#650/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 七章 (1/2) (14/25) あるてみす
★内容
七章 対決・1
「さて、どうやって中に入ろうか。」
物陰からお城の門を見ながら康司がつぶやいた。
「どうやってって、普通にはいればいいんじゃないの? スクルトは駄目かもしれ
ないけど、あたしと康司なら門番さんに顔パスでしょう?」
「そりゃ、そうなんだけどね。今、中で何が起こってるか判らないから、うかつに
入るとえらい目に遭いそうな気がするんだ。」
「でも、あの門を通る以外に入る方法なんてないんじゃない?」
「そりゃ、そうだけど……でもまあ、仕方ねえんだよなあ。ここで考えててもラチ
開かねえんだから、素直に入れてもらうしかねえよな、やっぱり。」
康司は意を決したように言うと、
「スクルト。悪いけど、ここでお別れだ。俺達は素直に入れるだろうけど、お前さ
んは、ちと無理だと思うんだ。それに、これから何が起こるか判らねえから、お前
さんは、このままフロール卿のところまで戻ってた方がいいと思う。」
「そうか。残念だな。できれば一緒に行きてえところなんだが。」
「すまんな。今までありがとう。」
「ああ。それじゃ、気を付けてな。」
「お前さんこそ、道中、気を付けて帰れや。」
スクルトは、片手を上げて挨拶をすると、そのまま来た道を引き返していった。
「さ、いくか。」
康司はあたしの手を取ると、そのまま引っ張るようにして門の前へ歩き出す。
一瞬、門番達は緊張して、持っていた槍を動かしかけたが、あたし達のことが判
るとすぐに元の格好に戻って、敬礼しながら通してくれた。
お城に入って、すぐに博美の姿を探す。
不思議なことに、お城の中に入ってから、なぜか一度も人に出会わなかった。あ
たしが知ってる限り、必ず召使いや侍女などがいて、もっとにぎやかだった筈なの
に。
広間をのぞき、廊下を見回し、お城の建物の端から端まで歩き回ってみた。もち
ろん、あたしと博美が一緒に泊まった部屋や、健司と康司が泊まった部屋などにも
行ってはみたけど、全く使われたことなどなかったかのように、埃にまみれて薄汚
れていた。
「いくらなんでも、おかしいな。健司だっている筈なのに。一体、何が起こったっ
ていうんだ?」
康司がさかんに首を傾げながら、来た廊下を戻る。そして、一休みしようと広間
に入った途端、たくさんの兵士達が並んでいるのが目に入った。
「えっ?」
驚く暇もあらばこそ、高らかな女の笑い声が広間中を埋め尽くす。
「ほーっほっほっほ……。」
そして、ずらっと並んだ兵士達の間から、艶やかなドレスを身に纏った女が姿を
現わした。
「よく戻ってこれたこと。余程、運が良かったらしいわね。でも、あなた達の運の
良さもそこまで。このあいだは、可哀相だから命だけは助けてやろうと思って、遠
くに追いやるだけにしたのだけれど、どうやら、それだけでは不充分なようだから、
今度は容赦しないことにしましょう。」
「てめぇ、一体何者なんだ? 姿形は博美のようだが、どうやら中身は違うな。」
「ほっほっほ。間違いなく、あなた達の知っている博美よ。ねえ、一美。あなたに
これほど似ている人間が、あたしの他にいると思って?」
「……。」
あたしは何も答えられなかった。だって、確かに博美なんだもん。でも、その偉
そうな態度や行動は、絶対にあたしの知ってる博美ではない。
頭では博美じゃないと思っているんだけど、感情的に否定できなかった。確かに
博美なんだけど、でも絶対に博美じゃない。そんな感じが渦を巻く。
自分でも矛盾してるって判ってるんだけど、そのどちらも正しいような気がして、
結局、あたしは何も言えなかったのだ。
「可哀相に。あたしの言葉を否定したくても、できないようね。でも、まあ、いい
わ。例え、あなたがどう思おうと、真実は一つなのだから。」
そして、博美であって博美でないものは、康司の方を見ると、
「これがあたし、中沢博美の本当の姿よ。以前のあたしを知っているあなた達には
信じられないでしょうけどね。」
「そんな戯れ言が信用できると思ってるのか? 所詮は博美の姿を借りた別のもの
ってとこだろうが。」
