AWC 『ファントム・オブ・ネット』           三鷹板吉


        
#469/3137 空中分解2
★タイトル (QYA     )  90/ 5/29   8: 5  (131)
『ファントム・オブ・ネット』           三鷹板吉
★内容
 アマチュアライターズクラブの皆様、初めまして。私は「愛と信仰の部屋」というSIGのSIGOPをやらせていただいていました、「さんじゅわん」と申す者です。

 「愛と信仰の部屋」は、宗教について語り合うSIGでした。
 昨年11月の開設以来、参加者も日を追って増え、「現代における信仰とは」「神の愛について」「私の信仰体験」といったテーマが盛んに語り合われました。

 まことにパソコン通信をやっておられる方々の中には、心に深い悩みをお持ちの方が多数いらっしゃるようでした。私は、現代という時代の病根の深さをあらためて知り、SIGの繁栄をも素直に喜べない気持ちでした。

 そんなある日、「三鷹」と名乗る人物が「愛と信仰の部屋」に現われました。「三鷹」は、なんでも「極めて低俗な漫画週刊誌の編集者をやっている」とかで、「たとえ商売のためとはいえ、純真な若者達を暴力とセックスを売り物とした漫画により、みすみす悪魔の道に走らせる苦悩」を切々と告白しました。
 その悩みの深さには、私「さんじゅわん」も思わず涙するほどでした。さっそく励ましのMAILを送り、「自らの悪を悟った者こそ、もっとも神の道に近い」という真理を伝えました。

 「三鷹」はそれから盛んにMSGをUPするようになりました。そのタイトルの一部を紹介します。

124 89/12/22 「さんじゅわん」さん、ありがとう! 三鷹
128 89/12/24 信仰の光 三鷹
140 89/12/25 信じる者は救われる 三鷹
164 90/ 1/ 7 三鷹の信仰体験  三鷹
168 90/ 1/11 神の愛について(1) 三鷹
177 90/ 1/11 神の愛について(2) 三鷹
181 90/ 1/12  街角で出逢った小さな天使 三鷹

 これらのMSGの全てが、「三鷹」の信仰の深さ、神に対するこの上ない敬愛の気持ちが現われていました。
 この「三鷹」が、実はとんでもない悪魔に他ならなかったということを知った時の私の驚きは、いかに言葉を尽くしてもお伝えできないでしょう。

 発端は、ささいなことでした。「三鷹」のMSGの中に、神の概念について、やや間違っている個所が見受けられたので、MAILにより、さりげなく注意を促したのです。
 ところが、それが「三鷹」の気にに触ったようでした。
 彼は、激しい論調で私にMAILを返した後、困惑した私が相手をし兼ねていると見るや、ボードを通じて攻撃を仕掛けてきたのです。そのタイトルの一部を紹介します。

252 90/ 1/20  「さんじゅわん」さんに失望しました 三鷹
268 90/ 1/23  「さんじゅわん」さんへの公開質問状 三鷹
277 90/ 1/25  真の信仰にとは? 三鷹
280 90/ 1/26  信仰を汚す悪魔たち 三鷹
291 90/ 1/28  警告>「さんじゅわん」こそ悪魔だ! 三鷹

 この論争(?)は、SIG全体を巻き込む大騒動となりました。多くの参加者によりMSGがUPされ、事実上、他のテーマについての論は停止状態に追い込まれました。
 当初は「三鷹」を支持したメンバーも何人かいました。しかし、「三鷹」のMSGがさらに激しさを増し、それが明らかに私「さんじゅわん」への理不尽な攻撃であり、さらには「愛と信仰の部屋」の「信仰」そのものをも破壊するものであるということが判明して以後は、「三鷹」は完全に孤立してしまいました。

 「三鷹」は私に和解を申し入れ、私は喜んでそれを受けました。
「過ちを改むるに、はばかることなかれ」という真理に基づいてのことです。しかし、それこそが、さらなる「過ち」に他ならなかったのです。

