AWC ご存知・元祖「思想のない『随筆』」 そにょ1


        
#748/3137 空中分解2
★タイトル (DRB     )  91/ 1/20   1:12  (186)
ご存知・元祖「思想のない『随筆』」 そにょ1
★内容
「随筆」大騒ぎシリーズ第十弾      くり えいた

           大恐慌で大騒ぎ

 一九九一年である。四月である。平成三年の春である。土曜日のお昼
休みである。給料前でタバコ代まで切らしてしまった私は、昼食をとる
ついでに駅近くの富士銀行までキャッシュカードでなけなしの貯金一万
円を降ろしに行った。
 中東湾岸で始まった湾岸戦争も地上戦に入ってからいよいよ長期化泥
沼化し、沢山の人々が死んだらしい。暗い世相であるが、あくまで日本
の空は花曇りの春の空である。鳥の鳴き声もヤケに明るい。私はマクド
ナルドの看板に目をやりながら交差点の角を曲がった。

 何だこれは。いったいどうしたと言うのだ。春のジャンボ宝くじでも
売っているのであろうか、いや天皇陛下の記念金貨がまた発行されたの
かな。いや、それにしてはいやに三十代くらい若い人達が多いな。これ
はいったい何の行列だ。銀行から外に列が延びて歩道を数十メートル埋
めている。
 私はその行列の後方に友人を発見し、そばに駆け寄った。
 彼は医者である。精神医学を専攻している。学生時代は学生運動をや
ったり遊び惚けたりいろいろやっていたが、いまや立派なお医者さんで
ある。背広、ネクタイ姿に貫禄が出てきた。しかしやや後ろに後退した
髪の生え際が歳月を感じさせる。
「おい、何の行列だ。これは」
「何って・・・どういうことだ」
「いや、宝くじでも買うのか」
「何を言ってるんだ。お前は」
「じゃ、天皇陛下の記念金貨か。いやお前がそんなもの買うはずはない
だろうな・・・」
「お前・・・もしかして知らないのか」
 私は急に不安になった。何だ。どうしたというのだ。そういえば最近
仕事場が変わったばかりで忙しかったし、暇なときはパソコン通信やビ
デオ鑑賞ばかりしていて、あまりテレビや新聞に接する機会がなかった。

 ボーッとしている私に彼が笑いながら話しかけた。
「いや、別に大した事じゃないよ。みんな自分が預金したお金を降ろし
に来ているだけだ」
「・・・・・こんなに沢山かい。この行列はどうみても正常じゃないぞ」
「ははは、みんなが右へならえの日本人の性癖だ」
「何のために。何のためにお金を降ろすのだ」
「使うためだよ」

 私は少々イライラした。私が聞いている事はそんな事ではないのだ。
うーんじれったい。彼はそんな私を察するかのように続けて答えてくれ
た。
「いや最近流行ってるんだよ。テレビや新聞でも取り上げられてるぞ。
『銀行からお金を降ろそう』って。聞いた事あるだろ」
「・・・・・」
 なるほど、その言葉はどこかで見た事がある。どこだったけ。えーと、
どこで見たんだっけ。彼が不思議そうに言う。
「お前パソコン通信やってたんじゃないのか」
「ああ、やってる。それがどうかしたのか」
「この言葉、パソコン通信から始まったんだろう。昨日昼ご飯食べてる
ときに『笑っていいとも』でタモリが言ってたぜ」
「あっ!・・・・」

 そうであった。どこかで見た事があると思ったのだ。いやタモリに聞
いたわけではない。そう、パソコン通信である。何かのメッセージで読
んだ事がある。どこで読んだのだろう。あまり気にしていなかったから、
内容は全然覚えていない。でも確かにそのタイトルだった。家に帰った
ら過去の通信記録を検索してみよう。
 私は彼にあと二、三の質問をすると列の最後部にならんだ。仕方がな
い。お金を降ろさないと昼飯が食えないからである。空腹の私は最後の
タバコの一本を出来るだけ長持ちするようにチビリチビリ吸った。いつ
の間にか晴れ上がった青い空に煙が消えていった。

