#474/3137 空中分解2
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ブリキ怪人 4 永山
★内容
「料理の道具は良い物ばかり揃ってました。材料の方も、色々な物がたくさ
んあります。不自由はしないで行けそうで、ほっとしましたわ。」
白島が言った。続いて木沢。テーブルにはフランス料理らしき物が列んでいる。
「早めに片付けなければならない物を調べてみますと、ここにあるような料
理を作るのが最善のように思えました。お口に合わない方もいると思いますが
・・・。」
「いやいや、これでよろしい。一度は食べてみたいと思っておったのだ。」
全員の中で、一番西洋料理嫌いに見える秋元老人が言った。
「昭代も、これを作るのを手伝ったのか?」
「はい。」
夫の言葉に、妻ははっきりと答えた。意外そうな顔で自分の妻を見る老人。そ
して言った。
「気に入ったのがあれば、家に帰ってから作ってくれんかの。かっか。」
「無事に帰れたらね。」
折角、忘れていた事を思い出させる言葉。発言者は太川だ。
「何を言う!」
老人が怒鳴ったが、太川は気にも止めない様子である。
「事実は事実として受け止めなきゃな。この考えを徹底できたからこそ、僕
は今の地位にあるし、これからもあるはずだ。」
「そういう問題ではないでしょうが、太川さん。」
向坂が口を出した。本物の地天馬なら、取っ組み合いになるかもしれないとこ
ろだが、向坂ならどうであろうか。
「私が思うに、今度の事件は・・・。」
「おおっと、名探偵の名推理は、食後のデザートにしてもらいたいな。そう
でなければ、ただでさえ冷たいフランス料理がなおさら冷えちまう。」
それは事実であった。フルコースのように順に出すのならまだしも、人数等の
問題もあって、テーブルには既に全ての皿が列べてあった。
「とにかく、食べましょうよ。」
進道が言った。それを機に、食事が始まった。
目の前には前菜がある。変わった色のクリームソースがかかったきゅうりと
メロンのあいのこのような物体がサイの目状になって盛られている。横には、
エビを薄く切った物が添えられていた。緑の物体の方を、ナイフとフォークを
操って口に運ぶと、外見とは全く違う味がした。あまり上等でないマグロみた
いだ。エビはエビの味だったので、ほっとした。
スープはただのコンソメだった。コーンポタージュの方がよかったのだが、
まあ、これも飲める。ちょっと味が濃いような気がした。
次に手を着けたのは、プリンの形をした茶碗蒸しみたいなのに、ソースのか
かった物。何か魚の味がした。ムニエルというやつだろうか。
次はサラダ。レタスにドレッシングがかかっただけの物だ。あの酸っぱいド
レッシングは苦手なので、よく切ってから口にした。
肉は牛のようだ。皿に比べて肉が小さいのは、在庫量の問題ではなく、フラ
ンス料理の常識なのだろうか。でも、軟らかくてうまかった。付け合せのニン
ジン・ジャガイモ・アスパラも、上手に煮込んである。フランスパンとよくあ
った。しかし、この固さでは、秋元老人等は食べづらいのではなかろうか。と、
秋元老人に目を向けると、初めは悪戦苦闘していたようだが、次第にスープや
ソースにパンを浸して食べ出した。マナーとしてはいけないのだろうが、仕方
あるまい。
最後にコーヒーにデザート。デザートと言っても、推理の事ではない。ババ
ロアみたいな物にイチゴとキーウィといった果物が添えられ、ソースがかかっ
ている。甘さは丁度よい。ただ、スプーンがあれば食べ易いと思った。マナー
を無視してまでも、スープ用のスプーンを使う気にはなれなかったが。コーヒ
ーはカップが小さく、飲んだ気がしなかった。ごちそうさま。
全員が食べ終わったところで、太川が、地天馬に成りすました向坂につっか
けてきた。
「さて、第二のデザートといきますか。お説、拝聴ってね!」
どうも相手が悪いと思う。本物の地天馬ならともかく、替え玉ではかなうまい。
替え玉であること事態が、負目になっているとも言える。
「・・・現時点で想像し得る範囲で話しましょう。さらに、私の立場で推理
をします。つまり、第一に私は犯人ではないという事を前提とします。」
「まあいいだろう。聞かせてもらおう。」
太川は威勢がいい。やっぱり、相手が悪い。
「前提を認めると、私の連れも犯人ではありません。メイド殺しがあった時、
