#571/1159 ●連載
★タイトル (RAD ) 07/09/01 22:49 (332)
BookS!(16)■銀髪の侍■ 悠木 歩
★内容 07/10/05 23:03 修正 第3版
■銀髪の侍■
陽の暮れつつある公園に、外灯以外の光源はない。しかしわずかな光源を受
けて、刀は美しく、そして妖しく煌く。
真一文字に突き進む、光の筋。狙うは白い肌の少女、リルルカであった。
「くっ」
矢より、あるいは弾丸よりも速いかと思われたリアードの突きを、少女はか
わすのではなく、短剣を下に構え、その背で受け止めた。
響き渡る金属音に、飛び散る火花。
「やあっ!」
その瞬間、黒い肌のミルルカが真横から、リアードの脇腹に短剣を突き立て
るべく、突進を試みる。
「ふん」
だがリアードが、これをまともに喰らうことはない。己の突きを防いだリル
ルカの短剣を押し、後方に飛ぶことでミルルカの攻撃を避ける。
まだわずかばかりの攻防が行われたに過ぎないが、少女たちには銅赤色の鎧
の男とよりは、戦いやすいように見える。やはりリーチに差はあるものの、粉
砕を主目的にした武器よりリアードの刀のほうが、短剣でも挑みやすいのであ
ろう。
「ふざけているのか? 白銀の騎士よ」
と、これはミルルカ。
「それとも我らを見くびったか? 白銀の騎士よ」
続いてリルルカである。
「いや、そのつもりは毛頭ないが?」
落ち着き払った声ながら、リアードは少女たちの言う意味が分からないよう
である。
「貴様の本来の武器は、そのように細い剣ではないはず」
「己本来の武器を使わぬのは、我らを見下した証ではないか」
「ああ」
リアードは少女たちの言葉に納得したらしく、大きく頷いた。
「そうか、それは失礼。実は私は、四百年ほど前、一度封印を解かれている」
「?」
「これはその時手に入れた、この国の剣、刀と言う」
リアードは手にした刀を翳して見せた。
「しかし案ずるな。これは一流の職人の手によるもの。そして本来の武器同様、
我が身体の一部としての処置も施している」
「そうか」
それだけ聞けば充分とばかり、少女たちは再び身構えた。しかしそれに対し、
リアードはまだ構えを執らない。
「ふむ、しかしこれは些か、不公平であったな。私はお前たちの武器を知るが、
お前たちは我が武器を知らぬ」
「別に構わない」
「いやいや、それでは私の気が済まない」
「白銀の騎士よ、暫く会わぬうちに、随分とお喋りになったようだ」
「かも知れん」
リアードは楽しげに笑う。
「この刀、名は籐舟刀不死(とうしゅうとうふし)と言う。籐舟は刀工の名。
彼の打つ刀は何れも素晴らしく、それを使う者は決して戦場で命を落とすこと
がないとまで言われた。即ち籐舟の鍛えし、不死なる刀」
天空に掲げた刀を、リアードは陶酔し切った眼差しを以って見つめる。
「この国の刀と言う武器は、中々に面白いぞ」
ようやく刀を天空より下ろし、己の顔の位置に持って来た。
「斬れ味をとことんまで追求した刃は、他に類を見ぬほどに薄い。故にある方
向から加わった力には、容易く折られてしまうと言う、弱い一面をも持つ」
こともあろうに、リアードはその手にした武器の弱点まで語り出した。あく
までも相手との対等な立場を望んでなのか、あるいは単に馬鹿であるのか。
「それを補うは、使い手の技量。故に刀は面白い」
これで語りたいことを終えたのであろうか。リアードは刀身が己の顔の前、
真横になる構えを執った。じりり、と足元で小石を踏み締める音がした。
そこからまた、無音の摺り足が始まる。狙いは正面のリルルカ。
狙われた少女は、短剣を前面に突き立てるように構えた。しかし正面から来
るリアードと少女が直接斬り結ぶことはない。
その間の距離を半分ほどに詰めたとき、リアードは足を止める。そして構え
