#312/3623 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 17/12/26 21:25 ( 74)
さんずいに腕押し 永山
★内容
WOWOWのドラマ「石つぶて」最終回を録画視聴。ネタバレ注意です。
木崎と斉見は、真瀬が横領した金は外務省から官邸に渡った裏金とみて捜査の詰めに
掛かる。そんな折、官邸サイドから金の入出金記録の開示を認めると言ってきた。意外
感に囚われる木崎らだったが、実際に官房局長と対面し、資料を手渡された瞬間、その
意味を解した。資料はほぼ黒塗りで、お話にならない。外務省機密費という金の性格
上、おいそれと明かす訳にはいかないと言われてしまっては、強制できなかった。さら
に官邸サイドからは要望が出される。真瀬の罪状を横領ではなく、詐欺罪に変更してく
れという。政治家や官僚を巻き込んだ大スキャンダルを隠すべく、真瀬一個人の犯罪に
してしまおうという狙いは見え見えだった。
激しく反発する木崎や斎見らだったが、上の判断は、詐欺罪で行くというもの。直に
会い、理由を問うと、業務上横領ともなると金の出入りをきっちり確定する必要があ
る。これに対し、詐欺ならば、真瀬が偽領収書を用意し、公の金を自らの懐に入れたと
証明するだけで立件可能。横領で進めて、万が一にも不起訴処分で終わりでもすれば、
警察の大失態となる。しかも、そのまま事件はなかったことにされ、早々と風化してし
まうだろう。それに比べれば、確実性の高い詐欺罪で立件し、事件をしっかりと歴史に
刻むことで、楔を打ち込みたい。取り調べ開始後の追起訴もある。こう説明された木崎
らは、まだ完全には納得していなかったが、その方針を飲むことにした。
紆余曲折はあったが、いよいよ真瀬の逮捕、そして本格的な取り調べが始まった。木
崎らの調べでは、真瀬が官邸から引き出した金は十一億円余りで、うち横領したのは九
億円余りと出ていた。これに対して、取り調べで確定したのは、一九九五年以降の五億
円余りのみ。それ以前の記録は外務省で処分されて分からないという。使途について
も、真瀬が指摘に着服した分以外に、関係のキャリア官僚への度を超した高価なお土産
や、賭け麻雀でわざと負けて大金を動かしていたなどの証言が上がったものの、明確な
証拠がなく、キャリア官僚を切り崩すには至らない。結局、詐欺罪での追起訴はあった
ものの、検察の冒頭陳述では、横領ではなく詐欺罪のまま行くことに。しかも、金の出
所として、官房の裏金云々の話は消えていた。
憤懣やるかたない木崎は、公判開始を数日後に控える真瀬を訪ね、面会した。任意で
聴取したときと違うようだがと問い質す木崎に、真瀬は取り調べの検事に聞かれなかっ
たからと答える。何かの力が働いたのかと重ねて聞く木崎に対し、真瀬はこうなると最
初から分かっていたと応じた。外務相は諸外国に、警察検察の天下り先となるポストを
いくつも持っている。ここで検察が真っ向勝負を仕掛けてくるようなら、外務省はその
報復として、回すポスト大幅に減らすだろう。それを恐れて、意に沿った調べが行わ
れ、そして裁判もそうなるだろう、と。木崎は、それでもおまえ(真瀬)は生き証人
だ、おまえが裁判で証言を改めてすれば、キャリア官僚らの汚職を天下の元に引きずり
出せるんだと説得を試みる。
七月に裁判が始まり、審理は粛々と進められる。真瀬が裏金に言及することなく。
十一月、結審の日の法廷で、裁判官から、最後に何か言いたいことはないかと問われ
た真瀬は、ありますと答える。傍聴を続けてきた木崎が、少し顔を輝かせる。果たして
真瀬は、自分が起こした不祥事で世間を騒がせ、省庁に迷惑を掛けたことを改めて詫
び、頭を深々と下げた。それが終わってもまだ何か言いたそうな真瀬を、裁判官が再度
促す。真瀬は口をしばらくの間むずむずとさせたあと、やっと言った。「何もありませ
ん」と。
思わず席を立ち、真瀬の名を叫ぶ木崎。裁判官から注意される。木崎に対し、真瀬は
無言で頭を垂れた。
年が明けて三月、真瀬に判決が下った。七年六ヶ月の実刑だった。
完全には喜べない勝利の後、報復人事と思しき異動が行われた。木崎は情報係を外さ
れ、ナンバーに回った。その他、今回の汚職事件の捜査に関わった主要人物は、つなが
りを立たれるかのようにばらばらに配置された。
五年が経ち、斉見は取り調べの可視化に向けた準備室の長を任されるまでになった。
以前は取り調べの可視化を始めとする捜査手法の改革に熱心だった斉見だったが、数々
の捜査を経る内に、昔ながらのやり方でないと難しい事件がいくらでもあることも骨身
に染みて分かっていた。だからといって、可視化をストップさせる訳にも行かない。
それからまた年月が経ち、木崎は渋谷署に回された。木崎の部下だった女性刑事の矢
倉は、ほぼ追い詰めていた汚職事件を急に上司から捜査打ち切りと言われ、泣く泣く手
を引き、数日後、その件が特捜によって挙げられたことを知った。木崎がいた頃に比べ
て、警視庁汚職事件の検挙数は激減し、年間たったの五件になっていた。木崎以上に昔
のやり方を押し通していた羽佐間は、あるとき警察署長と衝突して、辞表を出してい
た。
二〇一〇年になり、木崎は出所していた真瀬と合う。真瀬は後悔していないと言った
が、木崎は今でも悔しい思いを抱いていた。警察を退職し、再就職の話を断った木崎
が、釣り堀で糸を垂れていると、斉見が訪ねてくる。矢倉が汚職事件を挙げたという。
女性刑事として初のことらしい。
外務省から官邸への機密費横流しによる裏金作りは、二〇一〇年の政権交代を機に、
正式に事実として認められた。
――粗筋は、こんな感じ。これまで盛り上げすぎたか、やや残務処理の感があり、ま
た、もやもやも残りましたが、最終回らしく風呂敷をきちんと畳んでよくできていまし
た。掛け値なしに、大変面白かったと言い切れます。
それにしても、この手のドラマでは、組織内での非効率極まりない争いがよく描かれ
るますけど、実話を基にした本作でも描かれるってことは、本当にありふれてるんだろ
うなと思わされます。まあ、そのせいで警察が後手に回ったというのはなかったような
ので、ましと言えますが。昔ながらの脅しや腕力を絡めた取り調べ手法を、若干、肯定
的に描いた点は議論を呼びそう。
ではでは。