#1147/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG ) 88/ 9/19 20:43 (100)
『Z−NETは秋の空』(5)旅烏
★内容
「ふん、探偵屋か...捜査の邪魔をするんじゃないぞ」
死亡推定時刻は、明け方の四時頃と判明した...
そして、部屋の天井にある換気扇は一晩中つけっぱなしであった事、スイッチから出た
指紋から、エアコンは被害者が止めたものである事なども同時に判明した。
「警部、隣の部屋に泊まっていた男が分かりました...今、こちらに連れてきます」
現場は、発見当時のままになっているので、非常に暑い...狭い上にエアコンも止め
てあり、何人も室内に入り込んでいるので、まるで蒸風呂である。
「暑いな、その窓を開けてくれ...」
パンチパーマで大柄な浦野警部は、人一倍汗っかきなのだ。
杉浦巡査が、窓に手を掛けて開けようとしたが、完全に錆び付いていてビクとも
しない。
「浦野警部、とても開きませんよ...」
「ふーーむ、すると出入口はドアだけと言うことになるな...しかたないエアコンを
つけよう」
まさに完全密室と言える。
その時、部屋の外に人の気配がして背の高いサラリーマン風の中年男が、若い巡査と
一緒に狭い部屋の中をのぞき込んでいた。
何人も部屋にいるので、入るのをためらっているようだ...
「ちょっと失礼」
浦野警部は鑑識係員をかき分けるようにして、部屋の外に出た。
冬野所長も風呂場から、被害者のいるベッドの下まで調べ終わると、咳払いをしながら
部屋から出てきた。
チラッと冬野所長の方を見た浦野警部は「野次馬が多いようだが、まあいいだろう..
さて、貴方が昨日601号室に泊まったんですね?」
男の名前は斉藤と言う会社員だった。
「ええ、私は刈谷の人間なんですが、今朝早く仕事が有るので帰るよりは楽だ、と思っ
て泊まったんです」
トヨタ系列の電装会社に入っている下請けの会社員らしい。
相手が超優良の自動車会社では、かなりの無理難題でも聞くしかないのだなと察しられ
た。
「昨晩なにか気づいた事は有りませんか?」
「昨夜、10時過ぎにこの部屋に入ったんですが、隣の602号室から男と女の声が聞
こえてきたので、お恥ずかしい話ですが耳をすましておりました...こういう壁の
薄いホテルでは、よく隣の情事がつつぬけになるんですよ..ハハハ
下手なポルノビデオより刺激的でして...」
斉藤と言う男は、ニヤッと笑って薄くなりかけた頭を掻いた...
むっつりした顔に僅かな笑みを浮かべた浦野警部は、なおも聞く。
「で?」
「そうすると、隣では男が泥酔しているらしく、なにかわめいているのが聞こえました
同時に風呂の湯を出す音も聞こえました...多分女が気を効かせたものでしょう
そのまま15分ほど、風呂の蛇口の音と酔った男の下手くそな歌が聞こえましたが、
風呂の湯が一杯になったのでしょうか、蛇口の水音が静かになって女が部屋から出て
行ったらしく、ドアの閉まる音がしました」
「そのほかに気がついた事は?」
「すぐドアのチェーンを掛ける音がして、ベッドで下手な鼻歌が聞こえました..
12時過ぎに隣のドアをノックしているらしい音が聞こえましたが、私も半分寝て
いましたからねぇ・・・夢かもしれません。
そうそう明け方の3時半頃、隣の部屋で壁に手か足がぶつかった音で一度目が覚めま
したね...薄い壁ですから耳元でドンとやられると、凄く響くんです」
この証言に寄れば、被害者は自分でドアチェーンを掛けて、明け方の3時半まで生存し
ていたことは確かのようだ。
フロントでも11時までは誰も出入りしなかったし、その後は玄関のドアをロックした
ので誰も出入りしてない筈だとの証言をした。
泥酔した浅野健三と雪子夫人の事もよく見ており、二人とも籐(トウ)のトランクなど
持っていなかった事も確認していたし、たまたま二人が外出してから切れていた電球を
交換に被害者の部屋に入ったが、トランクなど見ていないとの証言も有った。
それから1時間ほどして場面は変わり、冬野探偵事務所のソファの上...
「相当複雑な事件だから、警察の手には負えないだろうな」
自信満々の冬野所長は、タバコをくわえたままふんぞりかえった。
目の前には杉浦巡査が制服姿のまま、色の薄いお茶を口に運んでいる...
「そうですか?何か手がかりでも?」
「まず、被害者は風呂には入ってないという事実がある...風呂の湯がきれいだった
し、髪の毛一本浮いてない」
「酒に酔っていて、面倒臭くなったんでしょ..別に珍しくないわよ」
事務机の玉井和子が帳簿を広げながら口をはさむ。
「凡人はそう思うだろな」
「どうせ私は凡人ですよ...ふん」
「痴話喧嘩はそれくらいで、他になにか?」