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★タイトル (AZA ) 24/12/28 17:00 ( 64)
漫画の感想>『方舟』 永山
★内容
漫画の感想>『方舟』1〜3巻(悠木星人/原作:夕木春央 講談社/スクウェアエニ
ックス)※ネタバレ注意!
原作の小説がとても評判がよく、当然、読むつもりでいました。が、なかなか機会を
得られず、その内、全三巻でコミカライズされているのを知り、さらに電子版の第一巻
が期間限定で無料購読できるとあって、つい読んでしまいました。結果、続けて二巻、
三巻と購入することに(しっかり値引きクーポンを最大限活用した ^^;)。
あらすじを、少し視点と順番を入れ替えて記すと――携帯端末の電波が届かないほど
の山奥を探険がてらの散歩中、自然には似つかわしくないマンホールの蓋のような物を
見付けた裕哉。そこは、終末予言に備える新興宗教の教団がかつて使っていたと思し
き、巨大な地下シェルターの出入り口だった。出入り口は二つあり、一つは通常使用、
もう一つは非常脱出用で、非常口の方は水没していて端から使えそうになかった。終末
思想の教団らしいと言うべきか、出入り口の蓋は両方ともモニターされており、さらに
地下の居住スペースの手前には、いざというときのためだろう、大岩を落として“敵”
を阻む細工がなされてもいた。
裕哉は学生時代の友人ら六名を誘い、詳細を明かさずにシェルターにまで案内する。
そこで一晩過ごそうというサプライズのつもりだった。
夜になり、きのこ狩りに来て道に迷ったという親子三人――両親と高校生ぐらいの男
の子――を加え、十名で寝泊まりすることになった。が、突然の激しい揺れにより、事
態は一変。大岩が揺れで落ちたため、居住スペースは孤立。ワンフロア下にある機械を
動かせば岩をさらに落とすことは可能だが、その場合、機械を作動する役を担った者は
閉じ込められ、助けを待つことになる。モニターを見ると、非常口の蓋の方は土砂崩れ
でほぼ埋まっていたが、通用口の蓋の方は無事だった。
これだけなら機械を動かす役も数日救助が遅れるだけで助かる。誰かが貧乏くじを引
けば済む事態だった。ところがこれまた地震の影響だろう、地下水が徐々に増え、一週
間と経たずに居住スペースを没するものと推測された。計算上、機械を動かす役の者は
救助が間に合わず、溺死が確実となった。
そうした状況が明らかになったとき、すでに裕哉は絞殺されていた。一体誰が何故こ
のタイミングで? 殺人の解決もさることながら、犯人を特定し、そいつに機械を動か
す役を担わせるのが道理ではないかという空気に包まれる。
多人数を助けるために、一人に犠牲になることを強いるのは許されるのか? たとえ
それが殺人犯であろうとも……。
――といった具合。裕哉視点みたいな書き方をしましたが、実際はそうではなく別の
人物の視点を取っています。
作中で、はっきりとした言及はなかったみたいなんですが、これ、緊急避難を適用で
きるのかな?
※以下、ある意味ネタバレです。本作の読者となった“あなた”が想像するかもしれな
い仮説の一つを、前もって「それは違っていました」と消してしまうので。
第一巻を読み終えた時点で私が想像した“衝撃の結末”は二つ。ちなみに、犯人を絞
り込むロジックは探偵役が推理を語り始めるまで、ほとんど分からなかったです。
一つは、シェルターを塞いだのは地震と決め付けていたが、実はそうではなく、第三
次世界大戦もしくははそれに類するような戦争が始まり、核ミサイルが日本に撃ち込ま
れた、その衝撃によるものだった。つまり、一人を犠牲にして残りの面々が外に出たと
ころでじきに死んでしまう。まだ地下シェルターに残っていた方が、いくらかでも生き
長らえられる。そういう意味では、シェルターはまさに「方舟」と称するに相応しかっ
た……てなオチ。
もう一つ想像した方、これが正解を射抜いていました。多分、漫画で見た方が気付き
やすいと思う。それでもなお衝撃は大きかった。
本作はその衝撃の幕引きが評判を呼んでいるようですが、ミステリとしての肝はそこ
ではなく、ロジックにあるように思います。犯人特定のロジックと、その後にもたらさ
れる衝撃につながるロジック。それぞれが美しく決まっている。状況設定に遺漏がない
とは言わない(たとえば、さやかはスマホをなくして探していることをどうして誰にも
言わないでいたのか、とか)。でもまあ些末な事柄として片付けてもいいレベルでしょ
う。
ところで、原作小説『方舟』の文庫版(講談社文庫)に付いた有栖川有栖の解説が評
判になっているみたいで、ならばこの感想をUPするのも、その解説を読んでからにし
ようとかんがえていたのですが、立ち読みで済ませようと目論んでいた(^^;ところ、ど
の書店に行っても文庫版『方舟』はビニールでパッケージされていて、開けない。同時
期刊行の他の講談社文庫は、どれも封はされていないみたいなのに。私が考えたような
立ち読み勢を防ぐために、封をする契約で刊行したとかだったり?
ではでは。