#1136/1850 CFM「空中分解」
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夏休み>【ブルー・ネットワーク】(15)コスモパンダ
★内容
(14)海の記憶
「嫌だ!」
ド・ルーは、突然、ヌ・タ監視プログラムの前から消滅した。
きな臭い大気の中をド・ルーは飛行していた。
どこといって逃げるあてなどない。ただ、衝動的に逃げ出したのだ。
ド・ルーの体はブリリアンカットのダイヤのようにキラキラと光っていた。
しかし、あまりにも場違いの光だった。下界の姿は想像を絶していたのだ。
大きな波が海面を渡っていく。その波頭は黒く、広大な海はどこまで行っても表面
を煤の厚い層で覆われていた。
陸と海の境界線である海岸では、黒い煤は海水と混ざりタールのようになって地表
に辺張り付いていた。
平野部は一面を煤に覆われていた。
落下する<グング・ジャイ>の中から見た豊富な緑は全く無かった。
黒い平野の中に無数の黒い棒が地表からニョキニョキと生えた部分がある。
ド・ルーがそのすぐ上空を飛行すると、かっての森林はガラガラと崩れ、粉々にな
り、黒い粉塵となって吹き飛ばされた。
谷間にはかって地上を闊歩していた巨大な生物達の屍が折り重なっていた。その屍
も黒いタール状の煤に覆われていた。
ド・ルーは、惑星を数周した。
海も、山も、谷も、空も、全ての惑星表面に黒いタール状の煤がこびりついていた。
そして知ったのだ。
惑星の生命が根こそぎ、失われたことを……。
ド・ルーは突然、地上に叩き落とされた。
ベチャッと地中にめり込んだ。
「ウワーッ!」
真っ黒いタールが光り輝くド・ルーの体にこびりついた。
「ド・ルーよ。これがお前達のしたことなのだ。誰が悪いなどと、責任逃れをしてい
る場合ではない。我等全てに責任があるのだ。ヌ・タ監視委員会は、この事態を重要
視し、惑星再生プロジェクトを開始した。生態系再建のための核として、この惨劇の
直接の加害者である<グング・ジャイ>搭乗者全員を更迭し、再生のために必要とな
る生命核に加害者達の生命核を利用することにした」
「嫌だ! そんなことをしたら、ダール・ボンヌを迎えてしまう!」
「ド・ルーよ。我等に従え」
「いやだーっ!」
真っ黒になったド・ルーは地中から飛び出すと、再び大気中を飛び回った。
何度も何度も、地表に、そして海に叩き落とされ、光り輝く体は今や真っ黒いター
ルに包まれていた。
「止むを得ない。さらばだ、ド・ルーよ。お前を即時解体する。この惑星の生命達の
核となって生きよ」
最後の瞬間、そのヌ・タ監視プログラムの思考を、ド・ルーが感知したかどうかは
分からなかった。
ド・ルーの体は爆散した。
黒いタールがド・ルーの体の破片と共に散った。ド・ルーが秘めていた強烈なエネ
ルギーのため、その破片は大空を飛び、大地に陸に、そして海に飛び散った。
その黒い破片の幾つかに、怨念とも言うべき思念が籠もっていたのだ。
★ ★ ★
「ヌ・タ監視プログラムよ。わしはもう疲れた。この惑星を再建して、既に数千万周
期を過ぎた。生態系は<グング・ジャイ>激突以前とは、様相を一変してしまったが、
漸く海にも陸にも、そして空にも生命が溢れてきた」
「そうだ、イ・トゥーよ、お前はよくやった。罪は罪として罰を受け、ここまで惑星
を再建したその努力は賞賛に値する」
「ヌ・タ監視プログラムよ。この惑星上に広がった私の分身達は、既に数万に及ぶ。
だが、私の生命核達はもう限界に来ているようだ。一つ一つの生命核達のエネルギー
は残り少ない。次々とダール・ボンヌを迎えている。私は疲れた。度重なる酷寒を乗
り越えてきたが、この辺が限界のようだ。もう休ませて欲しい。私はもうダール・ボ
ンヌを迎える。この時空から永遠に私は消えるのだ」
「イ・トゥーよ。それは困る。我等はまだイ・トゥーの力が必要なのだ。あのド・ル
ーの生命核変異体のことが気掛かりだ。あの黒いタールの破片の中に、奴の思念が籠
もっていたとは……。既にこの六千五百万周期の間に数限りない小競り合いを繰り返
してきた。全てを殱滅したとは思えない。これからも、<あれ>はこの惑星の驚異と
なる」
「分かっている。だが、ヌ・タ監視プログラムがいるではないか」
「私は近々、この惑星を去る。この惑星上に高等知能を持った生命体が登場し、あと
僅かで自らの力を発揮し始める。その時、私が居ては邪魔になる筈だ。同時にヌ・タ
監視委員会は惑星再生プロジェクトを解散する。そうなった時、<あれ>に対抗でき
る監視役が必要なのだ」
「残酷な話だ。私にはもうその力は無い」
「イ・トゥーよ。この星が好きか?」
「当然のことだ。自らの過ちで滅ぼした惑星を蘇らしたのだ。愛着が無くてどうする
のだ。だからこそ、生命核のエネルギーが尽きるまで働いてきた」
「ヌ・タ監視委員会は私に特別権限を委譲した。イ・トゥー、お前のダール・ボンヌ
を解除する。レ・ク・ターゥの元に戻る必要は無い。この惑星の生物となって、未来
永劫、この星の滅びるまで、居てはくれまいか? 勿論、お前の分身である全ての生
命核にも同じ処置を施す。我等の最大の汚点である『ド・ルーの生命核変異体』の驚
異から、この惑星の生態系を保護してやってはくれまいか?」
「それは、本当か? 本当にそんなことができるのか? この星の生き物になれるの
か? ダール・ボンヌではなく、この星の一つの生き物として生き死にを繰り返せる
のか?」
「そうだ」
イ・トゥーの思考は止まった。困惑したイメージだけが漂っていた。
「どうしたのだ、イ・トゥーよ」
「嬉しいのだ。この数千万年で最高のできごとだ……。限り無く嬉しい……」
「それでは、いいのだな? この星の生物となることに同意するのだな?」
「同意する」
「但し、言っておくが、新しい生物となった時、イ・トゥーの意識は消える。いや残
ってはいるが微かだ。<あれ>が現れた時、イ・トゥーの意識は、<あれ>に対抗す
る力と共に復活する。その力はイ・トゥーの意識が強ければ、単独の生命体で使える
が、意識が薄いと集団で掛からねばならない。そのことを覚えておけ」
「分かった。ヌ・タ監視プログラム、やってくれ。一刻も早く。この惑星の生命体に
してくれ」
「よし、それでは聞こう。イ・トゥーよ、何になりたい?」
「<あれ>は海にしか存在できない。そうすると、私も海に居るべきなのだろう。そ
うだな。海の生物だ。何がいいだろう……」
イ・トゥーとヌ・タ監視プログラムの眼下の海に、白い波を立てて泳ぐ背ビレの集
団がいた。その中の一頭が空中に飛び上がった。
「あれだ。あれがいい。私はあれになる!」
イルカは呑気そうにケケケケケ・・・・と笑い声を上げていた。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−