#615/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・外伝 五章 (1/2) (8/9) あるてみす
★内容
五章 そして……
その日の夕方、ランベル卿の屋敷から、二台の馬車が出発した。一台はフロール
卿の元へと向かう使者のもの、そして、もう一台はジュンの街外れに向かうものだ
った。
「マリカ。お前は本当に、この娘が自分の姪だと思っているのか?」
「あなた。ジョゼフという名前を憶えていらっしゃいませんの?」
「もちろん、憶えておるよ。ルベリア卿の事件はいまだに忘れられぬからな。」
「この子は母親の名をミーシャと言っていましたけれど、でも、ちょっと見ただけ
でも、そうではないことは、はっきり判りますわ。」
マリカはルミアを抱き締めながら、確信を込めて言った。
「では、ルミアは母の名に関して、嘘をついていると言うのか?」
「いいえ。この子は嘘はついていません。恐らく、そう思い込むような何かがあっ
たのでしょう。それも、ジョゼフに会ってみればはっきりすることですわ。」
同じ馬車の中で、ラミアは両親の話を聞いて驚いていた。
やがて、馬車はルミアの家の前に到着する。
召使いが扉を開けるのももどかしく、ランベル卿とマリカは、ほとんど馬車から
飛び降りるようにして降り立ち、ルミアの家に入っていった。ラミアとルミアも、
それに続く。
家の中では、ちょうどジョゼフとミリーが夕食を終え、ミリーが片付けものをし
ようとしているところだった。そこへ、突然の来客となったため、ジョゼフもミリ
ーも驚いていた。
「お久しぶりですわね、ジョゼフ。ルベリア卿とお呼びした方がいいのかしら?」
最初にマリカが口を開く。
「これはこれは……珍しい客人が見えられたものだ。しかし、ランベル卿婦人とも
あろうお方が、このようなあばら屋に突然訪ねて来られるとは。いったい、どのよ
うな御用件なのかな?」
ジョゼフは驚きながらも、ルミアやミリーには見せたことのない態度で受け答え
をする。
「父様。この方々は……。」
「そうだな、ミリー。お前にも紹介しておこう。こちらがランベル卿。ジュンの街
の領主様であることはお前もよく知っておろう。そして、こちらがマリカ様で、ラ
ンベル卿の奥方様だ。ワシの古くからの知り合いでもある。それから、ルミアの隣
のお方がランベル家のお嬢様のラミア様だ。ミリーも一度、お会いしたことがあろ
う。ルミア。そこで何をしておるのだ。早くおいで。」
「父様。このお方……。」
「ルミアに似ておると言いたいのであろう。今まで隠しておったのだが、ワシはラ
ンベル家の方々と他人ではないのだよ。話せば長いことになるがのう。」
「そうなのですよ、ミリー。あなたのお父様はルベリア卿といって、我がランベル
家とは浅からぬ関係にあるお方なのです。ところで、ジョゼフ。姉は……。」
「それは順を追ってお話することにしよう。」
ジョゼフは、ランベル卿一行を奥に通すと、ルミアとミリーも同席させて、最初
から順を追って話し始めた。その話はルミアもミリーもまったく聞いたことがない
ものだった。
昔、ルベリア卿と呼ばれる貴族がいた。ルベリア卿にはジョゼフという一人の息
子があった。
ジョゼフは年頃になると、ルベリア卿と友好関係にあり、かつ、やはり年頃の娘
のいたマベール卿のところから、マリーナという娘を迎え入れた。
マリーナにはマリカという双子の妹がいた。マリーナとマリカはとてもよく似て
いて、時々親も間違える程だった。二人はとても仲が良く、いつも一緒にいたもの
だった。
マリカはマリーナが結婚した後、すぐに、ランベル卿の息子に嫁いでいった。し
かし、結婚後もマリーナとマリカは連絡を欠かさず、二人は以前と同じく、いや、
それ以上に親密に付き合っていたのだった。
幾年かが過ぎ、やがてルベリア卿もランベル卿も年老いて、次々に亡くなってい
った。それぞれの家では、それぞれの息子が跡を次いで、ルベリア卿とランベル卿
になっていた。
ところが、あるときルベリア卿の領内で反乱が起きた。この反乱には、対立する
貴族の後ろ盾があったとも言われているが、今となってはさだかではない。
とにかく、この反乱でルベリア家の屋敷は焼け落ち、そこにいた者のうち、ある
者は焼け死に、またある者は命からがら逃げ出したのだった。
