AWC 二人でソロを   永山


        
#515/567 ●短編
★タイトル (AZA     )  22/04/01  19:55  (113)
二人でソロを   永山
★内容
※本作は、某小説投稿サイトのいわゆる“お題”的なものに合わせて書いた物です。
 ほぼ出オチです。(--;) 

 〜 〜 〜

「「はいどうも〜」」
 舞台袖から二人組が登場すると、一斉に拍手が起きた。おざなりではない、人気に裏
打ちされた拍手だ。
「僕がソロ芋《いも》」
「私がソロ伝《つて》」
「「二人合わせて“ソロいもソロって”、略してソロソロ、どうかお見知りおきを」」
 二人は声を揃えて自己紹介をした。服装もおそろいの紺色のジレを着こなしている。
「と、そういうわけでね。見ての通り僕ら若いんで、まだまだ顔と名前、一致していな
い方も多いと思います」
「記憶力に不安がありそうなお歳の方がいっぱいやけど、大丈夫かいな」
「そんなこと言わないの。今日を機会に、覚えていってもらったら僕ら幸せです。皆様
から見て左の男前、僕がソロ芋」
「向かって右の女前、私がソロ伝」
「ちょいちょい、女前って何?」
「あんたそんなことも知らんの? 男前言うたらハンサムを意味するんやから、女前は
美人のことに決まってるやん」
「いやいやいや、その言葉の使い方もどうかと思うけど、それ以前に大問題がある。
君、男」
「あ、そうやった。きれいすぎてよう忘れるねん」
「君の記憶力が一番心配だね」
「そういえば大事なこと言うの忘れとったわ」
「何なに。そんな深刻な顔して」
「え? 秦の始皇帝みたいな顔って誰がやねん!」
「そんなこと言ってません。耳の聞こえまで悪い」
「今のは冗談。大事な話いうんは、大きな仕事が来てて」
「ええ? 初耳。僕が聞いてないってことは伝クンだけその大きな仕事やるのか。く
ぅ、悔しい」
「ちゃうちゃう。そういう意味の仕事やなくて勧誘、お誘い。大手芸能事務所から誘わ
れとるねん」
「つーことは、引き抜きか? いよいよ深刻になってきた」
「誰が秦の始皇帝」
「うるさいな。早く本題をしゃべりなさい」
「うん。しゅっとした男の人やったわ。自宅におるときに訪ねて来よってん。名刺出し
てきて受け取ったんやけど、それがまた濃厚な味で」
「ん?」
「ぼてぼてのソースにマヨネーズを山盛りかけたような」
「ちょっとちょっと。何の話?」
「味が濃ゆい名刺やった。これがほんまの固有名詞や、言うてね」
「めいし違いかい! そんなのは置いといてさっさと話を進めて」
「会社名見てびっくりして、声も出ん私に、彼は言いよった」
「“言いよった”は紛らわしいからやめて。まるでその芸能事務所の人が君に恋愛的ア
プローチをしたみたいに聞こえる」
「いや、ほんまに言い寄ってきたんよ」
「うそ?」
「うそです」
 ソロ芋がソロ伝のほっぺを引っ張る。彼ら流の突っ込みだ。端正な顔の伝が変顔にな
るだけでもそれなりに笑いを取れるが、二人ともこの突っ込み自体はスルーして何ごと
もなかったかのように漫才を続けるのが、何故かよく受ける。
「それで彼が言うにはやね、『ソロ伝さん、そろそろソロでやってみませんか』って」
「そのソロ重ねるの、僕らのネタでしょ。よその人に安易に使わせたらだめ」
「実話やからしょうがないやん」
「そもそも《《ソロって》》何?」
「|ソロ伝《ソロって》は私」
「いや、そういう意味じゃなく。えっと、『ソロ』と表現したらまるでアーティスト、
歌手みたいに聞こえるから。芸人が一人でやるのは『ピン』でしょって話」
「じゃあ、私らのコンビ名も『ピンピン』にする? 何かヤらしいけど」
「違う、そんなこと言ってませんからっ。伝クンが持ち掛けられたのって、本当にお笑
いの話か? もしかして歌手というか歌を出さないかって話では?」
「そんなんやないよ。間違いなくお笑い」
「おっ、自信満々。どうして断言できる?」
「だって、その人が言うてたから。『ソロ漫才をやってみるとか、どうですか』って」
「は? ソロ漫才って何? スタンダップコメディ?」
「“イケメン亭ボクつけ麺”という名前も用意してくれてるんやて」
「落語? ていうかそのギャグ、大先輩のだし、順番逆になってるから君、イケメンじ
ゃなくてつけ麺になるよ」
「うん、私もよう飲み込めんかったから、一応その部分は断った。一人でやってみるい
う話は保留してんねんけど」
「何で保留するの。僕を置いてかないで」
「急に変な言葉遣いになってるで。芋クンも一人で大丈夫とちゃうか? 名前にソロ入
ってるし」
「そんないい加減な理屈で安心できません。何かもっと自信持てること言って」
「……」
「何で黙るのー? いいとこ僕には一つもないのー?」」
「いや、ソロ活動をするにはここで甘い顔したらあかん。突き放そう思うて」
「冷たいな。君は自信あるのか。一人でできるネタ、もう何かあるの?」
「そうやね、たとえば……おソロしや」
「……ん?」
「独立したらソロばん弾くの楽しなるやろな。札束多すぎて、ソロりソロり歩かなあか
んようなる」
「ちょっと。また他人様のネタを。全然だめじゃない。ソロをずっと引きずってるし」
「……やっぱりそう思う? はっきり言ってくれて目さめたわ」
「おっ。てことは自信なかったの?」
「うん。自分は顔がいいだけやってよう分かった。いも顔の君と組んでからこそ生きる
んや」
「凄く引っ掛かる言い方をありがとう。でも嬉しいな。これで解散はなしだな」
「そうやね。――あっ」
 腕時計を見る仕種をする伝。
「どうした?」
「もう持ち時間使い切りそうや」
「焦ってたから時間の感覚が分からなくなってたな。じゃあ、解散の危機を乗り越えた
ところできりがいい。“ピンピン”終わりにしようか」
「そこはソロソロやろ?」
「いや、『ピンからキリまで』にも掛けたつもりだった」
「何や、かなんな。こっちはきりきり舞いや」
「きりがないと終われなくなるよ、また」
「じゃあ、時間ないし、『お後がよろしいようで』」
「それ、普通は落語だから! まだ独立気分が抜けきってないじゃん!」
「分かった、悪かった。言い直すわ。『おソロがよろしいようで』」
 揃いのジレの前開きを二人同時にぴんと張り、笑顔を作って舞台袖にはけていく。

 〜 〜 〜

「ところで単独の仕事が来てるのはほんまなんやけど」
「え、まじ? どんな?」
「ファッションモデル。一人だと自信ないから、芋クンもやらへん?」
「そんなこと言うのはこの口か〜!」

 幕





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