私と一緒にいたのですから。同じく、山脇さん、野岸さんも犯人ではありませ
ん。私達が外回りを捜索している時、彼ら二人が庭で話をしているのを聞いて
います。」
この言葉を聞いて、安堵の表情を見せる野岸。山脇の方は当り前だと言わんば
かりである。彼にとっては、犯人がどうのこうのよりも、ここから逃げ出す事
が大問題なのだろう。
「第一発見者となった秋元さん夫婦も、犯人だとは考えにくい。二人の証言
を聞く限り、一度人形の間を出、また戻って死体を発見するまでの時間が、か
なり短い。秋元さん達が犯人だとしたら、誰もが犯人であり得るような状況を
作り出すために、もっと余裕を持って証言をしていいと思うのです。さらに、
犯人としてはなるだけ、死体発見を遅らせたいはずです。秋元さん達の言動は
そんな犯罪者心理と矛盾しています。」
「いや、見事見事。わしらが犯人でない事はわしらが一番知っておるが、そ
れを証明してくれたようなものだ。かっかっかっか・・・。」
秋元老人は、豪快に言い放った。手には、ナイフ・フォークが使えぬからと用
意してもらった割箸がある。
「どうも。さて、残るは五人。ここからは動機に目を移します。消失したき
りのブリキ怪人・桐場氏は、メイドを殺す動機がありません。足の不自由な桐
場氏にとって、メイドは絶対に側にいてもらわないと困る存在のはず。彼女を
殺す事によって、何のメリットも受けはしないでしょう。
動機と言いますと、あとの四人の中で、一番強い動機を持っているのは、桐
場氏に刑を宣告された太川さんと木沢さんでしょう。殺される前に何とかしよ
うと考え、桐場氏あるいはメイドを殺そうと思っても、不思議ではないでしょ
う。」
言葉を切った向坂に対し、太川が何かを言おうとしたようだが、結局、何も言
わなかった。木沢の方は相変わらず、静かに、穏やかに座ったままだ。
「もう少し考えてみますと、メイドを殺した凶器に思い当たります。あの斧
はこの広間の壁に掛かっていた装飾品の一つだった訳ですが、かなり重たい物
です。それを振り上げて凶器に使うとなると、男性の方が有利なはず。」
「すると何かい? この俺が殺したって言うワケ? あ、そう。名探偵の風
評も当てにはならないんだな!」
「まだ、そこまでは言っていませんよ。警察が考えるように推理を進めると、
あなたが最有力容疑者になるという事を指摘したまででして。何か反論は?」
「反論? そりゃ、感情的なものなら、いくらでもできるがね。今、この身
にかけられた嫌疑を覆すだけの物的証拠はないな。彼女の証言じゃ、駄目なん
だろう?」
太川は進道の方を横目で見ながら、落着き払った態度で言い放った。
「言うなれば、身内ですからね。できれば、他の方の証言がいいのですが。」
「そういうのはないな。でも、だからと言って、俺を犯人だと断定できる訳
じゃあるまい?」
向坂の答えを待つ太川。しかし、答えるまでもないと思ったのか、向坂は黙っ
たままだった。それで間が持たなくなったか、太川が再びしゃべり出す。
「それにだ、一種の正当防衛が成り立つんじゃないの? 軟禁状態において、
<処刑>を宣告されたんだ。恐怖のあまり、衝動的に<敵>を殺そうとしても、
いいのじゃないのかね?」
「それは難しいのではないかと思いますがね。過多の恐怖による、心身喪失
状態と言えなくはないでしょうが・・・。過剰防衛はまぬがれないかもしれま
せんよ。警察の前に出た場合、あなたの態度は、我々によって証明されるでし
ょうから。」
「ふふん。どっちでもいいさ。基本的に、俺は殺していないんだからな。」
太川は全く、焦った様子を見せない。これは外れだな、と私は感じた。一応、
中途の推理だと釘を刺してはいるものの、地天馬の名に泥を塗る事となるか・
・・。これはもう、本物が来て、一刀両断に事件を解決するしか、回復の道は
ない。
「これ以上話し合っても、泥仕合に終始するだけだと思いますが、如何でし
ょう。もう遅くなりましたし、お休みになられては。」
木沢が提案した。確かに、半日の間に色々な事が起こり、全員の疲労はかなり
たまっているはずだった。少なくとも、私はそうだ。
「そうだ。早いとこ、休んで、突発事に備えるのがいいだろう。」
山脇が同意した。その言葉に、野岸が疑問をぶつけた。
「突発事って?」
「真夜中に、何か大事が起こるかもしれないってことだ。可能性は否定でき
