AWC APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(8) コスモパンダ


        
#1339/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 1/ 7   0:28  (100)
APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(8) コスモパンダ
★内容
              (8)束の間の休息
「どうだい?」
「眠ってるわ。薬を使ったらしいわ」
 カズの問いにノバァが答えた。
「ふう」ノバァが珍しく溜め息をついて、待合室のソファに腰を降ろした。
「ピーク氏には連絡しといた。仕事を片づけたら、すぐに来るってさ」
「仕事を片づけたら?」ノバァが不服そうに呟いた。
「男なんて駄目ね。外では仕事、仕事。家では立派な父親の振りをする。子供の視線
が怖くて、脅えてる。昔は子供を構うのは親の仕事だった。今は親が子供に構って貰
ってる。子供に相手にされなくなるのが怖いのよ。子供がいなくなると、慌てて捜そ
うとする。見つかったら、仕事にかこつけて子供に逢うのを少しでも遅らせようとす
る。再会しても、なんて話を切り出したらいいのか、分からないのよ」
 ノバァの愚痴も珍しい、とカズは思った。
「ピーク夫人は来るの?」
「来ないよ。娘さんのルルちゃんの調子が良くないそうだよ。本当かどうか分からな
いね。来るのは、僕らを門前払いにしたあの執事の爺さん」
「女も駄目か。自分の腹を痛めた子の方が愛着があるのかしらね」
「ノバァが、ピーク夫人のような立場だったらどうする?」
「自分の股の間から生まれた子供だろうが、他人の股の間から生まれた子供だろうが、
そんなことは関係ないね。子供は子供だよ」
 ソファに腰掛け、両手で頬杖をついたノバァは、遠くを見つめているようだった。
 ショートカットの前髪が数本、額に掛かっていた。グレーの瞳はいつになく沈んで
いるように見える。
「ノバァ、子供が欲しいのかい?」
 カズは言ってしまってから、とんでもないことを口走ったと後悔した。
 超一級の雷が降ってくるのをカズは覚悟した。しかし、・・・。
「そうだね。一人くらい、作っといてもいいね」
 そう言うとノバァは、向かいあって座っているカズの瞳を覗き込んだ。
 カズはぶるっと身体が震えた。口の中がからからになった。
 ノバァの瞳が穏やかな光を帯びていた。ルージュを薄く引いた唇が開き、白い歯が
こぼれた。
「でも、今はいらないよ。子供よりもっと手間のかかるのを連れてるからね」
「へっ?」
「あんたのことさ」
 そう言うとノバァは大きく伸びをして、ソファに横になった。
 自分の腕を枕にした彼女は、すぐに寝息を立てだした。
 スースーという穏やかな息遣いにあわせて、グラマラスな身体が上下に動く。
 カズはジャケットを脱ぐと、そっとノバァに掛けてやった。

「また、あなた達でしたか」
「私達じゃいけないのかしら? でも、仕事はやったわよ」
 うまく言うねぇ、ノバァは。シェン・ピークは自分の方から僕らの前に現れたのに、
ノバァに掛かると、まるで僕らがシェンを見つけたみたいだ。カズは心の中で北叟笑
んでいた。
「そうですか? おぼっちゃまの方から、こちらの先生の所に来られたという話を伺
っておりますが。仕事をせずとも結果は良かったという訳ですね」
「何ですって!」
 憎ったらしい爺い! ノバァの怒りのマグマは既に八合目に達していた。噴火目前
である。
 例の執事は、病院に場違いなフォーマルスーツでやって来ていた。
「大声を出すのはやめて貰えませんかな。他の病人に迷惑ですぞ」
 待合室のドアを開けて、赤ら顔のグレン博士が入って来た。
「始めまして、私、バロン・フレスコといいます。ピーク家の執事でございます。博
士、この度は誠にお手を患わせまして、誠に申し訳ありません。本来ならば、私ども
の主人が、馳せ参じねばなりませんが、やむなき理由から執事の私が、ピーク家の主
に代わって参りました」
 執事のフレスコは、グレン博士の前に歩み寄ると、口上を述べた。
「早速ですが、シェン様の容体は如何なものでしょうか? もし、容体が安定してお
りますれば、私どもの屋敷に一刻も早くお帰り戴きたいのですが」
「やっと落ち着いたところだ。今は動かしてはいかん」
「そうですか。それでは、シェン様のお姿を拝見したいのですが」
 フレスコ執事の希望で、グレン博士はシェンの病室に案内した。ノバァとカズも同
行を許された。
 しかし、・・・。
「何だ、君達は?」
 シェンの病室のフロアにエレベータで上がった一向は、そこにいたアーミーの兵士
に行く手を遮られてしまった。
「ここは許可の無い者は通行できません」
「何を言ってる。私はこの階の患者の主治医だ」
「あなたは結構ですが、同行されている方々は、ここから先へは行けません」
「あー、失礼します」
 押し問答をしているグレン博士と兵士の間に、フレスコ執事は割って入った。
「私はこの先の病室におられるシェン・ピーク様の家の執事でございます。主の代理
で来ました故、親も同然です。どうかお通し願えませんかな」
「許可の無い者は、たとえ肉親でも通れません」
 ひさしの付いたキャンバス地の帽子を被った兵士は答えた。兵士達は二十二口径の
小型のマシンピストルを腰のホルスターに納めていた。布製の二十連弾装入れがホル
スターを吊るしたベルトに四本づつ付けられていた。
「ふざけとる。誰の許可が要ると言うのだ」
 赤ら顔のグレン博士は、一層真っ赤に顔を染めて、兵士に抗議した。
「はっ、ルドンコ少佐であります」
「ルドンコだと? あいつは何を考えておる。少佐はどこだ」
 グレン博士の怒りはノバァのマグマよりも先に噴火したようだった。
「博士、お静かに。ここは病棟ですぞ」
 一人のアーミーの軍服を着た背の高い男が、エレベータ前のナースセクションの部
屋から出てきた。
 頭は綺麗に剃り上げ、頭髪は無かった。頭の形はゲルマン民族特有の角張った形を
していた。眉毛は太く、唇は薄い。顎は強靱そうだった。太い首はそのまま両肩の三
角筋に続いていた。
「貴様、何を考えている」と博士。
「危険分子は隔離すべきです。あの少年は核兵器並み、いやそれ以上の危険物です」
「あなた、また逢ったわね。トンネルでは世話になったわ」とノバァ。
 男はノバァを黙って見つめていた。
「えっ!?」カズはその男の顔を見直した。
「あなたが、ハザウェイ警部ね。最近のアーミーは質が落ちたわね。人の名を騙るな
んてね。人の名を騙る時は飲み屋のつけの時くらいにしとけばいいのよ」
 バシン! ノバァが床に吹っ飛んだ。カズが慌てて、倒れたノバァに駆け寄る。
 片頬を手で押さえながら顔を上げたノバァの瞳は、再びグリーンになっていた。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




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