 仕事を終えて地下鉄で帰宅する途中、普段は読書の時間に当てている
のであるが、今日は何となく本を読む気がしなくて、ボーッと考え事を
していた。車内はいつもと同じ風景である。別段変わった事はない。向
かいに座ったおじさんはうたた寝をしている。週刊誌の吊り広告も昨日
と同じ「湾岸戦争」の記事の見出しばかりである。おや、良く見るとさ
っきの言葉が雑誌の広告の左の方に小さく書いてある。雑誌はAERA
である。「銀行からお金を降ろそう」
 今まで気がつかなかったが、確かに「湾岸戦争」の記事の見出しは昨
日読んだものと同じであるから、昨日までは見落としていたのだ。まあ
普通こんな記事には興味は行かないから特に私が不注意だったというこ
ともあるまい。それに私は自慢ではないが流行に疎い。
 しかしそれにしてもみんながみんな銀行からお金を降ろしたらどうな
るのだ。降ろしたお金を使えば経済は活性化されていいのだろうが。大
体にしてみんなが降ろせるだけのお金が実際に銀行にあるのか。そんな
に急に皆が皆降ろしに行くと、お札が足りなくなるのではないか。待て
よ、みんながそのお金を使うわけだから回り回って銀行に帰ってくるか
らいいのかな。でも一時にそんなに沢山お金が出て行けば銀行はどうな
るのだろう。銀行は当然他の所に出来るだけ高い利子でお金を貸し付け
て利益を得るわけである。それが出来なくなったらどうなるのだ。潰れ
てしまうではないか。当然「日本の銀行からお金を借りていた人々や企
業」はどうなってしまうのだ。動きがとれなくなるではないか。

 いや、ちょっと待て。これが進むと一種の「取付騒ぎ」ではないか。
確か高校時代に歴史で習ったぞ。そうだ、日本史でも世界史でも習った
ではないか・・・
 「大恐慌」である。私の頭の中では歴史の教科書に載っていた写真、
銀行の前に押し掛けている群衆の写真の記憶が今日のお昼の風景の記憶
と重なった。
 うーん、でも不安が原因ではないからちょっと違うのかな。そういえ
ば、前の日本の大恐慌も元号が変わって数年目だったな。などといろい
ろ考えていたが、私の場合、歴史はあまり詳しい方ではないので、あま
りよく頭の中で整理できなかった。

 家に帰った私はさっそく古いファイルの検索にとりかかった。さっき
の気になっていたメッセージを探すためである。こういう作業はお手の
ものである。あったあった。読者のみなさんにもお見せしよう。
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>#407/412 奈良
>★タイトル (DRB46039)  91/ 1/20   8:07  ( 14)
>銀行からお金を降ろそう
>★内容
> 銀行からお金を降ろそう
>
> 銀行からお金を降ろそう。いくらでもいい。自分の貯金の額に応じ
>て好きなだけ降ろして来よう。そしてそのお金で自分の好きな人たち
>と楽しい時を過ごそう。家族のいる人はたまにはみんなで一緒に食事
>して語らおう。恋人のいる人は彼女に、彼氏に贈り物をしてあげよう。
>友達のいる人は一緒に遊びに行こう。パーティーを開こう。独りぼっ
>ちの人はふだん買った事のない物を買おう。慈善家や宗教家のみなさ
>んは寄付や献金でもすればいい。そしてみんなで新鮮なひとときを過
>ごしてみよう。
>
> 銀行からお金を降ろそう。
>
>  このMSGの無断転載及び印刷しての頒布を許可します
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 あれ・・・・・このメッセージを転載していて(VZでカット&ペー
スト)気が付いたのだが、これは私のIDではないか。DRB4603
9である。今まで気が付かなかった。いや私は未だかつてこのようなメ
ッセージはUPしたことはないぞ。本当である。これは断言できる。何
だこれは。誰の仕業だ。この手の訳の分からないメッセージは最近多い
ので、つい読み飛ばす習慣がついているのである。断じてこのようなも
のを私はUPしたことがない。
 いや昨年の一月にも私のパスワードが破られ、IDを無断使用された
事があってびっくりしたのだが、またである。同一人物の仕業であろう
か。幸いオンラインショッピングを使用するなどの悪意のある使用はさ
れなかったようだが、今回はわからない。さっそくパスワードを変更し
よう。(とここでファイルをセーブして一旦エディタを抜ける。)

