AWC   十  界   第一話        天 平


        
#1558/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LNJ     )  89/ 5/13  18:57  (105)
  十  界   第一話        天 平
★内容
 そこには闇だけがあった。
 光は闇に消え、深い暗黒だけがその体を包んでいた。呼吸音は遠く、
 また近く響き続けていた。反応するものは何もなく、体はどこまで
 も自由に動かすことができた。
 闇に光が生まれ、その両眼には地球があった。
「「「 覚醒 「「「「
(誘死霊の臭気)
 雨の降る夜だった。教会の鐘が鳴り響く、墓地に斑模様の犬が一匹。
青白い光が、犬を映し出す。  雷鳴が遠くに響いた。
犬は主人への別れの声だろうか、犬は空に向かって大きく吠えた。
その土はゆっくりと盛り上がり、やがて腕が突き出た。青い光体に包まれ
 犬が狂ったように吠える。死体はその犬を確かめると、腐りはじめたそ
なかった。
 その情景を見つめていた男がいた。彼は、しかしはっきりとしたその瞳
に青い光体をうつしていた。死体の視界に入るか、入らぬくらいで彼は走
「いったい...まさか?」

 バイクは雨で滑りやすくなった路面を水しぶきをあげ、疾走した。ハン
ドルを握る天獄神人は、弾丸のようにあたる雨をうけつつ、バックミラー
 死体は雷鳴と共にただの光体となり、バイクの後にあった。
神人は、アクセルをさらに回す。「「「が、ミラーからは光体は消えなか
った。

死体となった。髪は抜け落ち、眼もとろけ、雨によって胸の肉が地面に落
 「天「「獄「「神人ダナ「「」
うじ虫でも思わせるかのような声は天獄神人のバイクを急停止させた。
 神人はバイクから降り、腐り果てた死体に目を据えた。
「きさまは妖か?..いや、死体と化すということは、霊か!」
 「「「ワカルノカ。俺ハ誘死霊 妖ダ。」
「妖道士か。妖界の者が俺に何の用だ。」
 「オマエハタダノ人間デハナイ。各界ノ統治者ガ、オマエノ消滅ヲ命ジテ
  イル。」
「何!?」
 「人界ノ道士タチハ皆オマエヲ狙ッテイル...ガ俺ガオマエヲ消滅スル。」
「道魔神龍がおまえに命じたのか?」
 「ソウダ。」
 神人は妖界の統治者である道魔神龍を思い出していた。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
「人、おまえはこれで妖道をすべて会得した。人間が道を会得するなど百年に
 一度あるかどうかだ。」
「俺はやらねばならないことがある。」
「ハッハッハッハ、おまえは神になるやもしれんな。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
 「死ンデモラウゾ、天獄。」
「きさまのような下級道士に俺を倒すことはできぬ。」
「死ネイ!」
 誘死霊が実体として使っている死体は、ゆっくりと神人へ歩み寄っていった。
「破ッー、衝力(フォース)!!」
 「ハグァー、人間ガ衝力ダト?バカガ、ナッハッハッ。」
「衝力が使えない?...どうしたんだ!?」
 天獄神人は人界に降り立つ際、再誕生(ニュークリアボーン)を行った。
再誕生は、意識、体、力、知識、道力を一つにし、その界の状態に自分を慣らさ
せる神道である。しかし、そのとき強力な道を使うため、道力を失ってしまうこ
ともある。今の神人は、その道力を失った状態なのであった。
「「「しまった!」
 「ドウシタノダ。下級道士ニハ、ヤラレヌノデハナカッタノカ?」
 神人は降りつける雨の中、今の自分が誘死霊に勝てるという確証がないことを
知り、人間の力で勝つ方法を必死にさがした。
 「妖道デ消滅スルガ、イイ!」
誘死霊は腐り骨もあらわな右腕をゆっくりとあげつつ、道を唱えた。
 「妖霊哭餞、因死臭気、発!!」
 突如、死体の腕から、ものすごい勢いの黒い悪臭が噴き出し、神人を襲った。
神人は、とっさに左へと飛び、悪臭をかわしていた。誘死霊は、悪臭の噴き出す
腕を左へ向け、神人の体を追った。
「「「因死臭気か..くそ!
ョ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イ
、因死臭気−いわゆる毒ガス。死体の体内にあるあらゆる毒素をガス状にし、、
、          放出する妖道。吸い込むと約2分で死体になる。              、
カ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「コ
 「ハグァー、死ネィ、天獄!」
 神人は口を押さえ、右、左と誘死霊の放つ因死臭気をかわしていた。
因死臭気は、執拗に神人の体を追った。雷雨はひどくなる一方であった。
誘死霊の使う死体は、雨によって次第にその姿をさらに不気味なものとなってい
った。
「「「どうする? 道が使えぬ今、俺はどうやって奴を倒す?
 神人は臭気を逃れ、バイクの後ろへ体を転がす。そして、道端にころがる石を
つかみ死体の顔面へ投げつけた。石は雨を斬って死体の顔面に。
 鈍い音がして、死体の顔面から肉片が落ちる。道路の上に溶けた目玉があった。
雨が死体から落ちた肉片に当たり、道路上は気味の悪い色となった。
 「無駄ダ。死体ハ、イクラ傷ツケテモ死体ダ。ハグァー」
雷鳴が轟く。
 「消滅スルガイイ、天獄!」
 死体からいままで以上に因死臭気が噴き出す。
 神人はポケットからナイフを取り出した。カチャカチャと音をたて、鋭く光る銀
色のナイフが神人の手に握られた。神人はバイクを使い空中へ。右手にナイフを握
り、左手で口を押さえ、神人は誘死霊の死体めがけて飛んだ。因死臭気が神人を追
う。
「破ッー!!」
 「ハグァー!」
 ナイフは死体の額に突き刺さり、神人は死体の背を蹴り、後ろに転がった。
 死体がゆっくりと振り返る。
 「無駄ダトイッタデハナイカ。」
 腕が神人に向けられた。

 耳を引き裂くほどの雷鳴、目を覆わねばならぬ青い閃光。
「誘死霊よ、俺は下級道士にはやられぬ。」
 死体はすでに死体ではなかった。それは実体と化した誘死霊の灰であった。
「銀のナイフだけは無駄にはならないのさ、ゾンビには。」
  雷光で青く映る銀のナイフをポケットにいれ、神人はバイクに乗った。
   バイクのエンジン音が雷鳴にかき消され、バイクは雷雨の中に消えた。
                              つづく








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