た刀を横に振るった。
「ちぃっ!」
舌打ちと共に真横に振られた刀を、黒い影がかわす。褐色の肌に黒い髪を持
つ少女、ミルルカであった。
かわされた後も、リアードは動きを止めず、そのまま刀を一回転させた。前
方より、白い肌に銀色に輝く髪を靡かせた少女、リルルカが迫っていたのであ
る。
リルルカもまた、弾かれた独楽の如く寸前で後ろへ跳び、大きく孤を描く刃
を避けた。はらり、と数本、輝く髪が切っ先に触れ、空を舞った。
無意味ではあったが、もし、と仮定してみたくなる。
あるいは少女たちがリアードと同等、とまでは行かなくても、もっとリーチ
のある武器を使用していたなら。二人のコンビネーションは、銀髪の騎士を翻
弄していたのではないだろうか。
「そりゃあっ!」
摺り足ではない。
リアードは気合諸共、今度は地を蹴り、低く長く飛んだのだった。狙いはリ
ルルカであった。
回転する刃を避けて後ろへ跳んだリリルカは、未だ着地に至っていない。彼
女に体勢を整える隙さえ与えず、討とうと言うことらしい。
「させぬ!」
彼の意図を、少女たちもすぐに解す。すぐ様行動に移れないリルルカに代わ
って、ミルルカがそれに対処する。
低く飛ぶリアードの構えは下段。その切っ先のわずかに後方、即ちそこから
刀を振るった場合、最長の距離に当たる位置よりミルルカが斬り掛かる。
弾丸の如く、速く飛ぶリアードであったが、その身軽さに於いては少女が勝
るらしい。リアードが狙いである白い肌の少女へ追いつくより、ほんのわずか
に早く、褐色の肌の少女の攻撃が達する。
少女の位置はリアードの刀からは、最も近く遠い。まして前方へ飛ぶ勢いの
中、回転して一撃を与えるのは困難極まりないことであった。
さすがの銀髪の騎士も、少女たちのコンビへネーションの前に屈服するので
あろうか。しかしこの予想は覆される。
リアードは刀に添えられていた右手を離す。そしてその肘を、黒髪の少女へ
落としたのだ。それはプロレス技で言う、エルボードロップの形となる。
さすがに少女も、剣士がプロレス技を使って来ると予測していなかったよう
である。後頭部、首筋近くにこれをまともに受けてしまった。
「くっ………」
苦悶の声を漏らし、少女は顔面より地に落ちた。
「ミルルカ!」
相棒の危機を救うべく、銀髪の少女はすぐ様、その場へと駆け付けた。
二人の少女は肌の色、髪の色は同じ種族とは思えないほどに、異なっていた。
その一方、容姿はまるで双子の如く、酷似している。写真のポジとネガのよう
に。
二人の間に何か特別な、深い関係があるのは間違いない。あるいはその関係
故か、ミルルカの危機にリルルカも冷静さを欠いてしまったのかも知れない。
「………っ」
駆け付けた足が止まる。
喉元に突き付けられた刀によって。
「惜しいな」
呟くのは、圧倒的優位に立ったリアードである。
「お前たちのリーダーはまだ未熟であるようだ………本来なら、ここまで我ら
に差はないはずだろうに」
刀を握る手に力が入る。
あとほんの一押し。ただそれだけの行為で、白い肌の少女は、その命を手折
られてしまうだろう。
目前で繰り広げられる戦いは、人間の領域を遥かに凌駕していた。
如何に才のある者が、血を吐くほどの鍛錬をこなしても、決してそこに至る
ことは敵わない。
少なくとも見た目には華奢な少女たち。彼女らにこの過酷な戦いを委ね、そ
れをただ見ているだけの自分が口惜しい。
何か自分に出来ることはないのだろうか。迫水黎は握り締めた拳に、爪が食
い込み出血するのにも気づいていなかった。
二組、三者による戦いは早く、黎の剣道で鍛えられた目を以ってしても、成
り行きを追うのは困難を極めた。だがどうにも少女たちが防戦一方で、不利で
あるとは分かる。
