AWC N(何か)Y(良いんじゃない)の出来事   永山


        
#1873/3580 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA     )  21/08/06  20:04  ( 59)
N(何か)Y(良いんじゃない)の出来事   永山
★内容
ドラマの感想の続き>「古畑任三郎」の『ニューヨークでの出来事』
※昨日の書き込みで第三シーズンとしていましたが、第二シーズンの誤りです。また、
サブタイトルも一文字脱字しており、正しくは『ニューヨークでの出来事』でした(訂
正済み)。すみませんでした。

 さて、些末なことかもしれないが気になった点を挙げてみます。

・のり子はどうやってたい焼きを用意したのか。
 お手製ではないでしょう。そんな道具があったら、警察だって見付けている。当時
(初オンエアが一九九六年で、事件は六年前に発生とされているから一九九〇年)のニ
ューヨークでたい焼きを手に入れるにはどういうルートがあったのか知りませんけど、
少なくともありふれた食べ物ではなかったでしょう。仮にたい焼きを売っている店があ
っても数は少なく、購入客の特定は比較的容易だったと推察されます。のり子自らたい
焼きを買って、毒殺に用いたのだとしたら、入手経路からあっさり嘘がばれた可能性大
です。

・毒の入手経路は?
 元々、のり子は完全犯罪を企図してはいなかった。それどころか捕まってもかまわな
いと考えていた節がある。ということは毒物も手近にある物で済ませるのが普通ではな
いか。毒物は農薬の一種らしく、のり子の家にあった物だとしてもおかしくはない。そ
れを警察は見付けられなかったのかどうか、作中では言及がないので分かりません。

・何故、トリックを用いたのか。
 先述の通り、完全犯罪のつもりはなかったのに、どうしてトリックを弄したのか。捕
まってもいいと考えているのなら、どんな殺し方だってかまうまい。夫はのり子よりも
小柄だったそうだから、体力的にも勝っていたかも。だとしたらわざわざ毒殺に拘る必
要もない。
「いややはり男の腕力は怖い、だから毒殺でなければならなかったんだ」としても、毒
を摂取させる方法なんていくらでもありそうだ。夫が妻を警戒して妻の用意した物は一
切口にしないという設定だけれども、私室にこもって小説執筆する夫の目を逃れ、飲食
物に毒を仕込むことぐらい容易いでしょうに。口にするすべての飲食物をチェックする
ような事態になっていたとしたら、まず同居なんかしていられないし、たい焼きを分け
合って同時に食べることすら拒むでしょう。

 ミステリにおける犯行は、こんな凝った殺し方をしなくてももっと簡単なやり方があ
るだろうに、という指摘が当てはまる物が多いのは事実です。でも作中の犯人は面倒な
トリックを弄することで自らに嫌疑が掛からぬようにするという目的があります。
 一方、『ニューヨークでの出来事』の犯人は、捕まってもかまわないつもりで殺人に
及んだのに、何故かトリックを使った。まさしく無意味な行為です。無理にでも意味づ
けするとしたら、夫が苦しむ姿を確実に目撃したかった、安全と信じ切っている食べ物
に毒が入っていたという事実に夫が驚愕するところを見届けたかった、ぐらいかしら
ん。命を奪うつもりはなかった、というのも考えられるかもしれません。

 数あるエピソードの中でも異色のエピソードとして、一部で評価が高いとされる『ニ
ューヨークでの出来事』ですが、私見では、警察の能力を低めることによって成立して
いる点は、それなりマイナスすべきかと。
 大前提となる、“無罪判決が確定している”との状況がクリアできていたら、まごう
ことなき傑作……と言いたいのですが、多くの方によって指摘されているらしい、「今
川焼きはトースターには入らないから温められない」とのロジックに難があるのは、や
はり看過できないかなと。

 それでもなおこのエピソードは面白い。ミステリとしての細かさに加え、動きに乏し
く単調になりかねない設定を、今泉のおちゃらけた行動で変化を付けて、愉快なコメデ
ィに仕立てている。その上、解決への重要なヒントを出すことにも結び付けている。さ
らに言えば、現在ののり子が米国にてどういう目で見られているかを、ラスト前に一度
示唆しているのも、今泉のドタバタに紛れてさりげなくできてる。よく考えられた話だ
ったと思います。

 ではでは。





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