#1337/1850 CFM「空中分解」
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APPLE COMPLEX 【青き魂の讃歌】(6) コスモパンダ
★内容
(6)白い火の球
トレーサー・ブレッドの失敗で意気消沈した二人だったが、気を取り直して、今度
はピーク氏のオフィス、PRM社を訪れることにした。
PRM社の本社ビルは、パシィフィック・クイーンの東海岸に近く、リンドン湾が
臨める高台のブロックに鎮座していた。
そのビルは地上四百メートル以上の尖塔を七本も集めた複合建築物である。
全体の形はよく見ると洗練された幾何学的な構造ではなく、エベレストのような鋭
く尖った連山のように見える。事実、山の頂きを模倣したと思われる稜線やクレパス
や斜面が周囲を取り巻いている。
雨の日には、雨水が稜線に沿い、谷に流れ込んでいくように見えるらしい。
しかし、そのビルの最もユニークなところは、表面が金色に輝いているところであ
る。金色、ゴールド、どう言っても響きがいい。
天気のいい日には、燦々と降り注ぐ常夏の太陽を受けて輝くPRMビルは、五十キ
ロ以上も遠方から見える。
ノバァとカズの乗ったレーザーで穴の開いたスポーツセダンは、PRMビルの地下
駐車場に吸い込まれて行った。
地下のセキュリティ・ゲートでIDの証明をすると、すぐにピーク氏との面会許可
がおりた。二人はエレベータ・ターボシャフトに乗り、フジヤマと呼ばれる尖塔の最
上階の社長室へと通された。
社長室はフジヤマの東側に面していた。天井の高さは五メートル以上あり、部屋は
扇形をしている。入口から見て、扇が広がっている方向がビルの外壁に当たる。外か
ら見ると金色に輝いている外壁も、内側から見ると透明で、地上四百メートルの展望
が一望できる。
ピーク邸での門前払いに懲りたノバァは、今度はアントン・ピーク社長、即ち今回
の依頼主にきちんとアポイントを取っていたのだ。
社長室に入ると、ピーク社長は幅五メートルはあろうかという巨大デスクの向こう
で、椅子から立ち上がると二人を出迎えた。
ピーク社長は細面で背の高い男性だった。
入口からたっぷり二十メートルは歩いたノバァとカズは、ピーク社長と握手した。
「さてと、昨日の定時連絡で、手掛かりを掴んだと聞いた時には、今日は息子を連れ
て来て貰えると思ったのだが・・・。その様子では何か?」
フカフカのソファに沈み込んだカズは居心地が悪そうだったが、ノバァは形の良い
足を斜めに落ち着いていた。
「ピークさん、夕べ、私達はご子息と接触しました」
「なんと!!」
ピーク氏はソファから身を乗り出した。
「ですが、残念ながら、ご子息の行方を見失ってしまいました。場所は中央区の東五
十三番外の『マウマウ』という玩具屋です。ご子息はそこで一心にショーウインドウ
を覗いていらっしゃいました」
ピーク氏は再び、どっかりとソファに凭れた。
「『マウマウ』か、あそこはよく私が連れて行った店だ」
ピーク氏が俯いてしまったので、ノバァは暫く口を閉ざしたが、再び話し出した。
「『白い火の球』を御存知ですか?」
氏は、はっと顔を上げた。
「昨夜、白い火の球が現れ、気付いた時にはご子息を見失っていました」
氏の細面の口元が緩み、少し震えているように見えた。
「また・・・、出たのですか・・・」
氏は両手で頭を抱え込んでしまった。
「教えてください、ピークさん。私達はあれの御陰で、危うく命を落とすところでし
た。『あれは』いったい何なんです?」
ノバァのその質問に、氏は答えようともせず、ただ頭を抱えて俯いていた。
「ピークさん、今後、ご子息の行方を捜し、御自宅へ連れ戻すためには、どうしても
あの『白い火の球』について知っておく必要があるのです」
今度はカズが問いただした。
「あれは・・・」氏は少し口籠もった。「あれは、あの子が呼ぶんです」
その言葉にノバァとカズは背筋がぞっとした。
「呼ぶとおっしゃいますと?」
ノバァが平静を装って、声を出しているのが分かる。
「あれは、あの子が、シェンが窮地に陥った時とか、何か衝撃的なできごとに遭遇し
た時とか、恐ろしく自分の気に入らないことがあると、出てくるんです」
「そんな・・・」
ノバァは信じられないという表情だった。
「もう両手では数え切れない程、白い火の球は出現しています。犠牲者の数も既に片
手を超えました。その度に私が揉み消してきたのです」
その台詞がカズの癇に触った。
「昨夜の事件も揉み消されたんですか?」
「はっ?」ピーク氏は何のことか分からないという顔をした。
「カズ!」ノバァが珍しくカズをたしなめた。
「気になさらないでください。それより『あれは』、何なんですの?」
「ある人によると『球雷』という雷の一種だと言うし、別の人は『プラズマ放電』と
も言うし、『悪霊馮き』と言う人もいる。結局は分からずじまいです」
「ちょっと待ってください。『ある人』って言われましたね? 失礼ですが、ピーク
さん、あなたはご子息の話を、どなたかに、ご相談されたことはありますか?」
「当然ですよ。何人かの精神科医やら脳外科医、超自然学者、超能力者、宗教家。と
にかく、考えられる限りの人に息子を見せましたよ。中でも、マッキー・グレン博士
は、親身になって相談に乗って戴きました。博士はアーミー・ホスピタルの精神科医
です」
ノバァとカズは、顔を見合わせた。蜘蛛の糸は切れてはいなかったようだ。
その時である。
キィーーーーーン・・・・。
可聴範囲ぎりぎりの甲高い音がピーク社長のオフィスに響いていた。
「何の音?」
ノバァがカズに囁いた。
「ウワーッ!」
ピーク氏がソファから立ち上がると、窓の外を指差した。
そこにはリンドン湾を遠くに臨む市街が見えていたが、その窓のすぐ外に直径五十
センチぐらいの白光球体が浮かんでいた。
三人の座っている応接セットは窓から数メートルしか離れていなかった。
「危ない。窓から離れて!」
カズの声に、ノバァとピーク氏は窓から遠ざかり、部屋の奥に逃げた。
「うわっ!」三人が同時に叫んだ。
その白い光球はガラスをすーっと通り抜けたのだ。そのまま、三人の側まで空中を
漂って来る。
室内は小さな太陽の出現で明るく輝いた。
三人は後ずさりしたが、すぐ後ろが壁で後が無くなってしまった。光球は次第に近
づき、ついには壁に張りついたピーク氏の顔から数十センチまで近づいた。
唐突に光が消え、光球は消滅した。
ピーク氏は壁に背中を付けたまま、へなへなと床に座り込んでしまった。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−