少女たちの敗北は、即、黎の敗北に繋がる。ならば無謀を承知で、少女たち
に加勢すべきではないだろうか。いや、戦いを目で追うことさえ適わぬ自分が、
役に立てようはずもない。却って足手纏いになるのが関の山だ。
黎が思案する間にも、戦局は少女たちに不利な方向へ転がって行く。
「クソッ!」
舌打ちすると同時に、黎はあることに気がついた。
「あれ? あいつ………久遠はどうした?」
紫音の姿が見当たらないのである。
そして黎は更に気づく。目の前の戦いに於いて、自分は全くの役立たずであ
るばかりか、間抜けでもあると。
確かにリアードと名乗る銀髪の男に対して、自分は無力である。しかし久遠
紫音と言う少女に対してはどうであろうか。
黎は女性に対し、手を上げるのを良しとする性格ではない。だがそれも時と
場合による。
いま黎が本より呼び出した少女たちは、不利な戦いを強いられていた。口惜
しくはあるが、黎に少女たちを加勢するだけの力はない。しかし相手が紫音と
言う少女であれば、話は別であった。
リルルカやミルルカ、そして赤銅色の鎧の男と同じように、銀髪の男も本か
ら呼び出された戦士と見て間違いないだろう。その超人的な力を前に、黎が太
刀打ち出来るはずもない。ただしそれを呼び出し、使役しているのは黎と同じ
人間である。人間同士の戦いとなれば、黎にも勝機はあるだろう。あるいは使
役する人間を倒すことによって、本より出でた超人をも止められるかも知れな
い。何より、紫音が姿を消したのが、その証ではないだろうか。黎に倒される
のを恐れ、何処かへと身を隠したのではないだろうか。
少女たちを、延いては自分自身を救うため、黎は紫音の姿を探し求めた。
「そりやぁぁぁっ!」
驚くほど簡単に、紫音の姿は見出される。いや、紫音自ら、姿を現した。
黎の不意を狙ったようだ。後方より、低い姿勢でスライディング気味の蹴り
を繰り出して来る。
「もらうかよ、そんな蹴り」
これを黎は、宙に跳んで避けようとした。
「うっ!」
見切ったつもりであったが、多少慌ててしまったのだろうか。跳躍のタイミ
ングがわずかに狂う。直撃こそ回避したものの、跳んだはずの足先に紫音の蹴
りが掠ってしまった。
「くそっ」
バランスを崩した黎は、身体を横に倒し、右手を突いての着地となった。素
早く立ち上がろうとするが、紫音のほうが逸早く体勢を整えていた。
黎が身体を起こすより早く、回し蹴りが飛ぶ。鋭い回転ながら、美しくも大
きく孤を描く蹴りは、軌道も見易い。これは後方へ跳ねて、かわすつもりだっ
た。
しかしここでも黎はミスを犯してしまった。
両膝へ思ったように力が伝わらず、仰向けに倒れてしまったのだ。両腕で後
頭部を抱え込むようにして、大地への痛打だけは避ける。目の前を、結果的に
は回避出来た紫音の脚が通り過ぎて行く。
体勢を整える間もない。
続いて紫音の膝が落とされる。黎は地面を転がり、逃れる。
「ちぃっ! 何してるんだ、俺は!」
転がりながら、少しばかりの距離を稼ぐと、黎は手近な木に掴まって立ち上
がった。
紫音の運動能力は侮れないものであった。午前中、竹刀を用いた手合わせで
一本を取られたのも、決して偶然ではない。この状況下に在って、所詮は女子
と見くびっていい相手でない。
だが黎とても、運動能力に於いては同年代の平均を上回る。例え紫音の運動
能力が高いものだと言っても、それはやはり同年代の平均から見ればの話であ
った。二人の間に、黎がここまで劣勢に陥るほどに、差はないはずである。
しかし身体が思うよう動かない。
手足に意思が上手く伝達されない。
それはまるで、水の中で格闘するようなもどかしさを感じた。
「それっ!」
黎の立ち上がり様を狙ってのハイキック。紫音は基本的に、蹴り中心の攻撃
