AWC 新リレーA>第6回  そんなこんなで映画館  クエスト


        
#696/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG     )  88/ 1/18  20:44  ( 74)
新リレーA>第6回  そんなこんなで映画館  クエスト
★内容
「「どらえもん」は止めようか」
鈴木健作が、歩みを止めて言った。鈴木先輩は鈴木健作という名前であった。
三番館というか、古い名画ばかり上映している映画館の前だった。
「理由なき反抗」、「エデンの東」、「ジャイアンツ」、ジェームス・ディーン主演
の映画の3本立てであった。
「はい、先輩。私、ディーンの映画見たことがなくって。一度見たいと思ってたんで
す」深雪は嬉しそうに答えた。実は「ジャイアンツ」はテレビで見ていたのだが、そ
こはそれ、嘘も方便、かまいはしない。
 二人はチケットを買い求めると古びた小さな映画館に入っていった。
慌てたのは二人を尾行していた御一行様である。こういう映画館はやけくその営業、
少ない客でも平気のへいざ。館主の趣味みたいなものだから、どやどやと入って行く
と目立ってしょうがない。直美と祥子のコンビは暫く間を置いて一応さり気なく入っ
て入った。佐藤アーミーは、黒いスーツでは目立つと言うので、急遽必要経費で近く
のメンズショップでブルゾンを買い求め、ダーティーハリー風にイメージチェンジし
た諜報員No.2が颯爽と乗り込んで行った。
 困ったのは鈴木健作の母、鈴木良江の率いるP.T.A団という、どうしようもな
い団体、一体なんなんだと言われても作者も困ってしまう団体であった。いい歳をし
たおばさんがジェームス・ディーンでもあるまいに。しかし、その中で私こそ元祖デ
ィーンファンと自称するおばさんがいて、取り敢えずその人が入り、他の面々は映画
館の向かいの喫茶店で井戸端会議を延々と繰り広げながら待機することとなった。し
かし、もう2時近い。これから映画が終わるまで待機となると...今晩のおかずは
北東百貨店地階のお惣菜であろうか。
 レトロ趣味というのではないが、映画館は古き良き60年代の雰囲気を漂わせ、何
だか懐かしい感じがする。つまり、ロマンチック。人影も少なく、いやでも二人の雰
囲気は飛んでいく。いつもの学校の生活からタイムワープしたみたいで、二人は解放
感にも浸っている。でたーーーー!もうじきや。もうじきクエスト現象が!
 二人は当然前の方に座った。ふっふっふ。映画館は前、前でっせー。空いてるんや
ねこれが。まあ、ここはもともとがらがらには違いないが、健作は前に1年生の裕子
を誘ったパターンが頭に刷り込まれている。困った男だ。
 二人はもううるさいのは追い払ったと思っているから、まさか後ろの方に三組も張
りついているとはご存じない。諜報員No.2などはオペラグラスに似せたノクトビ
ジョン(暗闇でもはっきり見えーる。やらしいやつ。)を早速取り出している始末。
 丁度、「エデンの東」が始まったところ。ディーンがいじけた若者を伏目がちに演
じている。深雪は早速のめり込んでしまった。健作はポプコーンを頬張りながら、映
画と深雪とを4分6くらいの感じで見ている。
「暗闇。ムードのある映画。少ない客。ついに最高の場が設定された。後はむふふ」
「健作さん、何笑ってるんですか」深雪が不思議そうに尋ねた。健作はポップコーン
を吹き出すと、慌てて取り繕う。「ああ、ちょっと思い出し笑いしちゃって。ごめん
ごめん」まったく、今ディーンが父親に冷たく突き放されるという悲劇的なシーンだ
というのに。困った男だ。しかし、健作は西武の清原のようなちょっとませた男の子
であったが(P.T.A団がつけているのも清原、もとい健作の度重なる不品行のせ
いなのである。)、片や深雪は純情、何しろ初めてのデート、こうしているだけでも
何か大それたことをしているようで、胸がドキドキワクワク時めいて、凄い冒険をし
ている気分。作者にもそんな時代があったっけ...
 直美は変装が映画館の暖房で蒸されて気分が悪くなりそうだった。しかも憧れの鈴
木先輩とあのペチャパイがデートしてるのを指をくわえて見張っているだなんて。
「私、帰る」直美はたまりかねて言った。「何いってんのよ。深雪を見捨ててしまっ
ていいの」と、興味深々の祥子は訳の判らない理屈をいって直美を止めた。
「だって!」映画館に直美が自分でも驚いた程の声が響き渡った。それはまさに清原
、もとい健作が深雪の肩にじりじりと毒牙ならぬ手を回そうとしていた時であった。
「あら、何かしら。何だか聞き覚えのある声だわ」深雪は後ろを振り向いた。
「映画館で騒がないで下さい!」健作は今にも深雪の肩を抱こうとしていた手のやり
場に事欠くと共に、プロジェクトHを邪魔された腹いせに指をさして怒鳴った。しか
し後ろの方にそれらしい人影はなかった。「おかしいわ。まだ誰か私達のこと追いか
けているのかしら」「気のせいさ。彼氏と何かもめごとでもあったんだろう」健作は
せっかくのチャンスをむざむざと見送りたくない一心で言った。「もめごとって?」
「映画館の中で彼女にいちゃつこうとでもしたんだろう。困った彼氏だよ」「あらい
やだわ。私、鈴木先輩と一緒でよかったです。先輩はスポーツマンだし、真面目な人
だし」まさか鈴木が清原であろうとは。深雪は現実を把握していなかった。清原、い
や健作も深雪にそういわれては痛し痒しである。「まあ、今日は初めて会ったんだし
、エデンの東を深雪さんと二人で見て帰ってクソして寝るか...」と、殆どやけく
そである。しかし、一心に映画に浸っている深雪の横顔には清純さ、可憐さが溢れて
いて、いままで健作が付き合った女、いや中学生だから女の子からは受けなかった一
種気高い印象を受け、健作は今まで深雪の肩を抱いたり、手を握ったり、ふともも.
..さらに...などとしか考えていなかった自分が恥ずかしくなった。
「深雪さん」
「え、鈴木先輩?」
「あの...」
「え?」
「これからもずっと僕と付き合って欲しいんです」
「...はい!」
 映画も最高潮に達していた。

                      <つづく>




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