AWC K&D>夏の夢    あるてみす


        
#1174/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE     )  88/10/ 8  10:50  ( 47)
K&D>夏の夢    あるてみす
★内容
「うーっ……。あーあっ!」
 俺は、思いっきり伸びをすると、辺りを見回した。
 今にも足を取られそうなジメジメした地面。そこに元気よく生えている雑草達。
 俺、なんでこんなとこにいるんだろう? そういえば、俺、誰なんだ?
 なぜか、たった今、生まれてきたかのように、今までの記憶が無い。
 俺は、あてもなく、その辺をふらふらと、さまよい始めた。
 と、その付近から、俺と似たような連中がはいずり出てきた。互いに見つめ合い、
仲間であることを確認する。
 なぜ、こいつらが仲間だって判ったかって? そんなこと聞かないでくれ。俺に
だって判らないんだから。ただ、なんとなく、そんな感じがしただけだ。
 ただ、確かにこいつらは俺と同じ仲間。同族なんだ。
 互いに確かめ合いながら、その辺をうろついていたら、
「おっ、あの娘、光ってるね。」
 誰かが感嘆の声を上げる。皆、その声に一斉に振り向くと、我先に、その娘の所
へ行こうとする。
 その娘は軽く微笑むと、フワリと宙に浮いた。見ると背中から羽が生えている。
 一瞬、どうしようかと思ったが、とにかくあの娘を捕まえなければいけないとい
う脅迫観念から、必死になって飛び上がろうとした。皆も同じことを考えたらしい。
 すると、不思議なことに、俺も宙に浮いてしまった。そして、風に流されはする
ものの、なんとか空中遊泳を楽しむことができる。
「やったぜ!」
 俺が喜びの声を上げたのも束の間、他の連中もフワリフワリと宙に浮き始めた。
 おっと、こうしちゃいられない。連中より先にあの娘の所に行かなければ。
 慌てて向きを変え、あの娘が飛び去った方に向かう。
 しばらく行くと、ちらりとあの娘らしい姿が見えた。間違いない。あの娘だ。
 相変わらず、光ってるぜ。それに、いかにも女の子らしい香りも漂ってくる。
「いい香りだ。」
 俺は、鼻をピクつかせると、急いでその娘に近づいていった。
 途中、風にあおられて苦労はしたが、その条件は連中も同じだし、それにその娘
だって同じように風にあおられているから、無風状態と大した違いはない。
 なんとか連中より先にその娘に追いつくことができた。
 そして、しばらくランデブー飛行したあと、とある草の上に降り立った。
 互いに見つめ合い、そして、そのまま抱き合う。
 え? 名前も判らない、その上、初めて会った女性に失礼なことするなって?
 ああ、何とでも言うがいいさ。
 ただ、間違いなく言えることは、俺もその娘も恋に落ちたってことだ。
 だいたい、俺達にはのんびりと恋を語り合う時間なんかないんだから。
 これが俺達の恋のやり方だし、皆も同じようにやってるんだぜ。
 俺は、その娘を抱いて、無上の喜びを味わった。その娘と共に、短い一生のうち
の最良の時を過ごす。
 そして、その幸福の時間はあっという間に過ぎ去り、その娘は去って行った。
 新たなる生命の誕生のために……。
 俺は力つきて草の上から地面に落ちた。既に光を失った体を裏返しにして……。
 あの娘も多分、今ごろは水辺に卵を産んで、その生涯を終えるころだろう。
 わずか一週間しかない、蛍としての短い生涯を精一杯生きて……。

−−END−−




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