#969/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (BMD ) 88/ 4/12 13:35 ( 60)
「差別化時代」 (ある日常4) 友岸 誠
★内容
春の日差しも暖かくちょっと気をぬけば気持ちが緩みがちになってしまういそうな
そんなある日の事であった。出張から少々早めに帰ってきた私は、そのまま会社へも
行く気にもなれずに公園へと足を向けた。
ここの公園はいつのまにか、子供達に最後に残された遊び場となっていた。まぁ最
も今では子供達を公園で見かける事もメッキリと少なくなってしまい、ほとんど大人
達の休憩の場となってしまっていたが。
私はあくびをひとつすると空いているベンチを捜した。しかし仕事をさぼっている
サラリーマンも少なくないらしく空いているベンチは見あたらない。仕方が無いので
しばらく公園内を散策することにした。
TOKIO・CITY最後の公園「TOKIO PARK」は最後に生き残ったあ
って広大であった。緑に囲まれたジョギング・コースもあり散歩には適しているだろ
う。
TOKIOにこれだけの緑がある場所といえば皇居かここだけであり、ここが「T
OKIO最後の楽園」と言われるのもうなずける。
しばらく歩いていると空いているベンチを見つけた。噴水が右にあり後ろには林が
ある。なかなかの特等席ではないか。私は腰を降ろすと無意識のうちにポケットに手
を入れ煙草を取り出した。緑の香りを含んだ春の風がとても心地よくつい気を緩めて
いたのだ。
「ふぅっ」
私は軽く煙草の煙を吐き出した。煙はゆるりと私の頭上を越えて風にのって消えて
いった。その時になって私はハッとした。ジョギングをしている人達が足を止めて私
を横目でジッと見ているのだ。
「「「「!! 私はあわてて火の付いている煙草を握り潰した。熱いなんてものでは
ない。煙草のやけどは消えないというがそんな事は考える余裕がなかった。このTO
KIO CITY重要緑保護地帯でもある「TOKIO PARK」には灰皿や吸い
がら入れ等は一切置いていない。公園内は完全禁煙地帯に指定されていたのだ!
火災や他人に害を及ぼす恐れのある煙草は、大型間接税が施行された今となっては
何の意味も持たない物になっていた。かつては税金の立て役者でもあった煙草も大型
間接税の導入により無税となり値段が下がっていった。そして政府は喫煙の権利を守
るという奇妙な名目で喫煙地帯を指定した。それによると喫煙者が自由に煙草を吸っ
ても良いとされる場所は「自宅」「喫煙している友人宅」「建造物内では火災責任者
が認める喫煙場所」に限られてしまいそれ以外の喫煙は禁止という逆に喫煙者を喫煙
場所に封じ込める内容であった。当然喫煙者は反発したが、A国コンプレックスのあ
る日本ではA国でダメとされている喫煙を日本ではいいと声を大きくする人は少なく、
煙草の自動販売機の激減がソレに拍車をかけていった。
私は握りつぶした煙草をポケットにしまった。あまりに汚らしいが煙草を地面には
捨てられないのだから仕方があるまい。捨てた瞬間に私は公衆衛生法にひっかかって
しまい一万円程度の罰金を取られるだろう。罰金だけならまだいい。私が最も恐れて
いることは罰金ではないのだ。A国コンプレックスを持つ日本ではA国的な考え、つ
まりは『煙草を吸う者は自分の心身の調整が出来ない者』という烙印を何処からとも
なく押されてしまうのだ。以前煙草を道で吸っている現場を上司に見られた同僚は、
地方へと転勤していった。社内の放送塔的存在である女子社員の言う所では、もう本
社には戻ってこれないと聞く。いつのまにか喫煙者が差別される時代になっていたの
だ。道路で煙草を吸えない関係上道路脇にあった煙草の自動販売機は次々と姿を消し
ていった。そして火災は減りキレイな駅と歩きやすい道路が残された。
ここはTOKIO・CITY、世界に誇るキレイな街。でも何故か・・・
<おわり>
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如何だったでしょうか? 行数にしてわずか55行足らずなのに何故か苦労してし
まいました。ある方から区読点の注意を受けたので気をつけてみたのですが・・・変
化あったでしょうか?