ルベリア卿だったジョゼフと、妻マリーナは、マリーナの侍女だったミーシャと
三人で逃げ延びた。領内の至るところに反乱軍がいて、もはや反乱を抑えるどころ
か自分達が逃げ延びるだけで精一杯だったのだ。
そして、ジョゼフ達三人はランベル卿のお膝元であるジュンの街まで落ち延びて
きた。
しかし、一旦、事が起きて落ちぶれてしまうと、いかに友好関係にあった貴族同
士でも、救いの手を差し延べることなどしないのが常であった。ジョゼフも、その
ことが判っていたので、ランベル卿に救いを求めるようなことはせず、ジュンの街
外れにあばら屋を立てて、そこで秘かに生活をすることにしたのだった。
生活は決して楽ではなかったが、マリーナは一言の不満も口にしなかった。そし
て、ジョゼフとマリーナは、もはや領主と奥方様などではないのに、ミーシャは相
も変わらぬ忠誠心でマリーナの侍女として仕えてくれていた。
やがてマリーナのお腹の中に、新しい生命が芽生える。苦しい生活の中で生まれ
た小さな、しかし最高の幸せ。ジョゼフは今まで以上に働き、マリーナも我が子の
無事な誕生を祈っていた。
そして、初めての子の誕生。
初めての子は女の子だったが、ジョゼフもミーシャも大喜びだった。しかし、そ
の喜びも束の間、マリーナは産後の回復が悪く、ジョゼフやミーシャの必死の看護
も空しく、やがて息を引き取った。
マリーナは息を引き取る前に、娘の名をルミアと付けるよう言い遺していた。
「……判りますわ。わたくしと姉は以前、まだ結婚するはるか以前のことですけれ
ど、自分達に娘が生まれたら、ラミアとルミアという名前にしようと話したことが
あるのですから。」
マリーナが亡くなったと聞いて泣いていたマリカは、涙ながらに口をはさむ。
「マリーナも、そのことを言っていたよ。その上、ルミアが生まれる一月程前にラ
ンベル卿のところで生まれた女の子がラミアと名付けられたことも聞いていたから
ね。この子の名前は、すでに決まっていたと言っても過言ではないだろう。」
そして、ジョゼフはルミアの髪を撫でながら話を続ける。
マリーナが亡くなった後は、ミーシャが乳母となってルミアの面倒をみてくれて
いた。しかし、ジョゼフはまだ若く、またミーシャもうら若き乙女であったのだ。
やがて、ミーシャは身篭もり、そして、女の子を出産した。
その子はミリーと名付けられた。ミーシャにとっては初めての子であったが、ミ
ーシャはルミアもミリーも分け隔てをすることなく、二人とも実の我が子として育
て上げた。
ジョゼフとミーシャは事実上夫婦として生活し、真実を知らされずに育てられた
ルミアは、ミーシャが本当の母でありミリーは姉妹であると信じて疑わずに成長し
た。
しかし、そのミーシャも数年前に、ふとした病気で亡くなった。
「おそらく、ルミアもラミアに会わなければ、こうして真実を知ることはなかった
だろう。そして、忌まわしい過去に捕らわれることなく、普通の人間として過ごす
ことができたのだろうが……。」
「父様! それは本当の話なのですか?」
ミーシャが本当の母親ではなく、またミリーも片親だけのつながりしかない姉妹
であることを知ったルミアは、泣きながらジョゼフに詰め寄った。
「ルミア。さぞかし驚いただろう。しかし、これが真実なのだよ。」
そして、ジョゼフはマリカの方に向き直ると、
「マリーナは最後まで、マリカに会いたいと言っていたよ。だが、ワシのふがいな
さで、とうとう、会わせてやることはできなんだ。」
ジョゼフは首を振って悲しそうに答える。
「そして、マリーナの侍女として、よく仕えてくれたミーシャも、数年前に亡くな
ってしまった。もはや、このワシにはルミアとミリーしかおらんのだ。」
ジョゼフは、そう言いながらルミアとミリーの肩を抱いた。
「わたくしは、あの事件で姉が行方不明になった後も、二人で結んだ約束は忘れて
いませんでした。それで、娘が生まれたとき、すぐさまラミアと名付けたのです。」
「だからこそ、この子の名前はルミアなのだよ。」
「ああ、なんということでしょう。」
マリカは、仲の良かった姉マリーナの忘れ形見、ルミアを抱き締めた。詳しい事
情を知ったランベル卿も、うつ向いたまま何も言わなかった。
「ジョゼフ。これほどまでにラミアに似ている姉の子ルミアが、このまま平民とし
て暮らすなんて、わたくしには我慢できませんわ。ぜひ、ルミアにも貴族としての