ばかりを仕掛けて来る。察するに、組み合うことを嫌っているのだろう。現状
劣勢に在ったが、組み合っての力勝負となれば、やはり男子である黎に分があ
ると知っての上であろう。
「このっ、こん畜生!」
立ち上がるのに頼った木が今度は邪魔となり、回避が出来ない。黎は両手で
紫音の脚を掴む。
「あっ、この、ちょっと」
これはさすがに紫音にとって予想外であったらしい。動揺が見て取れた。た
だ、戦いに於ける動揺とは、何か少し違って感じられる。
「何してんのよ、変態!」
「あ? あっ!」
黎は片足立ちで悪態を吐く紫音に、様子のおかしさは感じながらもその意味
が分からない。朱色に染まった顔が、激烈とも言える視線を投げつけている。
やがて黎はその意味を悟った。
「わっ、これは………本意じゃない!」
そのようなことに戸惑っている時と場合ではない。しかしその瞬間、黎は極
めて普通の、高校生の男子となってしまった。
高く上げられた脚は、黎によって止められている。その脚は強い弾力性を思
わせる、白い太腿へ繋がる。太腿は短いスカートへ収まり、そこから白い下着
が覗いていたのだった。
「スマン!」
襲撃された黎に謝る理由はない。が、咄嗟に詫びの言葉を放ち、掴んでいた
脚を投げ出すようにする。だがそれは、紫音の掴まれていないほうの脚が地面
を離れ、黎に対する蹴りを繰り出した直後だった。
偶然に重なった二つのタイミングが、二人のバランスを崩させる。
双方共に、後ろ向きに倒れたのだ。
「うわっ、痛たたっ………」
受身も取れなかった。黎は背負っていた木に一度頭をぶつけ、再度芝生へ打
ち付ける。
「もう、いったあい!」
紫音も受身は取れなかったようだ。尻を突いたまま半身を起こすが、枯れ草
にまみれたツインテールの頭は両手で覆われている。
互いにそれなりのダメージはあったが、戦闘不能に至るほどではない。少な
くとも紫音に攻撃の意思がある限り、黎も気を緩める訳にはいかなかった。す
ぐに体勢を整えなければならない。
しかし次なる攻防はなかった。
「そこまでだ。もういいだろう」
二人の間に割って入る影。
いつの間に現れたのか、銀髪の男が立っていた。
「!」
銀髪の男の姿を確認した瞬間、黎は背筋に寒気を覚える。
彼がここに居ると言うのは、その相手をしていたはずの少女たちが倒された
ことを意味すると考えたからである。
「どこまで我らを愚弄する気か!」
激情的な声に安堵する。
白い肌の少女、次いで褐色の肌の少女が突如黎の前に現れ、立つ。
「止めを刺さず、何故退いた」
背中越しに、その表情は窺えない。しかし声の激しさに、リルルカの昂ぶっ
た感情が露となっていた。
「お前たちを倒すことに、目的がないからだ」
穏やかに答える銀髪の男は、そんな少女の感情を、まるで受け流すかのよう
であった。
「どうにもお前たちのリーダーは、未熟過ぎるようだ。このような戦いに勝利
しても、意味はない」
「それを愚弄と言う!」
二人の少女は、共に短剣を構える。未だ戦意は失っておらず、すぐにでも相
手へと斬り掛かりそうな雰囲気であった。
「私はもう、戦うつもりはないよ」
敵意を剥き出しにした少女たちを前に、銀髪の男は刀を鞘に納めてしまう。
不利な戦いをしていた少女たちから見れば、それは好機と言えよう。彼女らの
卓越した動きを以ってすれば、男が再び刀を抜くより先に、斬り掛かることも
可能だと思われた。
しかし歯軋りの音が聞こえそうなほどにいきり立った少女たちだが、決して
動こうとはしない。戦意を持たない者に、刃を向けるのを良しとしないのであ
ろう。
「紫音よ」
振り返らず、銀髪の男は紫音へと声を掛ける。
「あの少年、リーダーとしては余りにも未熟過ぎる。君が想像していたような
ものとは、とても思えないが?」
「え、ええ………そうね」
