AWC 世界で一番長い詩 (3)    <猫>


        
#1799/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (SZA     )  89/ 8/29   0:52  ( 87)
世界で一番長い詩 (3)    <猫>
★内容
 平成元年8月27日(土)午後2時40分
 チコの二世が誕生
 妻と看護を代わってから約20回
 ガオオーガオオ-ガオオ-ガオオ-ガオオ-ガオオ-陣痛の唸り
 その度に今まで見たこともない表情を見せた
 色々な形相をした
 赤ん坊の頭が出てきた
 チコは苦しみに耐えきれなくなって
  噛みついてきた 洋ダンスの扉に歯を立てた
 扉を抑えながら がんばれがんばれ と外から声を掛けていた
  そっと覗く
 塊がぼんやり見える
 階下に走って 生まれた生まれた
 昼食を買いに云って戻ってきた 妻
 どれどれ 満ち潮の時間だ
 お尻の辺が血だらけで真っ赤
 袋を噛み契って ペタペタ嘗めている
 妻と顔を揃えて チコを覗く
最初の赤ん坊はどうも動きを見せない
2番目に生まれたのは どうやら動き出す
ネズミの赤子のようだ
2番目の生誕子ははやくも声もたてずに乳房を捜し求めていた
 手をだしっちゃいけない 噛みついてくるかも
一番子はこちら側に首を折ったままだ
三番子は陸に上げられた鰹のように口を開けたままだ
チコは必死に嘗めてやる
1時間は待った 待ちに待った
 仕方がないよなチコ
どちらも二番子よりは3分の1は大きく見えた
とくに顎の辺りが黒ずんで 父親を彷彿とさせた
2匹とも重かった チコにさわってる感じだった
俺の胸の底で熱いものがたぎりはじめた
外は台風17号で土砂降り
 墓はどこにしよう
あの樫の木の下はどおお
  そうだな
合羽に身をかためて 二人に墓を作ってやった
ふたりがキスをしているように横になってしまった
死んでいるとは思われなかった
小さな小さな山を作ってやった
苔をかぶせてやった
股木を探して 両枝を白く削って そこに
梵字まがいの文字に続けて
 死んで生まれた2匹は丁重に悼まれつつ
ぐんぐんと体が造られていくのが知れた
いつまでもいつまでも見て飽かなかった
この宇宙に新しい生命が一つプラスしたのだ
どのような生涯を送るようになるのかは知らぬが
運命に身を任せて雀雀と生きていこうとする一個の生命がある
その尊厳は何よりも立派だ
欲に苛まれて身を窶している人間どもの何と浅ましいことか
俺をほんの一時とはいえ敬虔な気持ちにしてくれてありがとう
 ああ おっぱいがあるから雌だ  と俺
何を仰る  雄でもおっぱいはあるでしょう と妻
  亡くなった兄弟には悪いが
 六つのおっぱいを独り占めにできて幸せだよな チコの二世
何を仰る 八つのおっぱい......
 夫婦が寝室に来ると
 チコは寝室まで追いかけてきて
 チコの二世のそばにいてくれ とせがむ
 まだまだ おさまらないおりものを垂らしながら
妻がそばに寝ることにした
 ハイハイ 寝てやっから 寝てやっから
血だらけの殿部はなめてきれいになった
風呂に入った時のようにきれいになった
たくみな毛繕い
赤子の飲む乳首もことのほか清潔にして
父似だと 黒
母似だと 白
後脚の間にやがてはブランブランようなものが見える
ひそかに 二太(ニタ)と命名した
 翌朝 虹が吾妻連峰にかかる
 雲が疲れてしまっていた 間もなく晴
 もう秋風だ 肌にひんーやり







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