#1523/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF ) 89/ 4/ 5 22: 4 (109)
お題>『傘』(唐傘一本) 舞火
★内容
唐傘一本
おや、いらっしゃい。
あらあ、どこぞの貴族かというようなりりしいお方で。
何かお求めで……?
はあ……。
そうですね、この唐傘なぞどうですか……。
とても良い品ではございます、丈夫で……。はい。
それはとてもお安くなってはおります。
は、理由……ああ、品の良さにしては、値段が安すぎると……。
そうですね。ま、私共の品は全て安いというのが、取柄と申せましょうか。
ええ、はあ、やはりそれなりの理由がある訳ではございますが……。
は、お聞きになりたい。まあ、それはお話ししておいた方が良いでしょう。
こちらも、商売とは言え、やはり私にも良心というものがある以上、お話し
する必要を感じる次第でございます。
あ、よろしいですか。
では……。
***
この唐傘は江戸時代の物でございます。
何故、判るかと言われますか。
それはもう話の本筋にかかわる訳でございますが、この唐傘には一つの話が
決して忘れられることなく、付いてまわっておりまして、その話の内容と申し
ますものが江戸の町が舞台なんでございます。
この最初の持ち主といいますと、男性の方でございました。
それはもうたいそう男前であったという事で……もお、お客さんそっくり。
いやあ、ご謙遜を。
ところが、ですね、これがまたお坊さんだったりする訳でして……。
ええ、この頃の坊さんというのが、女人禁制という……。はい、世の男性諸
君にしてみれば、ライバルが一人減ったというところでしょうか。
私のような、ぶ男にとてみれば、いやあラッキーてなもんで。
あらま、失礼。ははは。
こほん。
ところがですね、例え坊さんといえども、世の女共はやはり、顔の良いのに
弱い訳です。連日大勢の女性が、願かけやら法事の打ち合わせとかで、押し掛
けて来ていたということです。はっ?
いえいえ。この坊さんはたいそう身持ちの固いお方で……。はい、誰にも手
を出さなかったとか……。
いやあ、確かに。うらやましいの一言に付きますな。私でしたら、連日連夜
肉布団の上で……あ、いやいや、失礼。
えー、どこまで。
ああ、肉布団……いえ、女性が押し掛けるというところでしたな。はい。
で、まあ、たいそう熱心な……仏門にですよ……に熱心なお坊さんで、門主
様というんでしたかね、お寺のお偉いさんにですね、気に入られてたんです。
ところがですなあ、いつの世にも嫉妬深い奴というのがいましてねえ。
はあ、同期の坊さんの一人でして、名前を仮に、¥さんとしておきましょう
か。ああ、最初の持ち主の坊さんは、$さんということで……やはり舶来物は
人気が高いということで。いやあ、はははは。
でこの¥さん。惚れた女がいた訳です。まあこの¥さんという奴は坊さんの
くせして、大の女好きでして……。ええ、毎夜のように、いろは茶屋っていう
坊さん相手の遊郭みたいなやつに行ってた訳です。で、そこの女に惚れたって
いうところがどっこい、いつものパターンという訳で……。
はいはい。女は$さんに惚れてた訳です。
で、¥さんは嫉妬に狂い、しかも$さんは門主さんの覚えめでたく、どんど
ん出世コースを行っている。
これはもう¥さん怒り狂って、何としても蹴落としてやろうと、あの手この
手を考えた訳です。
で、¥さん、ピンときたところが……『これはこれは、寺社奉行様……御機
嫌麗しく……』だった訳です。
え、何で¥さんが寺社奉行と親しいかって?
そりゃあ、それがセオリー……いえいえ、実はですね、寺社奉行さんも¥さ
んに負けず劣らずの女好きだった訳です。
つまり、『例の女、お奉行様の元に遣わす換わりに……』という訳ですよ。
お、もう、お判りで……さすがですなあ。
つまり、お奉行さんは、寺社方だっていうのをいかして、そこの門主さんに
そっと耳打ちした訳ですよ。
『そこもとの$という輩、女犯の罪ありとの訴えがあってな……』
まあ門主さんもまさかとは思ったんでしょうが、なんせお上のお役人には逆
らえぬという事で……
で、この$さん、お奉行さんの特別なお計らいとか何とかで、晒し者にはな
らなかったそうですが、でも、女犯の罪ってのは仏門では大きいですからね、
破門を言い渡された訳です。
で、この坊さんの破門っていうのが、唐傘一本だけ背負って追い出される訳
ですよ。
まあ、いい男だったっていうのが不運の始まりで……。
つまり、その時の傘が、これな訳です。
で、これからが話の本筋……聞いてますか? お客さんてば。
実は$さんがですね、後になってさすがに¥さんの悪巧みに気付いた訳です。
で、温厚な$さんも怒った怒った。真面目人間がひっくり返ると恐ろしい事
で、$さんときたら、南蛮渡来の黒魔術とか言うのに手を染めて、唐傘に呪い
をこめて秘かに¥さんに送りつけたと……。
で、その呪いが恐ろしい事に、傘の持ち主は決して異性にもてぬ、というや
つで……付き合う片っ端から壊れて行くという不幸も不幸、こんな不幸なこと
はない。
この世の男にとって、女にもてぬ程不幸な事はないっ!!
¥さんは、世の全ての女に嫌われて、絶望して自殺してしまったとか……。
まあ、自業自得な訳でして……。
***
は、お買いになられると……そんな珍しい傘だったらぜひ手に入れたいと。
はあ、そうですか、ぜひにと言うのなら、お売りしますが、返品は決してお
受け致しませんよ。それでも欲しい、と?
はい、代金をお受けします。はい、確かに、品物を……。
しかし、お客さんももの好きですねえ。女にもてたくないんですか?
は、今もてすぎて困ってるから、もてなくなりたいんだと……。はあ。そり
ゃまた随分ぜい沢な悩みで……。え、いやいや。
ええっ!何ですと?
なんと、お客さん、ご紹介者有りの口で。
いやあ、こりゃまいった。
それならそうと最初に言ってもらえれば、私の小噺なんぞお聞かせしません
でしたのに。
ああ、いやですね、あの噺ってのが紹介者無しのお客さん相手のもんでね。
はい、大丈夫。効果は抜群でございますよ。はい、絶対確実。効き目ばっち
り
なんせ『効果抜群、絶対確実、祈願必勝<野呂易乃小道具>店』がモットー
でございますから。
−−−−「傘」−−−−
(唐傘一本)
舞火
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