AWC 500円玉  $フィン


        
#412/550 ●短編
★タイトル (XVB     )  13/02/11  07:43  ( 37)
500円玉  $フィン
★内容
まあちゃんは七歳、えっちゃんは四歳、きょうもおかあさんといっしょにお買い物で
す。おかあさんが押すカートの横にはまあちゃんがそばについています。えっちゃん
は、カートに乗ってねずみのぬいぐるみを持ってごきげんです。
「おかあさんアイスクリームが欲しいの」まあちゃんは言いました。
「今日は寒いからだめよ。そのかわり今日はあったかくて美味しいおでんを作ってあげ
るね」おかあさんはそう言いました。でも、まあちゃんはおでんよりも、寒くてもいい
から美味しいアイスクリームが欲しいのでした。
 お買い物が終わり、お店のおばさんの計算も終わり、レジ袋の中に品物を入れている
間に、まあちゃんは、きらりとひかるものを見つけました。何だろうとかがんで拾って
みると500円玉でした。まあちゃんは、一瞬どうしようかと考えました。そしておか
あさんを見ました。おかあさんは忙しそうにレジ袋に品物をいれています。まあちゃん
はこれだけあればアイスクリームがたくさん買えるのだと思い、500円玉をポケット
にいれました。
 帰り道まあちゃんは握りしめている500円でおかあさんに買って貰えなかったもの
をいっぱい買えるとわくわくしていました。アイスクリームでもいいし、まあちゃんも
欲しいとおかあさんにねだったのだけども、妹のえっちゃんがのどにいれてつまらせち
ゃうからと買ってもらえなかったおもちゃのおまけつきのキャラメルでもいいな。あれ
を買ったらおかあさんにもえっちゃんにも見せずにヒミツの宝箱入れにいれて、大切に
するの。それよりも、お人形のお洋服でもいいな。まあちゃんのお人形はいつも同じ服
で隣の女の子の人形のようにたくさんのお洋服が欲しいとも思いました。
 だけども……、まあちゃんがおかあさんの顔を見ながら思いました。もしも、500
円玉を落とした人が、まあちゃんのような子供だったらどうしよう。その子供は落とし
たのにも気づかずに家に帰っていたのならどうしよう。その子には病気のおかあさんが
いたらどうしよう。病気のおかあさんしかいなかったらどうしよう。その子はおかあさ
んのために貯金箱をあけていたらどうしよう。その貯金箱に入っていたのが、その子の
全財産だったらどうしよう。
 どうしよう。どうしよう。どうしようまあちゃんは頭の中がどうしようでいっぱいに
なってしまいました。
「どうしたの?」おかあさんは優しく言いました。
「まあちゃん、お店で拾った。これ返しにいく!」まあちゃんは握っていたお金をおか
あさんに見せました。
 おかあさんはまあちゃんからぐっしょりと汗でぬれた500円玉を受け取って、お金
とまあちゃんの顔を交互に見て、しばらくの間考えていましたが、まあちゃんが目に涙
をためているのをみて、うなずいて、「まあちゃんは良い子だね」と頭をなぜてくれま
した。そしておかあさんとまあちゃんとえっちゃんはまたお店に引き返しました。
 お店から出たとき、まあちゃんの手にはもう500円玉はありませんでしたが、どこ
からか子供の笑い声が聞こえたような気がしました。





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