銀髪の男の言葉に、少しばつが悪そうに紫音も頷いた。
「どう言うことだ?」
黎は二人の少女の間から、一歩進み出て問う。
「一つ教えてもらえるかしら? あなた………迫水先輩は、どこまで本が読め
ているのかしら」
「どこまでって? 『右に光、左に闇』ってとこだけだ」
あるいは答えるべきではなかったのかも知れない。敵対する相手に、情報を
与えて不利になることはあっても、得になることなどあるとは思えなかった。
だが黎は、深く考えもせずに答えてしまう。
「ホント? それだけ?」
半ば、呆れたような声が返る。
「それだけだ。嘘は言っていない」
「はあーっ」
紫音は芝居じみた動作で、大きく項垂れて見せた。
「リアード、あなたの判断は正しいみたいね………バッカみたい………」
「おい、何だよ。お前ら、何を言っているんだ」
何やら勝手に得心している紫音が気に入らない。黎はそこに恐るべき刀の使
い手が居るのも忘れ、更に紫音へと近づいて行った。
「何って、私の思い違いだったってことよ。もう、なし。戦いは終わり」
「終わりって………こら、勝手なことを言うな」
これには黎も腹を立てる。
理由も分からず一方的に襲われ、そしてまた一方的な終了を宣言された。こ
れを「そうですか」と納得するほうがどうにかしている。黎は伸ばした手が届
くだけの距離まで、紫音へと接近した。
「………そうね。迫水先輩が怒るのも、当然よね。分かったわ、私を殴りなさ
い」
「紫音!」
「リアードは黙っていて。ほら、早く。私は抵抗しないし、リアードにも手を
出させないから」
目を瞑り、紫音は自ら顔を突き出した。
「こ、こいつ………」
一度は拳を握る。だが黎には無抵抗の女を殴るような拳の持ち合わせはない。
握っていた拳を解き、己の腰をぱんと叩く。
「ちっ、いいよ、もう」
「あら、いいの? 本当に」
「女を殴れるわけ、ねぇだろう。いいよ、もう………その代わり、事情は説明
してもらうぞ」
「うーん、そうねぇ」
紫音は立てた人差し指を、頬へと充て、暫く考え込む仕草を見せた。その後、
うん、と頷く。
「仕方ない、いいわ。説明してあげる」
「少年よ、話が着いたようだな」
黎の横、左右に少女たちが並び立って来る。手にしていたはずの短剣の姿は
ない。既に納められたようだ。
「少年がそう決められたのならば、我らは従おう」
そうは言いながらも、少女たちはどこか不満げであった。
「俺は黎だ。迫水黎、レイって呼んでくれ」
ここで黎は初めて、まだ自分が少女たちに名乗っていなかったことを思い出
す。
「そうか、レイよ。それでは我らは一旦、消えるとする」
「えっ、消えるって………君らも久遠の話を、聞かなくていいのか?」
「不要。我らはリーダー、レイの決定に従う。それよりいまは、レイの力の消
費を抑えるべきだ」
そう言ったのは、褐色の少女ミルルカである。
「白銀の騎士、リアードは信じていいだろう。少なくとも、騙し討ちをするよ
うな男ではない」
そう言った白色の少女リルルカは、ちらりと紫音を見遣る。
「ただ我ら同様、リーダーの命には逆らえない。その女次第では、レイの身が
危険に晒されるかも知れない」
「あら、私だって、そんな卑怯な真似はしませんよ」
リルルカの言葉を聞いた紫音は、不機嫌そうに頬を膨らませて答えた。
「危険を感じたときには、すぐに我らを呼んで欲しい。その身に何かあれば、
我らも困るのだから」
「分かった、約束する」
黎の答えを聞き届けた少女たちは、まるで風に吹かれた蚊柱の如く、跡形も
なくその姿を消す。
そして途絶えていた蜩の声が、耳に痛いほどに響き始める。
【To be continues.】
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