついて来た。
沙羅はいつもはみせない笑顔を振りまき、綾に抱きついた。
「綾ちゃーん! やったよ!」
沙羅は子供をあやすように、綾の髪を撫でた。
「沙羅! おめっとさん!」
そして、自動車部の部長の沖が肩を叩いた。
そして、クラスメイト、クラブ仲間が寄ってきて、喜び合った。
しばらくそんなことが続き、表彰が遅れたが、次第に各自席に戻り、今では元通りの
静けさとなった。
そして、沙羅が表彰台に上がった。
顔には疲れと汗と、そして笑顔を同居させていた。
向かいには60過ぎの剣道会総理事長のおじいちゃんが立っている。

「柳瀬ぇーー、沙羅ぁ殿ぉーー」

恒例の文句が述べられ、表彰状と楯が送られた。
沙羅がそれを受け取り、上に振りかざすと、再び歓声が上がった。

そして、暑いさなかの一つの試合が幕を閉じた。


「沙羅さん。本当にいいの?」
試合場の屋外、大きな駐車場の一角−−−−−
アイドリングしている、白に赤の線の入ったFZRにまたがった沙羅に綾が声をかけ
た。
「大丈夫! 用事すませたら、すぐ帰るから。先に帰ってて」
「そう……。それじゃあ……」
「うん……」
綾は手を振りながら団体バスの方へ走って行った。
沙羅はバスが出て行くのを見届けると、エンジンをふかし、発進し始めた。
走りながら片手で胸からサングラスを取り出し、かけた。
照りつける太陽は、4時を過ぎても変わらなかった。
「ちょっと、暑いな………」
沙羅は、心地よい風を体で感じながら、空に輝く太陽を見上げた。
身体には何かを成し遂げた充実感で一杯だった。
今ごろになってから妙に嬉しさがこみ上げてくる。
私、勝ったんだ………
沙羅は忍び笑いを浮かべながら、昔を懐古した。
風と共に、記憶がすり抜けていく。
つらかった事も今ではいい思い出。
沙羅はアクセルをさらにふかし、公道を突き抜けて入った。
そして、その記憶の中の一人の人物を懐かしく思い出した。
「遼…………元気かな………」


十年前−−−−−。
沙羅がまだ七才の頃。
沙羅は肺に欠陥があって、度々入院、退院を繰り返していた。
そんなある日の事である。

沙羅はいつものように、病院の四人部屋にはいった。
部屋の中には先に二人の男がベッドで寝ていた。
一人は80近い老人で、もう一人は16ぐらいの青年だった。
どちらも男である。
沙羅はガウンをはおった寝卷姿で、咳をしながら奧のベッドに入った。
この時はまだ、髪の短い、可愛い女の子だった。
病気がちな身体のせいか、心持ち痩せているし、顔色も青白く、この頃からは、今の
あの健康な姿は予想できない。
二人の男のうち、老人の方はいかにも体の調子が悪くて横になっていたという感じだ
ったが、青年の方は全然ピンピンしていて、なぜ入院しているのかという感じがした。
青年はいかにも退屈げに、時折あくびなどしながら週刊誌を読んでいた。
やはり、暇でしょうがない沙羅はなんとなくこの青年の事が気になった。
看護婦が見回りにきた頃、沙羅はこの青年に聞いてみた。
「あのー、どこか悪いんですか?」
青年が意味を飲み込むより早く、周りにきた看護婦が布団をばっとどかした。
青年の右足には、しっかりと白いギプスがはめられていた。
「単なるケンカよ。ケ・ン・カ。それで、足の骨折ったのよー」
「ということです」
男は苦笑いをした。
「君は?」
「私はちょっと肺が悪くて…………」
「そうよ、あの子はちゃんとした病気で、入院しているのよ。あなたみたいに好きで
入院しているわけじゃないの!」
「俺だって別に好きで入院しているわけじゃー…………」
「ええい。喧嘩してきた奴は黙ってなさい!」
一喝されとると、男はすごすごと引っ込んだ。
「くそっ………なんちゅー、病院だ…………」
「何か言った?」
「べっつにぃーーー」
看護婦の嫌みな視線に対し、青年はしらんぷりしていた。
沙羅はその問答を見て笑っていた。

沙羅が退院してから一ヶ月たった頃。
二人はまた公園で会った。
午後6時−−−
小学校から帰ってきた子供達が公園の広場で遊んでいた。
ジャングルジムで登りあい、砂場で何か山をつくり、空き地で走り回る。
笑顔を絶やさない子供達は、大声をあげながら遊び回っていた。
沙羅はその時、ずっと外れのベンチに一人座っていた。
うらやましいな………
などと思いながら、一人ベンチに座っていた。
そんな時、一緒に入院していた男 −−− 藤神遼が、その公園を通り抜けようと
いた。
遼も子供達が遊んでいる様子を見ながら、公園のはずれを歩いていた。
ちょうど、沙羅のいる辺りだった。
沙羅はすぐに遼の存在に気付いた。
「あっ、お兄ちゃん!」
「おっ、沙羅ちゃんか。何してんだ? こんな所で」
沙羅はまた視線を子供達に移した。
「見てるの」
「何を?」
「遊んでる人を…………」
遼は沙羅の隣に腰掛けた。
「一緒に遊ばないのか?」
沙羅はしばらく黙っていたが、視点を動かさず、つぶやくように言った。
「入院ばかりしてるから……。仲間にいれてくれないの…………」
「ふん…………」
遼もしばらく黙ると、辺りは遠くから聞こえる子供の声だけとなった。
子供のさわいでる声が、ひどく遠くに聞こえる。
妙な孤独感を遼は感じた。
同時に、沙羅はいつもその孤独感を味わっていることにも気付いた。
遼は視点を沙羅に移した。
沙羅の格好は、どこか少年っぽさを感じる格好だった。
短パンに薄手のトレーナー。
それが不思議と似合い、可愛らしい。
遼はしばらく、どうにかならないものかと思案した。
しかし、答えは簡単なものだった。
「よし、じゃあ、今日はお兄ちゃんが遊んでやろう」
柄にもないことを言ったもんだと後で後悔したが、その時は素直に口に出てしまった
のだ。
はっきり、それと解るぐらい、沙羅の表情が変わった。
「本当?!」
遼は優しい笑顔でうなずいた。
「なにして遊びたい?」
「うーん…………」
沙羅は一生懸命、考え始めた。
遼はそんな沙羅を見ながら立ち上がり、大きく伸びをした。
沙羅はその伸びをしている遼を見て、思い付いたように言った。
「お兄ちゃん、肩車して!」
「肩車?」
沙羅がうなずく。
「よし! じゃあ立って」
遼はベンチからぴょんと飛び降りた沙羅を捕まえ、そのまま持ち上げ、沙羅を肩に乗
せた。
沙羅はその時、130cmだったから、175cmはある遼の肩に乗ると相当な高さ
になった。
視界も急激に広がり、広い公園全体がよく見渡せた。
「わあ…………」
「どうだ? よく見えるか?」
「うん! ねえ、向こう」
沙羅はちょっと小高い丘を指さした。
「あそこに行きたいの?」
「うん!」
「よし」






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