AWC 大型リレー小説>第14回「ティハヤとガイア」 SOPHIA


        
#1802/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (WYJ     )  89/ 8/30   0:16  (122)
大型リレー小説>第14回「ティハヤとガイア」 SOPHIA
★内容
  喜三郎と手児菜はクエストと別れ、店を後にした。
  ふぐも結構いけたが、それよりも二人はクエストの話の内容に気を取られて
 いた。
          −−− あの平和な時間に戻れるかも知れない。

  だとしたら、みんな何という長い悪夢を見ていたのだろう。
  しかし、それにはまずグー星人の問題を解決し、その上であの懐かしい時空
 へと戻る道を見付けねばならない。これは大変困難な事だ。

  この異空間になぜか存在する、平凡なあぜみちを歩いている内に二人は小高
 い丘にさしかかった。
  どちらからともなく今来た方向を振りかえったが、そこにもう店は見えない。
  風景は一転し見送りに立ってくれていたクエストの姿も無く、山も消え去り
 今来た道は見た事もない紫の花の花畑が現れ消しさっていた。
  手児菜は心細さに身体を震わせた。

  目前には荒涼たる草原。空には厚い鉛色の雲。ここは一体どこなのだろう。
 「殺風景ね。・・・私たちこれからどこへ行けばいいのかしら。あてなど無い
  のだもの・・・どこでもいいなら私海が見たいわ。」
  すると手児菜の言葉が終るか終らぬかのうちに足元に波が打ち寄せた。
  現実の海そのままの水の感触、潮の味、波の音。手児菜は言葉を失った。

 「・・・喜三郎くん。ここは、まるで夢の中の様な世界ね。」
  手児菜は喜三郎に話しかけたが返事は無かった。見渡したがどこにもいない。
 「・・・喜三郎君?・・・喜三郎君、どこに行ったの!?」
  独りぼっちにされた心細さに手児菜は大声で彼を探した。

  すると手児菜の背後から何者かが答えた。
 「喜三郎は力であるが本質ではない。ゆえに私があなた一人をここへ呼んだの
  です。彼はあなたと共にゆく為下の次元にとどまり、あなたを待っている。
  安心するがよい。」

  驚いた手児菜が振りかえるとそこに数人の天使(?)が立っていた。
  翼と長い髪を持った白くまぶしい存在。その中央に一人だけ髪も瞳も翼も黒
  い(しかし最も美しい)天使が立っていた。
  手児菜はその黒い天使に目を奪われた。やさしい眼差しも、愛らしい唇も、
 少女の様な顔だちの黒い天使。彼(彼女?)は手児菜に微笑んだ。

  その笑みに答える様に無意識に手児菜は天使のそばに歩みより尋ねた。
 「・・・クエストさん?」
  黒い天使は答えた。
 「いいえ、私はクエストではない。」
  何故自分がそんな質問をしたのか、恥しくなって手児菜は思わず顔を真っ赤
 にした。この天使がクエストのはずはない。しかし心持ち気配が似ている。

  手児菜は天使の慈愛を感じつつも、その威厳に思わずひざまづいた。
 「高次の方よ。私にこの領域への立ち入りをお許し下さった事を感謝いたしま
  す。重ねてお願い申し上げます。我々はどのようにすればグー星人に勝利し
  元の世界に辿りつけるのでしょうか、どうかお教え下さい。」
  天使はニッコリ笑って言った。その笑みはどこまでも愛らしい。

 「愛しい魂、手児菜よ。あなたを導く為に私は来ました。クエストの配慮によ
  り、あなたと話せる機会を得られ感謝しているのは私なのですよ。あなたに
  この様な大任を負わせた事を私は申し訳なく思っています。」

 「聞きなさい手児菜。あなたたち地球人にとってグーの民は単純な悪でしょう
  が、我々高次の者はその様に考えません。彼らは星を失った民。彼ら自身の
  分裂と対立も幾多の経緯の果てにあるのです。」

 「白鳥座の星域には高度な精神文明を築いた種があり、あなたがたの次元では
  宇宙の平和繁栄に大きく貢献しています。あなたもそれに気付いていますね。
  しかし、彼らも完全ではないのです。」
  天使の言葉に手児菜は激しく混乱した。グー星人が悪ではない?

  黒い天使の言葉は同時に一つの呪文の様でもあった。聞きながら手児菜は自
 分が次元を遡って目指す世界へ飛ばされているのを感じていた。

 「精神に干渉し、複数の次元に干渉するグー星人にどの様にして「勝つ」とい
  うのですか?一つの次元での生死の問題ではないのです。事実、グー星人は
  あなたがた本来の次元では実体すなわち肉体などのような依存出来る物質的
  な依りどころを持っていないのです。」
 「モノリスはあなたの力になってくれるでしょうが、本当の救いは与える事の
  中にあります。それは悟りと言われるものに近いでしょう。グー星人のいわ
  ば「餓え」を満たす方法はありません、彼らはもう「満ち足りる」という事
  を忘れているのですから。」

  流される様に次元を越えてゆく手児菜を黒い天使のメッセージが励ました。

 『手児菜、あなたを選んだのは私なのですよ。あなたの本質は私ととても似て
  いるのです。私はグー星人の母星「ティハヤ」。グー星人の悲劇は私の悲し
  み。それゆえ私はあなたの力を求めたのです。あなたを見付けた時の私の喜
  びは・・・あなたの母性・・・魂でグー星人に「知らせる」事が・・・』

  うねる波に呑まれる様な感覚の中で手児菜は自分の身体がどんどん小さく縮
 んでいくように「思った」。しかし苦痛はない。

 『・・・考えて・・・日本は地球の大陸の雛がた。アフリカ=九州・・・四国
  =オーストラリア・・・ユーラシア=本州・・・北米=北海道・・・南米=
  台湾・・・淡路島はその日本のヘソにあたろう。イザナミのミコトとイザナ
  ギの・・・ミコトの鉾の先から最初・・・に落ちた雫。最初・・の地、淡路。
  カイロン=淡路とクエストの関係を思う時・・・あなたは気付く・・・』

  少しずつティハヤと名乗った天使の声が聞こえにくくなって来た。それにつ
 れて手児菜は小さくなり、そして闇に閉じこめられやがて心臓の鼓動に似た音
 が周囲に響いて来た。

 『ゆえに私に・・・対してクエストは・・・地球・・・ガイアの化身・・・地
  球世界においての影響・・・彼に・・・・あなたの守護すら・・今は無い星
  ・・・力弱い私は・・・』

  ますますティハヤの声は遠くなる。
  一瞬、手児菜は自分の「身体」を「内から見た気が」した。恐らく辿りつく
 のは、あのグー星人のたむろする空間、そしてカイロン島。

  ティハヤからの最後のメッセージが届く。
              「・・・・・・・・・・ユキナサイ・・・・・テコナ・・・・・アナタノ・・・コウウンヲ・・・・・」
  手児菜は思った。
           −−− 転生ってこんなものなのかも知れないわ

  その瞬間、手児菜は意識を失った。


  気付くと手児菜は薄暗い、湿気たところにいた。土埃で服がドロドロだ。
  恐らくここは例のカイロン島の洞窟なのだろう。

  少し頭がクラクラする。左手に喜三郎が倒れている。どうやら時間的には
 喜三郎が洞窟に辿りついた後、次元爆弾が作動するまでの間である様だ。
  大丈夫、間も無く意識を取り戻しそうな気配だ。

  安堵の溜息をついた手児菜の耳にかすかにティハヤの声が蘇って来る。
            「・・・カレラモ、カナシイタマシイ・・・」
                         《 つづく 》




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