#1138/1158 ●連載 *** コメント #1137 ***
★タイトル (sab ) 22/09/16 09:07 ( 83)
ニューハーフ殺人事件2 朝霧三郎
★内容 22/09/18 15:17 修正 第2版
(副題:なぜリア充していないと勝ち組にひりつく様な嫉妬を感じるのか?)
病院を出てきたところで、内ポケットのピーフォンが鳴った。
「ミツさん、具合はどうだ」とデカ長のだみ声が響いてきた。
「大した事ないですよ」
「そりゃよかった。じゃあゆっくり休んでくれ、と言いたいところだが、事件発生だ。
サンシャインシティアルパ1階のタリーズコーヒーの前で、遺体発見だ」
「殺しですか」
「そりゃまだわからん。現場には、コバと、明子、啓子が行っている。
カトーちゃんを迎えにやるんで、ミツさんも至急向かってくれ」
「了解」
山手通りの西池袋の高架下あたりで待っていると、カトーがパトカーで現れた。
サイレンも赤色灯もOFF。
山手通りから、西池袋通りに入り、ダイヤゲート池袋のアンダーパスにもぐりこん
だ。
「全くごついビルをたてるもんだ。西武は銭が余っているのかなぁ。
税金払ってないから」
ダイヤゲート池袋をフロントガラスごしに見上げながら水戸光男は言った。
道路の低いところで赤信号で止まった。
横断歩道のところで、中年のホームレスがビッグイッシューを売っていた。
警備員が、ここで売るなと文句を言っていた。
「なんだ、ありゃあ、西武の警備員か?
サイレンならしてやるか。道路は西武のショバじゃない、警察のものだと。
もっともあんな警備員、西武の社畜にもなれない派遣社員だろうがな」
「シャチク?」とカトー。
「社畜だよ。家が西武なんとか台で、西武線で西武の会社に通っていて、
買い物は西武で、野球も西武、休みの家族サービスも西武園、みたいなやつ。
そこまで社畜にならないといけないのかって思っていたんだがな。
俺は実家が西武ひばりヶ丘だから、そんなのが多くてね。
それが見ていて嫌で。
だから俺は桜田門に就職したんだよ。西武より格上だろう?」
「……」
「だから、四谷署とか新宿署とかJR系のがよかったんだけれどもなぁ。
渋谷署なんて最悪だよな。公園通りは西武が作った、なんて。
あと、高輪プリンスとか、赤坂プリンスなんて最悪。
だけど、池袋署に来ちゃった。ここも西武色が強いからなぁ。
お前はそういう事思わないの?」
「えっ、何をですか?」
「西武が銭を持っていて気に入らなくないのか、って」
「関係ないでしょう…。つーかリア充していればそういう社会の事は気にならない、
と明子巡査が言ってましたよ」
「へー。お前はリア充しているからな。アニメや漫画で」
(リア充していると社会の事は気にならない、か)
光男はふと思った。
(確かに、リア充していた若い頃にはそういうのは何も思わなかった。
カトーと同じぐらいの歳の頃、ストリップにハマっていて、
警察官の癖に本番まな板ショーに上がる程ハマっていたが、
他の常連が
「俺達がこんな事しているあいだにホリエモンなんかにいいようにやられちゃって」
とか言っていたのを聞いて、
「何でホリエモンなんて気にするんだろう、関係ないじゃないか」
と思ったものな。
又、別のジャンケンマンが店に入ってくるなり
「酒鬼薔薇が捕まったぞ」
と言うのを聞いて
「サカキバラって誰? どっかの女衒?」
ぐらいにしか思わなかった。
当時世間を騒がせていた神戸市須磨区の連続殺傷事件の酒鬼薔薇だが、
警察官の癖にそんな事なんとも思わなかったものなあ。
何故だろう。
何故リア充していると何にも感じないんだろう)
信号が変わるとカトーは赤色灯だけ回して、車を出した。
池袋駅方向に左折して、すぐにサンシャイン通り60に入る。
しばらく行くとサンシャインビジョンに着いた。
「平日なのに結構な人ゴミだなあ」
小走りでサンシャインシティを走りながら光男が言った。
「しかも、B1噴水広場では、子供向けにアニソン歌手がイベントをやってるんすよ」
「本当かよ、野次馬が集まっていなけりゃいいが」
タリーズの真ん前から、噴水広場が見下ろせた。
何も知らない家族連れが子供を肩車してショーをイベントを見ていた。
子供が風船を離してしまい、宙にふわふわとただよっていた。
現場には「立入禁止 KEEP OUT 警視庁」と書かれた黄色いテープが張り巡らされてい
た。
それをくぐって「規制線」の中にミツさんとカトーは入っていった。
関根啓子と佐伯明子が、女という事もあり、
仏さんとは少し離れたところに突っ立っていた。
巡査部長の小林達也が片膝を突くようにしゃがんでいて、
ガイシャにかけられた布をめくって覗き込んでいた。