AWC トゥウィンズ・1 二章 (3/4) ( 5/24)


        
#824/1850 CFM「空中分解」
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トゥウィンズ・1 二章  (3/4)  ( 5/24)
★内容
 知識や技術を交換し、また、新しい方法なども考えることによりいろいろな農
業技術が開発され、それが普及するにつれて土地は肥沃になり、人々の生活は豊
かになっていった。ところが人間の欲というのは限りがなく、ある程度土地が肥
沃になると、そのような土地を必要以上に欲しがるようになった。だが生活が豊
かになり、贅沢になれてしまった人間達は、もはや新たな土地を開墾しようとさ
えせずに、ただひたすらに人の土地を手にいれることだけを考えるようになった。
しかし、いままで仲良くやってきた仲間同士で土地の奪い合いをするわけにはい
かない。人々の目は他の地方に向けられた。
 他の地方にも、この地方と同様にしてできた集落の集まりがいくつかあり、や
はり同様のことを考えていたらしい。それぞれの地方と別の地方との間で小ぜり
合いが起こるようになり、それがやがて大きな戦いを引き起こすようになった。
が、所詮は農耕民族の悲しさ、武器らしい武器一つ持たないため、本当の戦争ら
しい戦争にはならなかった。
 こうなるといつまでたっても戦いは終りそうにない。そこで一部の人々は呪術
で相手を呪うことを始めた。方法として、直接相手を呪うやり方と、相手に被害
が及ぶように神に祈るやり方が取られた。だが実際には、相手を呪うことなどで
きなかったし、また相手を呪うために都合のいい神などいる訳がない。
 結果として悪魔が呼び出され、相手に被害を与えてくれた。お互いに同様のこ
とを行ったため、それぞれの地方でたくさんの悪魔が呼び出されてしまった。
 こうなってくると、互いに呪い合ってばかりもいられない。それぞれの地方は
手を結び、王を立てて一つの国になり、いままで呼び出された悪魔達を共通の敵
として倒そうとした。
 しかし、人間達の身勝手さに怒った悪魔達は逆に人間達を魔法を使って言いな
りにし、支配し始めた。そうして遂に悪魔達は各地方のすべての出城及び中央の
城を乗っ取り、そこにいた人間達の精を吸って住むようになった。
 勿論、人間達も手をこまねいて見ていた訳ではない。何人かは実際に悪魔を倒
すことに成功している。だが、悪魔達はどういうわけかそれを知り、すぐさまそ
の人間を襲って精を吸い取ってしまう。こうして、倒された悪魔達のパワーと精
を吸われた人間達のパワーは蓄積され、現在残っている悪魔はどれも、殆ど倒す
ことが不可能な程のパワーを持っている。−−−

「そのパワーは悪魔が倒されると、そこに結晶として残されるようになったんで
す。その結晶と言うのが、今、博美様が持っておられる玉なんです。そして、そ
の玉に秘められたパワーは、そのまま、博美様のパワーになる筈なんです。」
「ちょっと待って。と言うことは、近いうちに別の悪魔がやってくる訳?」
「そういうことになりますね。でも、博美様のパワーもかなりのものになってい
る筈ですから、悪魔達が、博美様を襲うことはかなり困難になっていると思いま
す。」
「それで結局、僕が神様扱いされるっていう理由はなんなの?」
「ええ。悪魔を倒すこと自体、普通の人には不可能なんですね。もし倒せた人が
いれば、その人は神の化身か使いの方なんです。ですから、博美様は、いずれに
しても神様扱いされるんです。」
 あ、頭が痛い。しかし、なんつう理由じゃ。
「あの、もう一つ聞いていいですか? マイア姫にも判らないことかもしれない
けど。」
「なんでしょう?」
「先刻、この玉を拾った時ね。なぜか僕以外の人がこの玉を触ることができなか
ったんだけど。」
「それはですね。その玉のパワーの問題なんです。どういう状況でかは判りませ
んけど、あの魔女は、博美様が倒された訳ですよね? その場合、その悪魔のパ
ワーは、博美様だけのものになるんです。そして、そのパワーは他の人には手に
負えない程のものですから、おそらく他の人は触ろうとしただけでもかなり熱い
感じを受けることになると思います。」
「そうすると、この玉は完全に僕にしか触れないってこと?」
「ええ、そうです。でも気を付けて下さいね。いくら、博美様のパワーが凄くて
も、次に襲ってくる悪魔もかなり強い筈ですから。」
「そうか、また別の悪魔が襲ってくるって言ってたもんね。」
「ええ、十分に注意して下さいね。あなたは私達の女神様なんですから。」
「ところで、申し訳ないんだけど、お願いだから博美様っていうのはやめてもら
えません? なんか自分のことじゃないみたいで。それに、丁寧な言葉を使われ
たことってあまりないから、変な感じがするんです。」
「そうですか。それじゃ、博美さんてお呼びすることにします。」
「お願いしますね。」
「あ、そろそろ、お召し替えの準備も整う頃ですわ。お召し替えが済んだら、お
迎えに参ります。それでは健司さん、康司さん、一美さん、部屋にお戻り下さい
ね。」
 そう言ってマイア姫、にっこり笑うと部屋を出ていった。そのあと三人も各々
の部屋に戻った。