 「三鷹」は、しばらくなりを潜めていました。その間に新たなメンバーが何人か「愛と信仰の部屋」に参加しました。その多くが、積極的にMSGをUPしていました。

 まず、「山根曽太郎」と名乗る人物です。彼は「名古屋のパソコンショップ経営者」と自称していました。幾つかのMSGをUPした後、「山根」はSIGを通じて「霊障を祓う開運のワープロソフト」として「言霊」という奇怪な名前のソフトの通信販売を開始したのです。
 彼は「人間は皆、先祖の霊障を背負って生きている。人生における不幸の多くは、この霊障に由来する。それを祓うには、信仰だけでは足りない。このワープロソフトを使用することにより、救われる」と言うのです。
 値段は30万円という、法外なものでしたが、参加者の何人かは購入したようです。もちろん、盛んな論議を呼びました。私もSIGOPとして、「そのような商行為は遠慮して欲しい」とMAILで要請しました。

 時を同じくして「緑子」と名乗る女性が登場しました。彼女は「勤務先の上司と不倫の関係を余儀無くされ、彼とその妻、さらに自分の若い恋人との四角関係に苦悩している。今はただ、信仰の道に救いを求めている」ということでした。
 彼女が自らの境遇を赤裸々に描写したMSG「我が肉体の悪魔」は、20数回の連載となりましたが、参加者の多くの共感を得て、「緑子さん、負けないで」といった応援MSGも盛んにUPされました。私は「緑子」のMSGの、とりわけ性描写の露骨さには、さすがに嫌悪感をおぼえ、「自制して欲しい」とのMSGをUPした記憶があります。

 「三鷹」は、そんな私を常に積極的に支持してくれました。
 「山根」を「信仰を汚す守銭奴」と非難し、「緑子」をも「肉欲にただれたメス豚」と罵倒して。その信仰の純粋さには私も驚きました。
 しかし、それこそが悪魔の恐るべき策略だったのです。

 それを知ったのは、一通のMAILでした。VAN当局に近い人間なので、名前は伏せさせていただきます。「現在あなたのSIGで盛んにMSGをUPしている人間の幾人
かは、同一の人物と思われる」というのが、その内容でした。

 何度かのMAILの往復により判明したのは、「山根」「緑子」その他、最近「愛と信仰の部屋」に現れた加入者と「三鷹」の住所・電話番号が同一のものだった、という恐るべき事実でした。
 「こういう行為をアメリカのネットなどでは『ファントム』=『幽霊』と呼ぶ」ということも初めて知りました。
 ダウンロードファイルを調べた結果、「三鷹」のファントムは10名近くに及ぶことが分かりました。その中には、「三鷹」出現以前から、私と幾度かMAILを交わしていた人物もいたのです。

 まさに「三鷹」は悪魔です。彼はファントムを駆使することにより「愛と信仰の部屋」の活動を妨害しました。その上、人間相互の「愛」と神に対する「信仰」をも、「物欲」と「肉欲」とを武器に、見るも無惨なまでに破壊し尽くしたのです。

 私がそのことに気付いた時はすでに遅く、「愛と信仰の部屋」は、かつての理想はかけらもなく、参加者たちの醜い欲望により、混乱の極みを呈していました。

 「三鷹」とファントム達は、私の抗議を待たずにSIGから姿を消しました。参加者の誰かが、MAILにより警告したのかもしれません。
 それと同時に、SIGは完全な廃墟と化し、先日閉鎖されました。

 ところが、さらに恐るべき事実が判明したのです。先日、古新聞を整理していたところ、2か月ほど前の社会面の片隅に、以下のような記事が乗っていました。

「パソコンマニア、刺殺される」

「3月2日、三鷹市上連雀*−*−*のアパートにおいて、腐乱死体が発見された。室内からの異臭を感じた住人の苦情により、家主が合い鍵で中に入ったところ、住人****さん(30歳)と思われる男性が台所で死んでいるのを発見、三鷹署に通報した。検視の結果、死因は刃物による失血死、死後2週間を経過していた。アパートの隣人である予備校生A(19歳)が、この数週間部屋を開けており、警察はAを重要参考人として手配した。近所の主婦B子さんによれば、**さんはパソコンを所有しており、それを連日深夜に渡って使用する騒音に対し、隣人であるAは何度か抗議し、最近は激しい罵り合いになっていた、とのこと。(以下略)」

 この****という名前こそ、私が知っている「三鷹」の本名なのです。単なる同姓同名なのでしょうか?

 それとも、当アマチュアライターズクラブに怪しげなMSGを盛んにUPしている三鷹こそが、まさに「ファントム(幽霊)」に他ならないとしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?
                                     (了)



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