AWC 大型超能力小説 「心の口を閉ざして」    ゐんば


        
#1569/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (GVB     )  89/ 5/22   1: 3  ( 54)
大型超能力小説 「心の口を閉ざして」    ゐんば
★内容

 三本松大学の杉野森研究室は、表向きこそ普通の心理学教室だが、ときどき変わった来訪者が現われる。
「はじめまして。松本喜三郎ともうします」
「私が、杉野森弥三郎です」
「実は……」
「ふむふむ」
「先生、週刊実話がどうかしましたか」
「えっ?」
 弥三郎は一瞬たじろいだが、声をひそめて聞き返した。
「精神感応だね?」
 弥三郎はここ数年来超能力の研究を進めている。しかし、学者としての立場上そのことは決して表には現わさない。
「ええ。人の心の声が聞こえてくるんです」
「どこから」
「こころのここら、って思いましたね」
 弥三郎は言葉に詰まったが、大きくうなづいた。
「すごいじゃないか。私も自称超能力者をいろいろ見てきたが、これだけはっきりした力を秘めた人は初めてだ」
「力が内から、ってなに考えてんですか。僕は怖いんです」
 弥三郎はもはやたじろいではいられなかった。
「怖がることはないじゃないか」
「声がこわぇー、ですか今度は。まあいいです。でも僕は自分の力をコントロールできないんです。時には人の心の中を見たくないときだってあります。こんな力持ってても不便なだけです。どう思います先生」
 弥三郎はせっかくの力を無駄にすることはない、と答えようとしてなにか変だと気がついた。
「もしかして君の力って……」
「そうなんです。だじゃれにしか効かないんです」
 弥三郎は思わずふきだしそうになったが、喜三郎の真剣な表情を見てあわててとりつくろった。
「小さい頃から聞かされ続けたんです」喜三郎は語り続けた。「普通みんなだじゃれって思ってても口に出しませんよね。先生もたぶんそうでしょう。僕だからわかったけど、他の人だったらさっきのだじゃれは先生の胸の中にしまわれていたはずなんだ」
 たしかにそうだ、と弥三郎は思った。事実、彼は思いついただじゃれを口にすることはほとんど無い。馬鹿にされるのがいやだから。
「雪やこんこんだじゃれやこんこん、なんて茶化さないでください。わかるでしょ。僕は延々、聞かされてきたんです、他の人が聞かなくていいだじゃれを。これがどんなにつらいかわかるでしょ。僕は白けるわけにすらいかないんですよ」
 喜三郎の目には涙がにじんできた……
「白けみのるなんて若い人は知りません。先生、真剣に聞いてください。僕は、もううんざりしてるんです、こんなのいやなんです」
 沈黙が続いた。喜三郎は語り疲れてじっと虚空を見据えている。弥三郎は窓の向こうを見つめ続けている……
 ふいに喜三郎が立ち上がった。
「なにがこれがほんとのシンケン質ですか!」
 喜三郎は弥三郎に跳びかかると、首に手をかけた。

「判決。懲役十年」裁判官の声が法廷に響いた。
「被告は初犯でもあり、刑期を終えた後は更正に努めるように」
 退廷してゆく裁判官の心の声が「幸福の黄色いハンケツ」というのを喜三郎はぼんやりと聞いていた。一度でいいからだじゃれで大笑いしてみたかったな、と思いながら。

                                  [完]




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