たしなみと物腰、立ち振舞いなどを教えたいのです。それで、しばらく、ルミアを
お預かりしたいのですけれど、よろしいかしら?」
ジョゼフはマリカに直接答えることはせず、ルミアにたずねてみた。
「ルミア。ああ言って下さっているのだが、どうする?」
「……あたしには判りません。」
以前のように父と暮らしたいという気持ちと、マリカの申し出を断わるのは失礼
に当たるのではないかという相反した思い。真実を知ってしまったショックもあっ
てルミアは混乱していた。
「ふむ。ではルミア。一度、ランベル卿のところでお世話になってみなさい。そし
て、どうしても貴族の生活が合わないと思ったら、帰ってくればいい。」
そして、ジョゼフはマリカの方を向く。
「聞いての通りだ。ルミアをよろしくお願いしたい。ただ、一つ言っておくが、も
し、ルミアが帰りたいと言ったら、帰しておくれ。」
「ええ、判っておりますわ。」
「それから、これは余計なことかもしれぬが、ルミアが幼かった頃から、ミーシャ
は貴族としてのたしなみをある程度教え込んでおったようだから、あまり手間はか
からないだろう。では、よろしく頼むぞ。」
ジョゼフはマリカを見つめたあと、ランベル卿にも頭を下げる。
ランベル卿は軽くうなずくと、ラミアとルミア、それにマリカを連れ、馬車に乗
り込んだ。
「ああ、ルミア。あなたがあたくしの従姉妹だったなんて、とても嬉しいわ。」
走り始めた馬車の中で、ラミアはそう言ってルミアに抱きついていた。
「え、ええ。」
ルミアは戸惑いの色を隠せず、半ば呆然としたまま、生返事をする。
その様子をマリカは微笑みながら見ていた。
屋敷に戻ると、ルミアは今まで使用していたのとは別の新しい部屋をあてがわれ、
シノーラがラミアとのかけもちでルミアの侍女を務めてくれることになった。他に
もルミア専門の召使いがシノーラの配下として数名あてがわれ、その扱われ方にル
ミアはますます戸惑った。
次の日、ランベル卿自らがフロール卿とファルルへお詫びをするために屋敷を出
発した。ラミアとルミアも当事者として同席することになり、マリカと共に馬車に
乗り込んでいた。
半日程かけてフロール卿の屋敷に着いた一行は、フロール卿とファルルに頭を下
げて詫びると共に、ルミアのことを含めて、昨日判明した事実を説明した。
「本当はルミアという御名前だったのですね。昨日まで、ラミアという女性がどう
いう方なのか判らなくて、ずっと結婚を迷っていたのです。」
ファルルは、そう言いながらルミアの手を握り締める。さらに、続けて何かを言
おうとしたとき、廊下の方がなにやら騒がしくなった。
「何事じゃ?」
フロール卿が席を立ちかけたとき、広間の扉が開いて、ファルルの弟フェミルが
入ってきた。
「何じゃ。お前か。」
フロール卿は、入ってきたフェミルを呼び寄せると、皆に紹介する。
「息子のフェミルです。ファルルの弟なのですが、困ったことに放蕩の癖がありま
してな。今までも、家を空けたまま、しばらく帰ってこなかったのです。」
しかし、フェミルは挨拶もせず、ただじっと一点のみを見つめていた。
「フェミル。フェミル! どうしたのだ。皆様にきちんと挨拶をしなさい!」
その言葉でハッとしたフェミルは、あわてて挨拶をする。しかし、心はここにあ
らずといった様子で、挨拶もそこそこに再び一点だけをじっと見据えている。
「いったい、どうしたというのだ? お前らしくないぞ。」
しかし、フェミルは、ずっと一点を見据えたままだった。
その視線の先には、やはりフェミルに気付いて見つめ返すラミアの姿があった。
「まさか……。」
フェミルが小さくつぶやく。
「まさか……ルーラか?」
「やっぱり、ラフラなの?」
フェミルのつぶやきに、ラミアも疑問を口にする。
「参ったな、こりゃ。」
思わず天井を仰ぐフェミル。
「いったい、どうしたというのだ?」
再び、フロール卿がたずねる。ランベル卿もまた、ラミアの様子に気付いていて、
フロール卿と同様にたずねていた。
しかし、二人には他の言葉は聞こえていなかった。
「ラフラ。本当はフェミルっていうの?」
ラミアの言葉にフェミルは首を縦に振ると、こんどはラミアに聞き返す。
「ルーラ。君の名前は本当にルーラなのか?」
「ごめんなさい。本当はラミアっていうの。」
そのあと、訝しげに見つめる二人の卿に、それぞれ説明を始めた。
−−− 続く