#1205/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG ) 88/10/27 0:27 ( 96)
K&D>こちら惑星デザイナー クエスト
★内容
俺が奴に会ったのは久し振りのことだった。
というのは俺がとても忙しかったからで、奴といえば相変わらず暇そうだった。
俺達の仕事はプラネットデザイナー。つまり、とても生物が住めそうにない惑星の環
境を調整して、まあパラダイスを作ろうという仕事だ。
俺は有名なデザイナーに弟子入りして仕事を覚え、今では独立して次々と惑星の設計
をこなしている。どれもなかなかの出来映えだと評判だ。
奴といえばもともと変わっていたのか、誰の教えも受けないで一人でごそごそやって
いたっけ。だから注文も入らずにまあ暇なこと。
けれど、奴と俺とは妙に気が合い、こうしてたまに会うと一緒に溜まり場で遊ぶ仲さ。
「今度のグルート設計のマイア第7惑星はどうだ。なかなかの出来あゃないか」
俺は奴にいった。
「カスだ。ちょっと目先を変えているだけだ。あれじゃろくな文化は育たん」
奴は吐き捨てるようにいった。
「そうかー、グルートといえば今一番乗っているといわれているデザイナーだが」
「だめだ。硅素はもう古い。コンセプトが古いんだ。これからは炭素じゃないといかん」「炭素ーーーーー!」
俺は驚いて叫んだ。
「炭素系生物?そりゃ無理だ。炭素は脆すぎる。弱い。温度への適応性もない。あっと
いう間に死んでしまうぞ、そんな生物は」
「いや、大丈夫だ。俺には自信がある」
「何をいうんだ、生命体は硅素でいいんだ。あの丈夫さ、そして長い寿命。あれ以上の
存在はない。どうせ進化すれば殻を脱ぎ捨てるように自分の体から抜け出すんだ。それ
までの繋ぎとしては充分じゃないか」
「違う!硅素の環境は余りにも散文的だ。あれでは結局俺達を乗り越える存在は生まれ
やしない。それが俺には心配なんだ」
「何だと!貴様、俺のやっている仕事を侮辱するのか!」
喧嘩になりそうな気配であった。しかし、俺達進化した存在はもちろん喧嘩などはし
ないのである。結局、俺達は平行線のまま別てしまったが。
暫くして、俺は奴が銀河の果て、かなり辺鄙な場所に仕事を見つけたことを聞いた。
奴の炭素系生物のコンセプトを評価する風変わりなオーナーでもいたのだろうか。
俺は相変わらず安定した技量で硅素系の惑星を設計していた。
数100度の気温、赤い世界、そう悪くはないとおもうのだが。
すでに宇宙には何万という惑星がデザインされている。
まあ、そのうち幾らかが何億年かすれば俺達の仲間入りできるはずだ。
奴が俺を呼んでいるようだ。手紙や電話はないが、たいていのことは伝え合うことが
できる。なにしろ俺達は純粋な精神というか、思考そのものなのだから。
とはいえ、銀河の果てとなるとやはりそれなりの時間がかかるので「おっくうだな」
とは思いつつ、他でもない奴のことなので俺ははるばると奴を訪ねた。
「こっ、これは...」
俺は一目見て息を呑んだ。
何という美しさだ。青い、あくまでも青い惑星。水蒸気がベールのように柔らかく取
り巻いて、そのバランスがまた何ともいえない。
殺風景が当たり前のこの宇宙に、このような美しい惑星が生まれたとは信じ難いこと
だった。
「これが炭素系生命体のゆりかごか...」
「そうさ。俺のコンセプトもちょっとしたものだろう。さあ、行こうぜ」
俺は奴について惑星に降りて行った。
青い空、海、そして緑の木々。色とりどりの植物。群れ翔ぶ鳥達。またいろいろな動
物達。そのどれもが実に愛らしく美しい。
俺の作った惑星の生物の無骨さを思って、俺はちょっと恥ずかしかった。
「あれを見てくれよ」
奴は自慢気に俺にいった。
奴が示した方向には、一対の生物がいた。それはまだまだ頼り無げではあったが、確
かに高い知性を持つであろうことが見て取れる、不思議な魅力のある生物だった。
「いちおう、あの種類ができたので成功だったと思っているよ。なんとか俺達のレベル
まで来るんじゃないかな」
「いいじゃないか。確かにひ弱そうだが、知性さえあればいろいろな環境の変化にも適
応できるだろうし。しかし、あの弱さと同居したたおやかさ、柔らかさはいいなー。何
だかペットにしたくなってきたな」
俺は慢心している奴をからかうようにいった。
「駄目だ、駄目だ。あれは俺が精魂込めて作ったんだ。お前なんかに渡せるものか」
「ちっ(唐変木め!)」
頭に来た俺は奴の目を盗んでそいつらに不純物を混ぜた赤い実をくれてやった。
へっへっへ。雌の方が喜んで持っていったぞ。ざまー見ろ。ちょっとくらい狂った方
が面白いのだ。
俺はなごり惜しかったが、山ほど仕事を抱えていたので奴と別れて持ち場に帰った。
奴とは違って銀河の中心、最も華やかな場所が俺が仕事をする所なのだ。
しかし、何という美しい惑星なのだろうか。炭素系生命体とその環境...
だが。俺や俺の先生を始めとする硅素系の惑星設計で評判、名声を勝ちえている仲間
にとってはこれは一つの脅威でもある。故に俺はこの銀河の果てでの出来事は皆に黙っ
ていることにした。どの道、あんなことはそうそう真似できることじゃない。
というわけで、炭素系の惑星は今だにあの銀河の果ての惑星だけだ。奴にはあれ以来
仕事がないし...
あの頼り無い生物は自分達の星のことを「地球」などと呼んでいるそうだが、もし地
球がただ一つの例外として宇宙に浮かんでいることを知ったらどんなにか驚くことだろ
う。
あの惑星では美しい環境、そして愛らしい生物に囲まれて、あの知的生命体はきっと
平和で清らかな世界を築いていることだろう。(おっと、俺がくれてやった不純物のこ
とも少し気にはなるけど...)
環境は極めて不安定で、生命体も脆いから、あんまり進化する時間はないだろうが、
きっと俺達の仲間入りをして、宇宙を殺風景な闇の世界から光り溢れる世界へと変えて
いく壮大な計画に参加してくれることと思っている。
さあ、仕事、仕事。もっと光りを!こちら惑星デザイナー。
Fin.