#826/1850 CFM「空中分解」
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トゥウィンズ・1 三章 (1/3) ( 7/24)
★内容
三章
そのあと僕は、しばらく気を失っていて、全然判らなかったんだけど、あとで
健司から聞いた話では、次のようになったらしい。
僕が気絶したあと、一美は酔っぱらいながら、僕が投げつけた剣を拾い、その
あと僕のペンダントをもう一度拾って魔女に投げつけた。
さしもの魔女も、この玉には弱いらしく、かなり苦しんでいた。
そして一美は、ふらふらしながら魔女に近付き、剣を突いた。と、いうより足
がもつれて前につんのめって、きゃあきゃあ言いながら慌てて手を動かしたら持
っていた剣の先が前を向いて、その先に玉のパワーで苦しんでいる魔女がいたっ
ていうのが正解らしい。
まったく酔っぱらいっていうのは何をするか判らない。一美が危うく転びかけ
ながら剣で突き刺したその先は、魔女の喉元。
「うおーーーっ。ぐわあーーー!」
喉元を剣で突き刺された魔女は断末魔の悲鳴をあげると、最初の魔女と同じよ
うに縮んでいき、灰になって消えてしまった。
そのあと、これまた最初の魔女と同様、あたり一面に白いものが飛び交って、
そこら中が真っ白になり、そして、その白いものは徐々に散っていった。
再び、回りが元のようにはっきり見えるようになったとき、魔女のいたあたり
に、直径5mm位の玉が落ちていた。
一美は少しの間、ぼけっとしていたが、その玉に気が付くと、それを拾った。
しばらくすると、この城の召使いが一人、新しいペンダントを持ってきて言っ
た。
「どうぞ、このペンダントの真ん中に、その玉をお付けください。」
一美は言われた通りに、危ない手付きで玉をペンダントに付けると、召使いは
そのペンダントを一美の首にかけた。
その後、召使いは、一美の新しい玉のそばに落ちていた僕のペンダントを拾う
と、玉に触らないように注意しながら、すぐに鎖を直して倒れている僕の首にか
け、そのまま引っ込んでしまったそうだ。
召使いが引っ込むと同時に回りがざわつきだした。
おりしも宴の真最中。しかも、その宴が行われている広間の中央だったからた
まらない。
倒れている僕と、酔っぱらいながらも、なんとか僕を起こそうとしている一美
の回りに人々が集まってきて、ひざまづき、祈るような格好を始めた。周りのす
べての方向に人が集まってきたもんだから、一美としてはどうしようもなくなっ
たらしい。
それを見ていた健司は回りの人々をかき分けて僕と一美の所に来ると、気絶し
ている僕を抱き上げて、そのまま部屋に戻ったそうだ。
マイア姫は、そこでなんとか元の雰囲気に戻そうとして、
「皆のもの、悪魔は倒れた。博美殿は負傷されたようだが、一美殿も新しく女神
になられ、これ程心強いことはない。そこでこのまま祝宴を続けたいと思う。勿
論また先程のように無礼講じゃ。」
と言うと、また皆騒ぎ始めた。悪魔が来る前と同じように。ただ、先刻と違っ
て皆の話題はもっぱら新しい女神になった一美のことだけだったらしいけど。
そのあと、マイア姫は僕の部屋に来て、健司と共に心配してくれていたらしい。
一美の方はというと康司に抱えられて自分の部屋に行ったあと、ベッドに倒れ
込んだそうだ。
「う……んんっ!」
僕は、なんとなく胸から腹にかけて全体がボンヤリと痛いのに気が付いて、思
わずうめいた。と、同時にはっきりと意識が戻り、目が開いた。
「お、おい、博美。大丈夫か?」
健司が心配そうに顔をのぞき込む。と、途端に腹に痛みが走る。
「あっつ、まだちょっと痛いな。けど何とか大丈夫みたいだ。でも、変だな。な
んか体がだるい。」
「お前、あんまり無茶するなよな。心配するだろ。」
