AWC AMATI's story 未来のオーダー


        
#1051/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HWA     )  88/ 6/14  14:17  (100)
AMATI's story 未来のオーダー
★内容
はじめまして、だんぼでおます。まだ右も左も分かりません。なにかと、ご迷惑をおかけすることになるかも知れませんが、そのときは愛の鞭をもって、よろしくお願いしまふ。



東京新宿の南口に、AMATIという喫茶店があります。
ただ少し広いというだけで、何の特徴もないどこにでもある古びた喫茶店で
すが、もしも、あなたがここのそばを通ったときには、どうか一息入れて行
って下さい。

「おっ」

カウンターで一番年長者であり、長くここでバイトしている石川さんは顔を
しかめた。
というのも、いつの間にか、カウンターの前に、ホールから通された記憶の
ないオーダーがあったからである。しかも、そのオーダーとはこの店で一番
作るのがやっかいというカプチーノ・コーヒーだったのである。それも三つ
も。
「ったく。まいったな。こんな時間にカプチーノなんか頼むなんて。いった
  い、どこの客だろう?」
石川さんは、その伝票の右下に書かれている卓番を見た。
65卓。
石川さんはそれを見て取ると、しぶしぶカプチーノ・コーヒーを作り始めた。
と、いうのも、実はカウンターからはちょうど見えない位置に65卓はあり
どんな客なのかは分からなかったからである。

石川さんは馴れた手つきで手早くオーダーを作ると、ホールにこれを上げた。
「スリー  カプチーノ上がります」

「はい!」
威勢のいい声がホールから返ってくる。最近入ったばかりの新人、下地さん
は、これをまだ不慣れなトレンチの上にのせ、65卓へと運んでゆく。

と、65卓へと運んでいったはずのカプチーノを持ち、小首をかしげながら
下地さんはまたカウンター前へと戻ってきたのである。

「どうした?」

「それが・・・・・」

「ん?」

「いないんです」

「何?」

「だから、誰もいないんです。65卓になんか」

「何だって?  そんなばかな。現に、ここにこうして伝票があるんだぞ」

「それはそうだけど・・・・本当に誰もいないんですよ」

「かえっちまったんじゃねぇの?」
ホールでは古くからやっている草野さんが、ぶっきらぼうに言う。

「でも、私、65卓のお客さんなんて見てないわ」
これはホールで一番かわいいと評判の長谷川さんである。

「ん。じゃぁ、この伝票切ったの誰だぁ?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「おい。 いないのかぁ?」

「でも、こんな字書く人いたかしら?」

「うむ。サインも書いてないし・・・」

「一体、誰が書いたんだろう?」

「さぁ」

「ま、そんな悩んでいてもしょうがない。いないものはいないんだから」

「そうだな」

カプチーノ・コーヒーはカウンターにバックされ、皆は再び仕事に戻った。
その時、サラリーマン風の男性が三人、入ってきた。

「いらっしゃいませ」

三人の客は、しばらく店内を歩きまわり、席を決めた。
65卓。

そして、その三人の客は、お冷やを持ってきたウェイトレスにこう言った。

「カプチーノ・コーヒー三つください」


東京新宿の南口に、AMATIという喫茶店があります。
ただ少し広いというだけで、何の特徴もないどこにでもある古びた喫茶店で
すが、もしも、あなたがここのそばを通ったときには、どうか一息入れて行
って下さい。

                                   DUMBO OZAKI

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