AWC ひっきー日記26 ぴんちょ


        
#836/1158 ●連載    *** コメント #835 ***
★タイトル (sab     )  10/04/16  11:28  (109)
ひっきー日記26 ぴんちょ
★内容
それから今までひきこもっている。勿論俺はリスカ等自傷
行はしないし、又直接親を殴る蹴るという事もしなかった
けれども、壁をぶちやぶったり、中二階のテラスから車の
天井に思いっきり飛び降りて屋根をべっこり凹ませたりは
した。

どういう時にぶち切れるかというと、例えば比較的平穏な
日々が続いた後の或る日の昼下がりに「お茶でも飲まない?
 桜餅を買ってきたから」などと声をかけられて、渋々台
所に行って黙ってお茶を飲んでいると母親が「ケイちゃん、
どうする?」

「何が」

「お母さんもお父さんも死んだら」

「えっ」俺は顔を上げないまま母親の方を見た。手の平に
湯呑みを乗せてもう片方で包み込むようにして持っている。
自殺なんてする訳ねえ。夫婦の会話はちゃんとマイクで聞
いているんだから。しかし何時かは両親は死ぬんだよなぁ。
その時俺はどうするか。どっかの元ひきこもりは家庭教師
で生業をたてているとネットに書いてあった。俺にはそん
な学力は無いからPCでも教えるかな。ふと俺はそう思っ
た。「パソコンの家庭教師でもやろうかなぁ」俺は言った。

「えっ?」驚いた様に母が目を見開いた。

「京王ストアとかに貼ってあるじゃん。家庭教師やります、
とか。ああいうのを貼っておけば誰かが教えてくれって言っ
てこないかなぁ」

「あんたが誰かの家で教えるの?」

「そうだよ」

「そんな事してその家で何かなくなったりしたらあんたの
せいにされるんじゃないの? それにお母さん、整体に行っ
ているけれども、そこの先生は絶対に患者と二人にならな
い様に女の事務員をおいているのよ。変な事にならないよ
うに。…お母さんはそうやってあなたが表に出るよりは、
誰かしっかりした人についていた方が…」

ここら辺で俺の握っている湯呑みは既にガタガタと震えて
いたのだが、「何で俺の自立の邪魔をするんだよ」という
自分の台詞で切れたぁーーーーー。「誰だよそのしっかり
した人っていうのは。俺にヒトラーユーゲントにでも入れっ
ていうのかよ、ムカつくなババァ」と叫ぶと冷凍庫の横に
置いてあったゴミ箱に集中的に蹴りを入れる。電話台の上
の電話機やメモ帳やペンなどを辺りにぶちまけるとカレン
ダーを壁から引っ剥がして床に叩き付けた。乱暴にドアを
開けて自室に向かって走る。部屋に帰ったら帰ったで、そ
ういえば俺が原付の免許を取った時に、「よく取れたわねえ、
あんたなんて絶対に警察に認められないと思っていた」と
か言っていやがったな、あのババァ、そこまで俺が世間に
ハブにされていると思っているのか、と思い出して壁を殴っ
て穴を開ける。更に、去年学校で備品のPCが無くなった
時に、「もしかしてあんたのせいにされているんじゃない
かしら」とか言ったな、あのババァと壁に穴。それからカ
エデのぼやけた写真を見せた時に、「この女があなたの事
を好きだとは思えない。あんたに魅力があるとは思えない
もの」。ババァ。ばばぁーーーー。そして壁に穴。それか
らベッドにもぐりこんだ。

30分ぐらいして怒りがおさまった頃にふと思ったのはマ
イケル・ジャクソンの事だった。彼は父親に「お前の顔はニ
キビで汚い」と言われたんだよな。それからバーブラ・スト
ライザンドの母親もバーブラの事を醜いと思っていてショー
ビジネスの世界には入れなかったんだよなぁ。そしてバー
ブラは風俗に走った。俺もヨーコに走るか。確かにヨーコ
はクラスの素人女子連合とは違ってとっつきやすいよな。
多分俺があの素人女子連合は清潔に違いないと思っている
様に母親も世の中ちゃんとしているに違いないと思ってい
るんだろうな。しかし、夜になればひたすら俺の為に食事
を作るのだから、やはり俺の事は気になっているのだろう。
「愛する息子が生きる世の中はちゃんとしていなければな
らない。そんなちゃんとした世の中に息子が参加出来るわ
けがない」とでも思っているのか。

夜中に俺はスカイプでヨーコさんに言った。「まったく俺
がパソコンの家庭教師をやったら不審者に思われるかも知
れないとか言うんだよ。こんなんじゃあとても誰かと所帯
を持つなんてあり得ないよなぁ」

「誰かそういう子がいるの?」

「そりゃあ、いたよ」

「じゃあその子がいいって言えばいいじゃない。何で親の
承認がいるの?」

「そりゃあ…」

「なんでその子の愛が本物かどうかを親に納得させる必要
があるの?」

「俺がもっと成功していれば親も納得するんだろうなぁ」

「どんなに社会的に成功したって親からなんて離れられな
いんだから。荻野アンナって知っている?」

「しらん」

「荻野アンナって不思議だよなぁ」と独り言の様に言った。
「何で結婚出来なかったんだろう。芥川賞作家だよ。慶応
の助教授か何かだったんだよ。それなのに親が駄目だって
いったから結婚出来ないんだから。なんでだろう。それで
今は親の介護。一生親に付き合うつもりかなあ。絶対に捨
てないと駄目だよ。私は絶対に捨てる」とヨーコさんは言っ
た。




元文書 #835 ひっきー日記25 ぴんちょ
 続き #837 ひっきー日記27 ぴんちょ
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