「博美さん、大丈夫ですか? もし、具合いが悪いようでしたら、主治医を連れ
て参りますが。」
「いや、大丈夫。先刻は、ちょっと油断しただけだから。ところでさ、あの後、
どうなったの?」
「一美さんが無事に魔女を倒してくださいました。一美さんも、我らの女神様で
す。」
「へえ、一美もか。あ、そういえば、一美は?」
「酔っておられましたので、今はお部屋の方でお休み頂いております。」
「へ?」
「一美ちゃん、酒飲み過ぎてさ、ふらふらしてたろ? 魔女倒した後で、康司が
部屋に連れてったんだ。」
「なんとまあ……。で、康司は?」
「今、一美ちゃんに付き添ってる。」
「へえ。しかし、どうやって倒したんだろ。」
「ああ、それはな……。」
そう言って、健司は先刻の話をしてくれた。
「へえ、一美もやるもんだなあ。しかし、一美が女神様っていうのもねえ。」
「あれ? じゃあそういう博美は何なんだ? 博美が女神様やってんだったら一
美ちゃんが女神様やったっておかしくないだろ?」
「そりゃ、そうだけどさ。でも、僕だって、女神様の器じゃないって思ってんの
にさ、一美までがねえ……。」
そんなこと言ってると、
「ところで、博美さん、一美さんとは双子ですよね。お生まれになられた時の支
配星は?」
「えっ? 支配星って?」
マイア姫、突然、何を言い出すんだろう。意味がよくのみこめない。
「お二人がお生まれになった時を支配していた星のことです。」
「あ、もしかして星座のことじゃないのか?」
「えっ? 健司、判るんか?」
「判るんかって、お前、自分の星座も知らんのか?」
自慢じゃないけど、こちとら星占いだの星座によって相性がどうのなんてこと
には全く興味ないから、そんなもん知るわきゃない。
「お前、誕生日、いつだっけ?」
「昨日だった筈だけど。」
「昨日? ってことは、八月二十五日だから、乙女座だな。」
「つまり乙女の星の女神様ってことですね。」
マイア姫、ちょっと笑う。
「だけど、なんでこんなこと聞かれるんですか?」
「ええ、ちょっと。」
マイア姫、教えてくれない。一体なんなんだ。
「それじゃ明日は女神様のお披露目の式典がございますので、今晩はゆっくりと
お休みになって下さい。」
そう言うと、マイア姫はどっかに消えてしまった。
「しかし、お前、昨日が誕生日だったのか。こりゃ、なんかプレゼントしなきゃ
いけないかな。」
「いいよ。今更、お誕生日おめでとう、なんてお祝いする年じゃないだろ。」
「でも、俺達の高校じゃ、女の子達、今だに、お誕生日おめでとう、なんてやっ
てるみたいだけどな。」
「そりゃあ、うちの高校だって同じさ。だけど僕には、そんな真似できないんだ。
健司だって今更、誕生日のお祝いなんてしないだろ?」
「ああ。」
「それと同じ。」
なんてこと言ってるうちに、どうにか痛みも完全に治まり、普通に歩けるよう
になった。
と、突然、トントン。ノックの音。
「はい。」
「お召し替えに参りました。」
あ、またお召し替え係。でも、今度は人数が少ない。
「じゃあさ、俺、一度部屋に戻るわ。」
そう言って、健司は部屋に戻った。
その後、ドレスを脱いで、普通の服に着替える。
うーん、さすがに手慣れてるだけあって、まあ、速いこと。あっというまにド
レスが脱げて、殆ど裸の状態になった。
あとは、下着とワンピース着ると、この部屋に来た時と同じ格好になる。
「もう、御用はございませんか?」
「あの、このペンダントはどうするんですか?」
そう、先刻気が付いたんだけど、このペンダント。なぜか、はずす事ができな
い。
「そのペンダントは、女神様としての証です。そのまま付けておいて下さい。他
に何か御用はございませんか?」
「いえ、どうもありがとう。助かりました。」