 しかしどんな奴がこんなことをするのであろう。当然であるがハンド
ル名は書かれていない。訳のわからない事を書く奴はハンドル名も訳が
わからないことが多い。そうだ、プロフィールを読んで見よう。私のシ
ステムは通信ソフトがメッセージの新しいID認識して自動的にプロフ
ィールをダウンしておくマクロが組んである。私は過去のプロフィール
のファイルを検索した。
 自分のプロフィールが出てきてしまった。当たり前である。私は何を
しているのだ。そうそうこの私のプロフィールもそろそろ改訂しなくて
は。これはこの「随筆」には関係ない。
 ところでこのメッセージの意図がわからない。しかも最後の一行がト
ボけている。こういうメッセージを書く奴は大体にしてそのボードのメ
ッセージは読んでいないから、返事を書いたり、「やめろ」と忠告した
り、罵倒したりしても無駄である。静かに無視するのが一番いい。
 しかしこのメッセージのどこがそんなに受けたのだ。よくわからない。
別に目新しいことが書いてあるわけではない。とくに文章に工夫も凝ら
していないし、当たり前の作文である。このメッセージがパソコン通信
全般にコピーされて広がっていったりテレビや新聞で取り上げられる理
由がわからない。しかも実際に一般の人々が銀行に押し掛けてお金を降
ろし始めているのだ。
 まてよ・・・この私のIDを使った不届き者がこの文章を書いたかど
うかはわからないではないか。実際このメッセージには「このメッセー
ジの無断転載及び印刷しての頒布を許可します」と書いてあるのだから。
彼がどこかよそからコピーしてきた可能性の方が大きいだろう。ただ私
は普段は「PC−VAN」の「地域掲示板」の「奈良ボード」にいるか
らこのメッセージをここで最初に読んだだけの話である。このメッセー
ジのオリジナルは一体もともとどこにあったのだ。他のボードを探して
みるか。
 などといろいろ考えていたら眠くなってしまった。明日は家族とまた
ディズニーランドへお出かけである。今年は正月の三日にも家族で行っ
たのだが、あまり楽しくて味をしめてしまったのである。この分だと明
日はお天気でまた大混雑かも知れない。今日はもう寝よう。今晩は「奈
良ボード」へのRESはお休みである。

 翌朝の日曜日、家族の誰よりも早起きした私は、トイレの便器に腰掛
けて経済新聞を眺めていた。最近朝日新聞からこちらに切り替えたので
ある。とはいっても私は経済の事に明るいわけではない。仕事にもあま
り関係がない。コラムを読み比べてこちらの方が面白いからこちらに決
めたのである。でも私が読むのはニュースではなく文化欄やパソコンの
新製品情報である。湾岸での世界大戦の記事は難しくてよくわからない。
わかるのは人が死んでいるということだけである。いやいやしかし、朝
日新聞を断るのが大変であった。読売だったらもっと大変だっただろう。

 「株の暴落」についての記事が書いてある。株は大暴落しても私には
痛くも痒くもない。大根が足の上に落ちた方が痛いくらいである。なぜ
なら株を買っていないからである。なぜ買っていなかったのか、理由は
簡単である。買うほど余っているお金がないからである。でももう一つ
理由がある。



                 「そにょ2」に続くんだもん




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