AWC 中型SF小説 渇きの海(3)【積荷はSorrow】・・・天津飯


        
#1446/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC     )  89/ 3/ 1   7: 7  ( 81)
中型SF小説 渇きの海(3)【積荷はSorrow】・・・天津飯
★内容
私は外科治療用ロボット ブラック・ジャックによって蘇生した
ブラック・ジャックの手に掛かれば死人さえも蘇生させることが可能なのだ
だからといって それなら 何故自殺した連中を蘇生させなかったのか
などと尋ねてはいけない
自殺者を蘇生させることは21世紀のモラルに反することなのだ
死ぬ権利を侵してはならない
たとえ 無人になったとしても ENIACが故障しない限り
この巨大な宇宙船は 多少遅れはしても 立派に役目を果たしうるのだから
むしろ人間は ENIACが故障したときのために乗り組んでいるといえた
とにかく私はブラック・ジャックによって
レーザーで灼かれた方の大脳半球を摘出された後
人工冬眠カプセルの中で20年間眠っていたらしい
私の目ざめを二人の人間が待ち受けていた
二人とも黒づくめの服を着ていた
一人はメリーだ もう一人の若い男は誰だろう
船内には私とメリーしか残されていないはずだ
見覚えのない顔だ 少なくとも乗組員の中にはいなかった
しかし どこかで会ったような気がした どこで会ったか思い出せない
「間もなく目的地に到着です起きてください」
なつかしい 感情のないメリーの声だった
よろよろと冬眠カプセルから起き上がった私の姿が
ぼんやりと船窓に映っているのを見たとき
突然 その若い男と どこで会ったか分かった
彼の姿は青年時代の私自身の姿だった

2051年に発見された太陽の伴星にあたる恒星の光が船窓からさし込んでいた
その恒星の第3惑星が私達の目的地だった
いまや船窓一杯に広がるその美しい青い星は
ちょうど地球とパラレルの関係にあった
私達3人はシャトルに乗り換えて誘導に従い着陸した
例の事故の影響で到着は当初の予定より地球時間にして3日ほど遅れていた
事故の起こる前に 船長がこの航海は絶対に遅れてはいけないと
何度も繰り返していたのを思いだして なにか不吉なものを感じた
私達を出迎えたその星の生命体は地球と まったく同じ環境にありながら
地球生命体とは似ても似つかぬ およそおぞましいものだった
通訳ロボットを介して司令官だと名乗るその異星生命体は
ごく事務的に手続きを済ませ
私達が途中 大部分のクルーを事故で失った旨を伝えると
自分達で積荷を降ろすことを承諾した
格別 到着が遅れたことによるトラブルもなく積荷の引渡しが完了しそうなので
安堵した私の心に あらためて あの積荷に対する疑問が湧いてきた
その星の生命体が はるばる地球から運ばせた積荷とは何だったのだろう
11人の乗員の生命を自殺という救いようのない形で奪い
私自身もまた片方の大脳半球を失った
そしてメリーには なんの影響も与えなかったもの
あのボンベの中身
私は長い間胸の中にあった疑問をやっと尋ねることの出来る相手に巡り会った
私の質問に通訳ロボットがメリーのような感情のない声で
司令官の言葉を伝えた
「あれは私達にとって どうしても必要なものなのです」
「この星には あれは存在しない それ故にそれを表現する言葉も持たない
 あれは貴方達 地球人がSorrowと呼ぶものです」
驚いたことに積荷は濃縮された悲しみだったのだ
司令官は続けた
「この星には感情というものが存在しないのです
 それ故に この星の生命体は進化の袋小路に はまってしまい
 ごらんのような おぞましい姿になり身動き とれなくなってしまったのです
 私達も貴方達 地球人のように感情を持つことが出来れば
 貴方達と同じように健全な方向に進化しつづけることが出来るのです
 美しいと感じることのできる感情を持たなければ
 決して美しく進化することはないのです 分かりますか」
私はもう一度その星の生命体のおぞましい姿を見た
私は深いため息をついた
しかし 他の感情はどうするつもりだろう 喜びや怒りは
私の心を見透かしたように司令官は言った
「貴方達は それに気ずいて いないかもしれませんが
 宇宙に存在する感情は悲しみだけなのです
 他の感情 貴方達が怒りとか喜びとか呼ぶものは
 全て悲しみの変形したものであり 悲しみの進化したものなのです」
私達が危険を冒し 何十年もかけて この星に運んだものは悲しみだったのか
なんという皮肉だろう 私は全身から力の抜けていくのを感じたが
メリーと 旅の途中に誕生した私の息子の二人は
表情一つ変えずにその話を聞いていた
やがて積荷を降ろし終えて私達がその星を去ろうとするとき
司令官は私に一つの包みを手渡した
ずっしりと重い その包みの中には一本の鋭く尖った杭のような物が入っていた
その杭は不思議な色に輝き 見たことも無い金属らしいもので出来ていた
その杭がなんであるか 司令官は何の感情も交えずに私に語った

                              つづく
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