 三人が各部屋に戻ったあと、しばらくすると、ノックの音がした。
「はい、どうぞ。」
「お召し替えに上がりました。」
「はい。」
 はい、って答えたはいいけど、なんだ? この人数は……。
 扉を開けて入ってきた人の数を見て、僕は呆然としてしまった。
 そして、その後の、まあ大変だったこと。お召し替えと言ったって、せいぜい
ちょっとした服に着替えるだけだと思っていた僕があさはかだった。
 まず、いきなりお風呂に入れられて(すごく豪華で広いバスルームだった)、
全身すみずみまでしっかりと洗われた。これに三人がかり。僕は全く何もしなか
ったのに、汚れが完全に落ちたようだ。体中がヒリヒリする。そして、体を乾か
す係が一人。
 あと、女の子だからってんで化粧してくれたんだけど、そのための係が一人。
 それと髪の毛を整える人も一人いた。
 同時に、服を着るのが大騒ぎ。下着から始まって、ドレス着終るまで、何人の
手がかかったかなんて、もはや覚えてもいない。ただ僕が全く何もしなかったっ
てことと、服着るのと化粧するのと同時進行で、やたらと忙しかったのだけは覚
えている。
 そして最後の仕上げ。
 えーっ? 何これ。ペンダントかな? それも、きらびやかな飾りのついた、
それでいて、結構可愛らしい奴。えっ? このペンダントの真ん中の飾りの中に、
この玉を付ける訳?
 まあ、確かにこの玉に触れるのは僕しかいないけど、でも何でこのペンダント
に付ける必要があるんだろ? まあ、いいか。
 そして、そのペンダントを首に下げて、ハイ、おしまい。準備完了。
 一通り終って、お召し替え係が引き上げたあと、ふと鏡に写った自分の姿見て、
絶句!
 えーっ? こ、これが僕? うっそだろー。
 鏡の中に、見たこともない美人が立っていた。でも確かに僕なんだよね。だっ
て、この部屋、今は僕しかいないし、それにこれ、間違いなく普通の鏡だもの。
でも、完全にどっかのお姫様みたいだ。うーん、あの化粧係の人、かなり腕がい
いんだな。しかしまあ、僕も、ここまで化けることができるのか。
 ……なんてこと思いながら鏡の前に立っていたら、扉が開いて、一美が入って
きた。
 でも、入ってきた時、それが一美だって判らなかったので、思わず聞いてしま
った。
「あ、あの、どなたですか?」
「えっ? あれ? ここ、博美の部屋ですよね?」
「えっ……て、えっ? あれ? 一美? うっわー、見違えたなー。」
「やっぱり、博美のお部屋よね。でも、本当に博美? 信じられない。」
 そりゃ、そうだろう。僕だって信じられないんだから。
 そのあと、しばらくの間、互いに絶句してたんだけど、いつまでもこうしてる
訳にはいかない。
「ねえ、博美、健司くんと康司くんの所に行ってみない?」
「そうしようか。」
 とりあえず、健司の部屋に行く。扉をノックすると、中から、どうぞ、なんて
声がする。
 一美と共に中に入ると、康司も来ていた。で、その姿を見て一美も僕も一瞬絶
句して立ちすくんだ。なんなんだ、こいつらは。随分と格好いいじゃないか。騎
士みたいな格好してる。
「あなたがたは?」
 僕達が絶句してたら、健司も康司も、一美と僕であることが判らなかったらし
く、やたらと丁寧な言葉で聞いてくる。
 ようやく気を取り戻して、
「へえ、信じられないな。本当に健司と康司か?」
 って言ったら、その声と言葉の調子で、ようやく僕達だってことが判ったらし
い。
「ええっ? もしかして、一美ちゃんと博美か?」
 今度は、健司と康司が絶句する番。しばらく無言の時が流れる。
「うっわあ、一美ちゃんも博美も、えらく可愛くなっちまったなあ。それにまあ、
よく似てること。髪の毛の長さが同じだったら絶対に判らないぜ。」
「そう言うお宅らだって同じだろ。今は康司の方が髪の毛が長いから、なんとか
見分けが付くけどさ、もし同じだったら、判らんぜ。」
 トントン。またノックの音。
「はい、どうぞ。」
「ああ、皆さん、こちらにいらっしゃいましたか。お召し替え終りました?」
「あ、マイア姫。どうぞ。」
「あの、じきに、宴の用意ができますから、もう少しお待ち下さいね。」