「ほっほっほ。判らない男だわねえ。健司の方はとっくの昔に、それが判っている
というのに。」
「そう言えば、健司はどうした?」
「健司なら、この城のどこかにいるでしょう。用があれば呼ぶだけだから、どこに
いようと気にはならないわ。もしかしたらマイア姫と一緒かもしれないけど、あた
しには男女の仲をとやかく言う趣味なんかないから、気にするつもりもないしね。」
「うそーっ!」
あたしは思わず叫んでいた。だって、だって……。
「あら、意外だった?」
博美は、思わず叫んでしまったあたしを見ると、面白そうにいった。
「確かに、以前はあたしの恋人だったけど、人間、心変わりっていうこともあるの。
そんなことが判らないほど子供じゃないでしょ?」
そして、再び黙り込んでしまったあたしを一瞥すると、
「さて、ちょっと話が長すぎたかしらね。そろそろ、あなた達には消えてもらうこ
とにしましょうか。」
博美は、そう言いながら、周りにいた兵士達に命令を下した。
「この者共を捕らえておしまい!」
兵士達は、その声に一斉に動き出すと、あたしと康司の周りに集まってきた。
康司は、あたしの肩を軽く叩いて、大丈夫だよ、というように、軽く目配せして
くれた。そして、両手を胸の前で合わせると、目を半眼にして大きく息を吸い込み、
ヒューという音とともに大きく息を吐き出した。それとともに、合わせた両手に力
がこもり始め、上腕の筋肉が盛り上がる。
「ハッ!」
突然、気合いとともに両手を前に突き出し、そのまま下に降ろす。と、やがて右
手にはめていた指輪がキラキラと光り始め、それと同時に康司の体が白い光で覆わ
れ始めた。
あたしも康司に倣って全身に力を蓄えると、それを一気に解放し、気合いを入れ
る。同時に、あたしのペンダントが白く光って、あたしの周りにも白い光がまとわ
りついてくる。
康司はあたしの手を握り締めると、ちょっとあたしの方を見た後、
「さあ! 来るなら来い!」
叫ぶというよりは、吠えるという感じで兵士達に怒鳴りつける。
兵士達の何人かは、あたし達に起こっていることが何なのか知っていたらしく、
それ以上近付いてくるのを止めて、少しづつ後退を始めたけど、何人かは新顔で、
あたし達のことを知らないらしく、無謀にも突っ込んでくる。
康司は無言のまま、少し小突く感じで彼らの体に軽く触れる。その瞬間、スパー
クが走って彼らは弾き飛ばされた。
それを目前でみた兵士達は、それ以上あたし達に近付こうとせず、遠巻きにして
眺めているだけだった。
「ええい! 何をしている! 早く捕らえんか!」
博美は苛立たしそうに叫ぶと兵士達を促したが、兵士達はあたし達を恐れて、そ
れ以上近付こうとしない。
「この腰抜け共が!」
博美は吐き捨てるように言うと、両手を胸の前で組み、力を込めた。一瞬の内に
頭上の冠と胸の前のペンダントが光を放ち、全身が白く覆われる。
「さあ、このあたしと、お前達二人の力と、どちらが上か試してみようか? 言っ
ておくが、あたしは、この力を充分に強めるための修行をしたから、お前達二人が
一度にかかってきても簡単にはいかないよ。」
博美はニヤリと笑うと、胸の前で組んだ手を一気に前へ突き出す。
白い光の玉が飛び出して、それがあたし達を直撃。あたし達の周りを覆う光で、
あたしはそれが防げると思っていたのに、それが同質の力だったためか、あたし達
の周りの光と融合し、そして、一気に弾けた。
「うわっ!」
「きゃあ!」
そのショックであたし達はバラバラに弾き飛ばされた。
「つぅ……。」
あたしは顔をしかめながら起き上がる。
あたし達の周りの光は消え、あたしのペンダントの光も薄くなっていた。
康司はあたしよりも早く起き上がっていて、再び全身に力を込めて白い光を纏う
と、博美同様に光の玉を放った。
「ほっほっほ。無駄なことを。」
博美の嘲笑。同時に康司の光の玉が博美に着弾。しかし、それは博美の周りの光
をわずかに乱しただけで、あっという間に消え去った。
「さっき言っておいた筈だよ。簡単にはやられないって。」
博美は、そう言って、すっと康司に手を延ばす。その表情に危険なものを感じて、
あたしは思わず博美に飛びかかった。
「だめぇ!」
バシッ!