まい。」
一理あるな、と思った。私と同じように、全員が納得したのか、部屋に戻って
眠ろう、となった。
「鍵、かけとけよ。」
私は向坂に言った。相手はのんきな調子で答える。
「狙われているのは、他の招待客だろう。俺達は安心してもいいと思うが。」
「いや、用心するに越した事はない。だいたい、変じゃないか。何故、わざ
わざ名探偵を招く必要があるんだ? 復讐をするなら、勝手にやればいいじゃ
ないか。これは油断させておいて僕達、いや名探偵である君を殺すための罠か
もしれないぜ。」
「そ、そんな!俺、替え玉なのに。」
「大声を出すなって。隣の人に聞こえる。で、替え玉の事だが、ブリキ怪人
は知らないんだ。身代りとなって、殺されるかもよ。」
私が脅かすと、向坂は慌ててドアに施錠した。そんな彼に、私は言った。
「もう少し、マシな推理を組み立てようぜ。」
「俺、思うんだけどな、メイドが殺されたんだから、桐場は何か行動を起こ
していいと思うんだ。桐場にとって、メイドは必要人物であるはずだからな。
なのに、何の行動も起こしていない。となると、考えられるのは、
1.桐場がメイドを殺した。
2.桐場にとって、メイドは必要ではなかった(殺したのは別の人物)。
3.桐場はメイドの死を知らない
4.桐場は行動不能の状態にある。あるいは死んでいる。
の四つが考えられると思うんだ。」
ふーむ。向坂の考えは、なかなかいいセン行っていると思う。二人で考えてい
る分には、名推理に思えるのだが、人前で話す内にボロが出てくるんだな。
ともかく、もう少し検討を重ねようとしたのだが、やはり疲れのためか、中
途半端なまま、眠ってしまったようだ・・・。
朝。私は場違いな感じのする大声で、目を覚ますハメになった。
「死、死んでる!」
その後、表記し難い悲鳴が続いた。時計は午前七時を少し回っていた。横を向
くと、向坂も目を覚ましたようだ。同時に、私と向坂は顔を見合わせた。思っ
た事は同じに違いない、誰が死んだのだろう、と。
「どうやら、屋敷の外のようだ。」
聞き耳を立ててから、私は判断した。部屋に備え付けてあったガウンを引っか
けると、無言で玄関を通り、外に向かう。途中で他の人と合流した。木沢・白
島・秋元昭代の調理場メンバーは、もう準備にかかっているのか、来なかった。
「先ほどの声は誰ですかな?」
秋元老人が言った。誰も答えられない。仕方がないので、声の方向を目指す。
庭を通り、外回りの狭い部分に来た。
「お、あそこらしいな。」
太川が顎で方角を示した。腰を抜かした格好の野岸の姿が目に入ってきた。い
つから外に出ていたのだろうか。
「どうしたんですか?」
誰もが彼女に声をかけた。少しの間、黙っていた野岸はゆっくりと口を開いた。
「あそこ・・・。」
夢見心地のままのように、彼女は手をゆらっと持ち上げ、崖の向こう側を指さ
した。何かが見える。紺色の服を着た人の形。
「山脇さんじゃないか?」
向坂が叫んだ。間違いなかった。
「早いとこあそこに行って、調べてから、弔ってやらないと。」
秋元老人が言った。そう言えば、メイドの死体に毛布を掛け、庭の隅に安置す
るよう提案したのは秋元夫妻であった。
「そうだな。え?」
行動を起こそうとした我々であったが、ふと、疑問にぶつかった。山脇さんら
しき遺体は、崖の向こう・・・。
「どうやって渡ったのかしらね?」
進道が、ストレートに謎を口にした。それは確かに、大きな謎であった。
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山脇氏・遺体発見時状態
**** 崖 ******* 崖の向こう側(対岸)とこちら側
**** ******* (屋敷側)で、高低差はほとんど
対 **** 深 ****ブ屋* なし。吊り橋は完全に落とされ
岸 *山脇* さ ****リ敷* おり、修復不可能と思われる。
**** 20 ****キ * た、屋敷側に、崖を渡るよう
**** メートル ******* 具、もしくは橋の代わりになるよ
**** 以上 ******* うな物はなかった。
崖を一度降り、また登るという
|−−−−| 芸当も、道具なしでは無理である。
5〜7メートル
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−以下5−