#1328/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (QDA ) 88/12/25 18:42 ( 91)
有限宇宙(5)&(6) アンゴラ
★内容
☆二つつなげて書いていたら、切れなくなってしまいました……☆
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
夕方、秋穂は浮かない顔で戻ってきた。丁度いい、仲間がいなかったらしい。
「がっかりね。みんな、腹立たしくないのかしら。人間の厚顔さとか」
だけど、秋穂。僕も人間なんだ。君が憎んでいる、君が一番嫌いな類の。
「あら、今日は珍しく夕日が見えるわ。見てごらんなさい」
秋穂の白い指が示す方向に、大きな夕日が見えた。空は、異様なほどの灰色。
そぐわないのに。
「無口ね、誠。どうしたのよ?」
「別に……」
会話が途切れた。
「まあ、いいわ。帰るわね」
秋穂は立ち上がる。
僕は、何も知らない。秋穂が何処に住んでいるのか。
憑かれたように人を滅ぼそうとする所以は?
本当は、何一つ知らない。
秋穂、君は誰なのか。
「ばいばい。また、来るわね」
なのに、どうして信じてしまうのだろう。
どうしてこんなに、惹かれるのだろう。
僕も、憑かれたように。君に。焦がれてる……
秋穂が帰ってしまった後、居眠りをしてしまったので、目が覚めたら既に6時
を回っていた。布団から這い出て、お湯を沸かしに行く。NASA特製の非常食
を食べながら、秋穂の事、もう一度考えていた。
本当は知っている。秋穂の事を、決着を付けねばならない。でないと、秋穂は
永遠にさまようだろう。何処にも行けずに。永久に。
それは、とても辛い。秋穂の事、僕は大好きだから。だけど、会えなくなるの
はもっと辛い。それでも僕は、嫌なのだ。会えなくなるより何よりも、彼女が人
を憎むということを。
寂しい秋穂。
君は、飢えていたから、そんなに人を憎むんだね。
けれど、僕にはどうすることもできない。手を差し伸べることも、何も。こん
なに大好きなのに。僕は、まだ子供で、秋穂を支えることなんか出来ないのだ。
僕は、卑怯だから秋穂を救うことなんてできないんだ。秋穂を失うことが怖くて。
それで、おびえてて。本当は、秋穂の魂は浄化されて、楽園に行ける筈なのに。
たった一つの事を、教えてあげるだけで。
本当は解っていた。
一番醜い、いつでも私利私欲に走る人間が、どこにいるのか。
嫌われるのが、恐ろしくて。
☆☆
トゥルルルルル……
不意に、電話がなる。食べかけの食事を口に押し込んで、慌てて受話器を取っ
た。僕の家は、父親が嫌うので、TV−PHONEは使っていない。
「はい、李下ですけど……」
「あ、李下?俺だよ、柘斗だけど」
「何の用?」
平静を装った口調で、僕は尋ねた。柘斗は、心なし、暗い声だ。
「ん……。秋穂の事なんだけど」
秋穂。名前を聞く度に、胸が震える。言葉に出す度、胸が痛む。
「秋穂の事、忘れろって言ったら、怒る?」
意外な言葉を、柘斗は僕にぶつけてきた。
「また、冗談ばっか……」
「冗談なんかじゃない。秋穂の存在は、おまえに悪影響を及ぼすだけだ。違うか?」
違う。そう言いたかったのに、発声器官が凍り付いてしまったようだ。
「母さんとも、相談したんだ。妹がいたことは忘れようって。もう、駄目だよ。
秋穂は、過去の産物なんだ。優しかった秋穂は、もうここにはいない。妄執の
塊となった、悲しい子なんだ……」
だから、僕は忘れない。
超能力者として生まれ、そのせいで人に疎まれ、憎まれ、愛されなかった少女。
人間の未来に、さがに、絶望し、自らの命を絶ち、それでも憎しみの精神だけが
地上に残った寂しい、柘斗の妹。
優しくて、全てを慈しむことの出来た少女は、自分が超能力を発揮し、それを
他人に知られ、虐げられ、厭われたせいで変わってしまった。
君は、魂だけ生き残ってもいいから、人間に復讐すると誓ったね。君を自害に
追い込んだのは、人間のせいだからと言って、それを人間の業としてしまった。
「「ごめんね、秋穂。
好きだと言ってくれたのに。
僕は、ガキのくせに、世間体を重んじて、君を拒んでしまった。
「妹は、秋穂は、人間を滅ぼそうとかなんとか言ってたみたいだけど。逆恨みな
んだよ。「「李下。人間は弱く、脆い。何もかもひとつの型にはめなければ、
気が済まない。でも、それを拒むことなんてできないんだ。いくら気が付かな
くても、それを拒んでも、俺らはそんな人間の業から逃れることなんか、出来
ないんだ。所詮俺らも、欲望に弱い一介の人間なんだから」
「「知っているさ、それくらい。
それでも僕は耐えられなかったよ。
「僕に、何を諭すつもりだ?一番仲良くしてたくせに、秋穂を化物扱いして、突
き放したのはおまえじゃないか」
本当は、解っているよ。柘斗、いちばん君が悩んでいたって。秋穂の自殺と、
精神のみの復活に、いちばん罪の意識に苛まされたのはおまえだって。
それでも僕は、柘斗、おまえを苦しめたかったんだ。
秋穂が好きだと僕に言ってくれた理由は、おまえに突き放され、見放されたか
ら。僕は所詮、いつだって秋穂にとっては、おまえの代わりだったんだ……
そう、今でも。
(つづく)
アンゴラ