「ところで、マイア姫。なんで、姫が直々にお世話をされるんですか?」
「ええ、普通のお客様なら、召使いが参るはずなんです。ですけど、博美さんは
今、この国の女神様ですよね。この国では神様の接待役は、王妃か王女が務める
ことになっていますから、私がお世話係を務めさせていただいてるんですけど、
なにか不都合でもございましたかしら?」
「いえ、そうじゃなくて、姫直々っていうのが、なんか申し訳なくて……。」
「でも、博美さんは今、とても偉いお方なんですから、そんなこと気になさって
はいけません。」
「そうは言っても……。」
 と、言いかけたところで、トントン、またノック。
「失礼致します。宴の用意ができました。皆様、広間の方までいらして下さいま
せ。」
「では皆さん、ご案内いたします。どうぞ、こちらへ。」
 僕達はマイア姫に導かれるまま、歩きだした。
 しかし、この歩き方、とても自分とは思えない。多分、生まれて初めて、こん
なドレス着てるのと、生まれて初めてヒールなんて履いてるもんだから、歩きに
くかったこともあるんだろうけど、すごくおしとやかって感じで歩いているのが
自分でもよく判る。
 そのまま広間に行くと、まあ、豪華になったこと。きらびやかに光るシャンデ
リア。テーブルの上には見たこともないような御馳走。そして、あまりにもたく
さんの人達。勿論、全員正装して。
 よく物語の中に出てくるお城のパーティーって多分こんな感じなんだろう。だ
けど、僕にはあまりにも分不相応って感じがして気遅れする。中にいた人達全員、
こちらを向いていっせいに頭を下げる。
 中央に敷かれた真っ赤な絨毯の上をマイア姫、こんな風情は当り前って顔で進
んで行く。僕達は、一瞬躊躇して足が止まったんだけど、マイア姫がそのまま進
んで行ってしまうので、仕方なしに後をついていく。
 そんな僕達の気持ちを知ってか知らずか、マイア姫は上座の方へ進む。ええ?
 じょ、冗談じゃない。こんな華やかな場所、部屋の隅にいることさえも気遅れ
するのに、よりによって一番めだつ上座だって? わあー、パニック!
 パニック……できなかった。いや、する暇もなかった。頭の中が大混乱を起こ
す前に、すでに心ここにあらず、呆然自失。マイア姫に勧められるままに席につ
き、訳も判らぬうちに、祝宴は始まっていた。
 ふと我に返って、回りを見回すと、一美が隣にいた。そして一美と僕を挟むよ
うにして、僕の隣に康司、一美の向こうに健司が座ってる。
 しかし、先刻マイア姫が言ってたの、嘘じゃないんだな。本当に皆、僕を女神
様としてあがめているのが判る。だけど全く冗談じゃない。本当に僕なんかが女
神になった日にゃ、この世の終わりが来るんじゃなかろうか。
 皆の方は時間が経つにつれて、もう無礼講って感じで酒も回って、陽気になっ
ていった。
 宴そのものは、まるっきりバイキング形式のパーティーだったし、僕は女神と
してあがめられるままに席についてるのいやだし、一美も席についたままじっと
してるのが嫌いな方だから、皆が騒いでる中に一緒に混じりたかったんだけど、
でも無礼講で騒いでる人々の中に、一応女神様としてあがめられてる人間が入る
わけにもいかないので、仕方なく席についたまま、皆の様子を見てた。
 しばらくの間、ぼけっとしてたんだけど、他にすることもないし、それに、あ
んまり暇だったから、こっちはこっちでマイア姫を含めて五人で軽くお酒なんぞ
飲みながら、お喋りしてた。うん、このお酒、結構いける。僕の部屋で飲んだワ
インみたいに口当りが軽くておいしい。
 そのうち、音楽がワルツっぽい曲に変わった。今までは気が付かなかったんだ
けどね、それまでずっと邪魔にならないような曲が流れてたんだ。BGMとして
は完璧だね。
 で、このワルツに乗って、皆ダンスを始めた。しばらく、その様子を、ほけっ
と眺めてたんだけど、はっきり言って、見ているだけってのは退屈以外の何物で
もない。
「なあ、一美。少し退屈しないか?」
「ひっく。あーにい?」

−−−− 続く −−−−




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