#1124/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 88/ 8/21 1:11 (100)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(6)コスモパンダ
★内容
(5)KIKEN!
「所長、駄目でした」
大野がドタドタと部屋に入って来た。
「ヘリは出ないんだろ?」
「えっ、ああ、そう、そうです。すみません」
「警備隊は、後藤隊長か?」
「はあ、薄情な人です」
「彼とは大学時代、水産学科の同期だった」
「あっと、失礼しました」
「いやいい。だが当然だろうな。私が沿岸警備隊なら、夜中にヘリは出動させん」
西田は、すっくと椅子から立ち上がり、窓際に歩み寄った。
「二人も行方不明になってるんですよ。もう少し融通がきかないんですかね」
ルルルル・・・・。ルルルル・・・・。
突然、所長の机の上の電話が鳴り出した。
西田が振り向いた時には、いち早く大野が受話器を取っていた。
「はい、所長席です。はっ、はあ、そうです。えっ、いえ。そっ、そうですか! い
や助かります。感謝します。はっ、そう伝えます。はっ、よろしくお願いします」
大野は受話器を置きながら、西田に報告する。
「ヘリは出るそうです」
「んっ?」
「いえ、もうすぐ日の出ですので、ヘリ部隊は既に待機中とのことです」
「そうか……」
奴らしい。相変わらず固い男だな。筋だけは通す。
西田は、思わず口元がほころびているのに、気付かなかった。
★ ★ ★
「ケン君、聞こえる? ヒトミよ。いるんでしょう? 怪我してるの? ケン君。返
事して頂戴」
何百回、同じ台詞で呼び掛けたろう。
しかし、ヒトデ島は静まり返っていた。
「ヒトミさん、駄目だよ。返事がない」
サーチライトの熱に炙られ、額にぐっしょりと汗をかいたリーが泣き言を言った。
「ふーっ、駄目。おかしいわね。確かにローの声はこの海域から聞こえたのに……」
リーはサーチライトでヒトデ島の海岸線を照らしていたが、そのライトから手を放
した。サーチライトの光はゆっくりと島影から海面を撫で、二人の乗るモーターボー
トの周りの海を照らした。
強力なライトは海中に突き刺さり、突然の光に驚いた魚達が慌てて光の輪の外に逃
れるのが、はっきりと見えた。
「でも、ヒトミさん。ローの声が聞こえるんじゃないのかな?」
「そうね」
ヒトミは、ラップトップを手に取った。
キーを叩くと、画面が現れた。
<QU・・・・・IN・・・>
<RURURU・・・>
「ローだ。イーもいる!」
ヒトミの肩ごしにラップトップを覗き込んでいたリーが声を上げた。
「ヒトミさん、こっちから話し掛けられないの?」
「水中マイクと水中スピーカーは、ここから十キロも離れたセンターのひょうたんプ
ールの中よ。まだ調整が充分じゃないから、イーとローの会話は聞けても、話ができ
るかどうかは分からないわ。それに、このラップトップの送信出力も五十ミリワット
しかないし……」
それでもヒトミはキーを叩き始めた。
<KU KU KIKEN KAERE! KOKO HANARERO!>
<W.A.Y?>
<NO! GO AWAY>
十キロ離れたひょうたんプールの中に備えつけられた水中マイクが、ローの音声を
拾い、センターの大型コンピュータが解読した結果を、無線でヒトミの持っているラ
ップトップパソコンに送っているのだ。だが、翻訳がおかしい。英語と日本語と略語
がごちゃまぜになっている。
「通じたわ。でも、ローは帰れって言ってるわ」
「どうしてだろう? それにケンは?」
<W.I.KEN?>
<H.I.W.U>
「一緒にいるんだ。怪我してないのかな?」
<H.UP! GO AWAY! KIKEN!>
「何が危険なんだろう。ローは何を言ってるんだ?」
<KIKEN! KIKEN! SEE SEA! SEE SEA!>
「海を見ろ? どういうこと?」
リーはボートの船縁から身を乗り出した。
「ヒトミさん!」
「どうしたの? リー」
「海が、海が黒い!」
「ええっ!?」
ヒトミもボートの縁から海を覗き込んだ。そして、息を飲んだ。さっき海中深くま
で突き刺さっていたサーチライトの光が、海面で断ち切られていた。
二人の乗る17インベーダーの周りの海は、ノッペリとした黒一色で塗り潰された
ようだった。まるで、油でも撒いたかのようだった。
「海が……」
ヒトミが呟いたその時、ボートがぐくっと持ち上げられた。
ヒトミはスロットルを開けた。しかし、スクリューは回転するが、空回りしていた。
ボートは完全に水の中から出ていたのだ。
「わっ」「きゃっ」
二度、三度、ボートは揺すられた。そして次の瞬間、ぐーーーーーんと、持ち上げ
られた。
「ヒトミさん!」「リー」
二人はシートに座ったまま、抱き合っていた。
重力に逆らってボートを持ち上げていた力が、ふいに消えた。
ボートはそのまま、海面に落下した。
グワーーーン・・・・。
何か固いものにでもぶつかったような激しい衝撃がボートの底板を破った。シート
から身体を放り出されそうになる。海水が滲み出て、二人の足を濡らした。
再び、ぐーーーーんと持ち上げられたが、その勢いは加速していき、遙か上空にボ
ートを投げ出した。
ヒトミとリーは片手を繋いだまま、ボートから投げ出され、空中をさまよった。
その時、二人は見た。
真っ黒い小山のような大きなものが、海中からせりあがってくるのを……。
パリン! サーチライトが砕ける瞬間、そいつの顔を一瞬捉えた。
ぽっかりと開いた横長の洞窟の中には鋭い牙が無数に並んでいた。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−