「では、失礼します。」
うーん、このペンダント、ずっと付けてなきゃならないのか。もっとも全然重
いもんじゃないし、付けてて邪魔になるってもんでもないけどね。
だけど、夏物ワンピース姿にこういう豪華なペンダントは、ちょっと合わない
気がするなあ。
そんなこと考えてたら、トントン、またノックの音がした。
「はい、どうぞ。」
「博美、いい?」
「あ、一美か。お前、もう大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
「酔っぱらってベッドでひっくり返ってたんだろ?」
「うん、でも、もうだいぶ覚めたみたい。まだ、頭がちょっと痛いけど。」
「そうか。で、何だい?」
「えっ?」
「何か用事があるんだろ?」
「うん、実は、このペンダントなんだけどさ。」
「はずせないんだろ?」
「そうなの。で、困っちゃって。えっ? 博美もなの?」
「なんで、困るんだ? 別に重たいもんじゃないし、邪魔になるわけでもないし。
まあ、ワンピース姿には豪華すぎて似合わない気もするけどさ、いいんじゃない
か?」
「でもさ、お風呂入る時、どうすんの?」
「なんとかなるんじゃないかなあ。これさ、決して構造的にはずせないってんじゃ
ないだろ? となると、明らかに、この玉のパワーのせいではずせないってこと
になる。けどさ、このパワーって本人に従うもんだってことだから、はずせなきゃ
困るような時は、すぐにはずせるんじゃないか?」
「そうね。そうかも知れないわね。あ、それとさ、悪いんだけど、今晩一緒に寝
ない? なんか部屋が広過ぎて寂しいのよね。」
「ああ、いいよ。ベッドだってかなり大きいし、二人位は十分寝られそうだもん
な。」
「わーい、よかった。」
なんて話してたら、
「博美。いいか?」
って言って健司と康司が入ってきた。
「どうぞ。」
「あれ? 一美ちゃん、起きて大丈夫なのか?」
「あ、康司くん。先刻は迷惑かけてごめんね。」
「で、二人共、どうしたんだ?」
「いや、ちょっと気になったことがあってな。前にマイア姫が話してくれた中に
さ、悪魔を倒した人間は次に必ず悪魔から狙われるって話があったよなあ。でも
って、実際に先刻二人目の魔女が現れて博美を襲って、一美ちゃんがそれを倒し
た訳だけどさ。博美と一美ちゃん、このままで大丈夫かなと思ってさ。」
康司の奴、少しは心配してくれてるらしい。
「まあ、なんとかなるんじゃないのか?」
「それに、今夜も一緒に寝るつもりなのよね。」
「でもさ、悪魔ってのが、あんまりたくさんいるようじゃヤバいだろ?」
「じゃあさ、明日、マイア姫に聞いてみよう。悪魔が全部でどれくらいいるのか。」
「ああ、そうだな。だけど俺達、人間相手なら自信あるんだけど、どうも悪魔は
苦手だ。」
「でもさ、普通の人間が相手だったら、絶対に僕や一美じゃ太刀打ちできないぜ。」
「あれ? 一美ちゃんはともかくとして、博美は剣道やってなかったっけ?」
「だけど、たかだか二級だったしね。それにさ、こんな体つきじゃ基本的に体力
が違うっていうの判るだろ? まともに人間の相手して勝てる自信なんて、全く
ないぜ。まあ、威張って言えることじゃないけどさ。」
「そうか、そう言われればそうだな。」
「そういうこと。ま、とにかくさ、今日はもう寝ようぜ。いい加減、疲れちまっ
た。」
「ああ、そうだな。俺達もそろそろ寝るとするか。」
健司と康司、立ち上がって、
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
一美が言葉を返して、二人が部屋を出る。さて、こっちも、そろそろ寝るとす
るか。
「ねえ、寝る前にさ、お風呂入らない? 先刻、汗かいちゃったから気持ち悪く
て。」
−−−− 続く −−−−