AWC 星座を守る会    NINO


        
#1804/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HYE     )  89/ 8/31  23:49  ( 74)
星座を守る会    NINO
★内容


   「星座を守る会」


  今や人類が銀河を闊歩する時代、我々地球人の科学は、ダイソンの予言のと
 おり、恒星を壁で包み込み、恒星の持つすべてのエネルギーを丸ごと利用する
 段階まで達したが、有識者が言うことに、太陽に対してはそれをしてはならぬ、
 地球を殺してはならぬ、地球のすべてをまだ知り得た訳ではない、我々地球人
 が地球を捨ててはいかん、などと自分達人間どもに都合の良い考えを展開して
 いる一方で、他星系に飛び出して、この恒星系には生物がおらんなどと、ろく
 に調べもせず、勝手なことを言い、さっさと恒星の開放する全照射エネルギー
 を搾取せんと、光輝く星を覆い包む工事を進めるという始末、この時代、あい
 もかわらず人類は誠に傲慢な態度を変えてはいなかった。
  地球に住む大富豪達の中の中流家庭、そこそこの富豪の息子、田辺竜一とい
 う男子がこれを聞き、何と人類は愚かな欲望に満たされていることかと思い、
 近所の馬鹿息子どもを従えて環境保全団体を結成するに至り、その名を「星座
 を守る会」とし、何千何万年後の地球の子供のために星座を守ろうなどと、た
 わけた名目を掲げ、寄付金を集め、地球から見える星という星、恒星という恒
 星を買いあさり、それを覆う工事を中止させていった。
  タダ同然に恒星を買い、開発していた恒星開発会社は次第に自由に出来る恒
 星を失い、数の少なくなった恒星は当然のように値上がりを見せ、不動産屋は
 ぼろ儲け、不動産屋たちはさらに外へと跳躍しては恒星の軌道につかまり、一
 定年そこで暮して新たな恒星の所有権を得るという、子供の陣取り遊びに通じ
 る所有権獲得にさらに拍車がかかった。
  田辺竜一はこれ以上対象となる恒星が増えつづけると、星座を守る会の寄付
 金で追い付かないと悟り、もともと、星座を作っている星が既に消滅していて、
 現存していないという事実を、今気付いたかのように発表し、「星座を守る会」
 をおしまいにすることとにした。
  「星座を守る会」の所有していた莫大な数の恒星の所有権が、ただ同然にば
 らまかれると、恒星の値段は下がる一方、困まりはてた不動産屋、これは何と
 かせねばならぬ、銀行という銀行から金をかき集め、恒星の買い占めをせんと
 企み、これをまたお坊ちゃま育ちで世間知らずの田辺竜一、恒星をまとめて不
 動産屋に売る暴挙に出て、結局、独占市場のままの恒星市場、これは困ると役
 人は頭をひねり、所有権の発生に問題解決の糸口があるとひらめき、一定年そ
 の恒星軌道で暮らす者がおらねば、所有権は国に帰すとし、再び頭を抱える不
 動産屋、産めよ増やせよかけ声高く、子供をつくり、軌道上の宇宙船に一人の
 子供を詰め、恒星という恒星に捨てていくというありさま、これに腹を立てた
 恒星開発企業、宇宙ヤクザを雇い、年端もいかぬ子供を、あの手この手で意地
 悪したり、脅したりして、子供をお家に帰らせると言う、地下げ屋まがいの児
 童虐待をやってのけた。
  お見合い結婚を親父の仕掛けた政略結婚とも知らず、のうのうと新婚生活を
 エンジョイしていた田辺竜一、妻にこれは子を持つ親として、絶対に許しては
 おけない事態よ、あなたなんとかして、ねぇあなた、なんとかしてくんなきゃ、
 アレしたげないから、などと詰めよられ、まだ子供も産まれないくせに、子を
 持つ親の気持ちが解るかこのアマ、とは言わず、ただうなずき、それは許して
 おけんなどと、新妻に格好つけたい一心で、「スターチャイルドを守る会」を
 発足させ、寄付を集め、ボランティアを募り、宇宙ヤクザを撲滅するために、
 おばさんパワーを集結させていった。
  よく事態を理解していない田辺竜一、スターチャイルドと格好の良い名前を
 つけた子供達が、実は不動産屋の横暴で監獄のような宇宙船に閉じこめられて
 いるとは知らず、宇宙ヤクザを撃退し、お節介なことに各個家庭を訪問し、子
 供を連れだし、宇宙船に詰めて恒星に飛ばすという、あきれかえるような運動
 を全宇宙規模で展開、不動産屋の資金援助にも助けられ、新妻との性生活も絶
 好調、ますますいい気になっていった。
  しかし、この時代、そのような愚行を黙って見逃すような大衆はおらず、世
 論は家庭に子供を取り戻そうという声となり、ホロ・テレビでそのことを知る
 なり、田辺の新妻、がらりと態度を変え、あんたは子供を恒星でひとりぼっち
 にさせて平気でいられるの、あんたには人間の心というものがないの、すぐに
 この運動をやめなければ、アレしたげないから、などと、正反対のことをいい、
 アレを盾に取られると弱い田辺竜一、ごめんなさいと一言謝り、「スターチャ
 イルドを守る会」を消滅させた。
  子供が一人、また一人と、まるで枯れ葉が元の枝に戻って行くかのように、
 家庭に子供は戻り、恒星の所有権は国に戻り、国はタダ同然の値段で恒星開発
 会社に売り出しはじめ、恒星は人類の手で、ひとにぎりの光をも外に漏らさな
 いように遮蔽されていくのである、そして時の経つのは早いもの、あっという
 間に一世紀が過ぎ去るうち、田辺竜一は死に、新妻もお骨となって、息子は竜
 一の遺産を相続し、世間を知らずに不労所得をむさぼるのであった。
  そして、ここで息子は思う、なんと人類は愚かな欲望に動かされていること
 か、このままでは宇宙に光がなくなってしまう、と近所のドラ息子達を集めて、
 「星の輝きを守る会」を発足したのである。


  おわり




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