博美の周りを覆う白い光に、あたしは激しく弾き飛ばされた。
「おっと!」
康司は慌てて腕を延ばし、あたしはその腕に抱き止められた。
「大丈夫か?」
康司の心配そうな顔。
あたしはうなずくと、再び力を込めて光を纏う。
「ほっほっほ。ちょっと可哀相だけど、いくらがんばっても、このあたしにはかな
わないってことを身を以て知ってもらうしかないようだね。そして、それがお前達
二人の最後になるだろう。」
博美は残忍そうな表情を浮かべると、両手を広げ、手の先に光を蓄えた。そして、
それぞれの光がすうっと延びると、あたし達の両側にパッと広がって、あたし達の
体を包み、強く締め上げる。
「ううっ!」
思わず喉の奥から悲鳴が漏れる。締め上げられる苦しさで息もできない。
ふと、康司の苦しそうな表情が目に入る。
ああ、康司も苦しいのよね。あたしがいるから余計に苦しいのかもしれない。せ
めて、あたしが息を全部吐き出せば、その分少しは楽になるかもしれない。
一瞬の内に、そんなことを考えて、あたしは体の力を抜き、胸の中から息が漏れ
るのに任せた。
体の奥の方が、急激に失われていく酸素を求めて最後の悲鳴を上げる。
康司、ごめんね。あたしは死んでしまうけど、せめて、あなただけは生き残って
欲しい……。
体が断末魔の悲鳴を上げて、勝手にピクピクと動く。酸欠で顔全体が爆発しそう
な感じになり、目が飛び出たとしても不思議はないくらいの感覚。
それでも、不思議と怖くはなかった。康司と一緒にいるからかもしれない。あた
しは康司の胸に顔を埋めると、そのまま自然に任せていた。
「一美!」
そう叫んでいるのだろう康司の声が遠くなって……。
突然、体が爆発したような感覚。そして、あたしが二人いるような感じを覚えた。
ドッペルゲンガー? それとも鏡像? よく判らないけど、博美をはさんだ反対
側に、もう一人のあたしがいる。そして、あたしは、なぜか博美の呪縛から逃れて
いて、もう一人のあたしとともに博美の体を締め付け返していたのだった。
「うぐゎああぁぁ……。」
互いに体全体で抱き締め合って、博美の体を締めあげると、とても人の声とは思
えないような音が博美の喉から発せられ、そして博美は倒れていった。
あたしは、ほっとしながら、もう一人のあたしの方を見る。と、急に妙な落下感
を覚え、あたしは意識を失った。
「う、うーん……。」
自分の出した声に気付いて、あたしは目を覚ました。
「あっつ……、いったーい……。」
全身があちこち痛む。痛みに顔をしかめながら起き上がって一息つく。と、
「きゃあ!」
いきなり腕を後ろに取られて、ねじ伏せられた。
「やだ、ちょっと、なんなのよ。」
「うるせえ! もう、てめえの好き勝手にはさせねえぞ。」
背中から憎しみのこもった声が答える。同時に、あたしの周りに兵士達が集まっ
てきた。皆、あたしのことをにらんでる。
急に恐くなって、周りを見回すと、兵士達の間から康司の姿が見えた。
「た、助けて! 康司!」
必死の思いで叫ぶと、康司はびっくりした顔をしてあたしの方を見た。そのとき、
あたしは、その隣に信じられない姿を見た。
えー? な、なんで?
康司は、隣で気絶している女の子を起こそうとして介抱していたんだけど、その
娘はまぎれもなくあたしだった。
あたしは呆然として言葉を失う。
「このやろう! ちゃんと立つんだよ!」
兵士達に髪をつかまれて引っ張られ、腕を後ろにひねり上げられて、強制的に立
たされる。
「いたーい! 離してよー!」
「静かにしろ!」
目の前にいた兵士に、いきなりお腹を殴られた。
「うぐっ!」
ううっ、い、痛い……。苦しいよぉ……。
−−− 続く