AWC      日本良い国   [竹木 貝石]


        
#293/567 ●短編
★タイトル (GSC     )  06/03/31  23:26  ( 86)
     日本良い国   [竹木 貝石]
★内容
 昭和20年、私が小学2年生のときに習った唱歌で、題名は忘れたが、我が日本国を
讃える歌があった。

  青海原に囲まれた
  日本(にっぽん)良い国 栄えゆく
  ……
  ……
  海国日本
  輝く日本

 名古屋の盲学校が空襲を逃れるために、寄宿舎もろとも疎開して、尾張一宮
の中学校の一部を借りて、不便な苦しい学校生活を強いられていた頃である。
 当時の様子を語れば長い物語になるので、ここでは簡単に説明すると…。
 寄宿舎は五つの部屋に分かれ、私の部屋は男子寮2号室で、25人が雑魚寝
暮らしをしていた。中学校の教室に畳を敷いて、夜は布団をずらりと並べて眠
り、朝になると布団を畳んで教壇の上に積みあげる。
 起床→点呼→掃除→洗面→朝食。そして、畳敷きのその部屋で、膝の上に
点字盤を乗せて、1日の合併授業が行われる。
 夕食後は、自習時間→点呼→掃除→消灯。
 朝食は、かぼちゃの葉や胡瓜の葉などを刻み込んだ雑炊1杯。昼食は、小粒
のえぐいジャガイモが7個ばかり。夕食は、豆かすのふんだんに入ったご飯と
蕪や大根の味噌汁、あるいは、薄っぺらな団子が2枚と僅かに菜っぱの入った
すいとん。
 冬休みも春休みも返上して、故郷を遠く離れ、父母・兄弟姉妹に会えるのは夢の中だ
けだった。
 特に忘れられないのは戦争の恐ろしさである。空襲警報のサイレンが
鳴り響き、ラジオから『東海防空情報』が流れると、生徒・職員は大急ぎで
防空壕に避難する。
「B29爆撃機約60機が、関ヶ原付近を東南進中…」
「P51小型機約40機が、阿芸喜付近を東進中…」
 防空壕といっても名ばかりで、校舎と校舎の間の狭い中庭に銭湯の湯船くら
いの穴を彫っただけだから、雨上がりには水が貯まって、冬は氷が貼り、夏は
蚊の群である。その防空壕の中にしゃがんで、上から戸板や布団をかぶり、
恐怖におびえながら、上空を通過する敵機の爆音を聴いているしかなかった。
 焼夷弾が校舎に落ちたら、たちまち煙に巻かれてしまうし、爆弾や焼夷弾が
必ず建物に落ちるとは限らないから、直撃・即死ならむしろその方がましな
くらいである。
 その戦争が終わって、戦後の貧しく厳しい寄宿舎生活が何年も続いた…。
 盲学校を卒業し社会人になってからも、不器用で世渡り下手の私は随分と
苦労を重ねたものだ。
 しかし、老後の今は平穏である。
 私達の年代を〈焼け跡世代〉と呼ぶらしいが、正に言い得て妙だ。たまたま
日本国の激動期と平行して歩んできた竹木の人生もそろそろ終わりに近い今、
「日本はやはり良い国だなぁ!」としみじみ実感する。
 現在不幸せな人々が世の中に大勢居るのも事実だが、概ね今日の日本人は
恵まれていると言ってよかろう。
 一方に置いて、わが国の政治には様々な矛盾や不合理が存在し、簡単に
解決しない問題も多い。
 私は数値や固有名詞を性格に覚えるのが苦手なくせに新聞で確かめるのは面倒だか
ら、昨今のニュースを概略で述べるが、例えば、愛知県と小牧市が
共同で運営してきた『桃花台線』という第三セクター方式の鉄道が、数十億円
の赤字のため廃線と決まった。国から80億円余の補助金をもらっていて、
10何年間運行してきたが、どうにもならなくなったらしい。私などの素人
考えでは、「建設計画の段階で赤字経営が予測出来なかったのか? そして、
もっと早い時期に廃止の決断が出来なかったのか?」という疑問が湧く。
 オーム心理教の裁判で、精神鑑定云々とか、弁護士会の方針がどうとか…、
私にはどれが本音でどれが立て前なのかさっぱり分からない。
 竹木が日頃強く主張しているのは、憲法改正反対、第9条堅持、軍備削減、
戦争絶対反対であり、幼少年時代の苦しかった体験から、この意見を変える
ことは出来ないが、今や、政治家の8割以上が改憲派で、国民の多数もそうだ
と聞く。
 そこで、自分と逆の見解につき、ふと考えてみる。
 以前にも書き込んだ通り、ロシアは北方領土を決して返そうとしないし、
韓国も尖閣諸島の竹島を朝鮮固有の領土だと主張して譲らず、近頃は中国も
何処やらの領土へ進出してくる模様である。
「そんなに言うのなら、歯舞・色丹も、竹島も、その他境界線の島々を、全部
相手側の国にくれてやってしまったらどうか?」
 と広い心にもなりたくなる。しかしながら、国家というのは個人以上に欲深
な所があるから、譲れば譲るほどますます嵩に掛かって無法な要求を出して
くること間違いない。そうした経緯や駆け引きを心得た強行派の人々は、
「日本が正式な軍隊を持たず、自営の為にすら戦えないというのは、国際常識
からいってもおかしいのではないか」と感じるようになり、「憲法9条を改正
して、いざというときに備えて防衛出来るようにして置くべきだ」と思う人が
増えてきたのかも知れない。
 この先何百年経っても『世界連邦』の理想が実現することはなさそうだし、
各国それぞれの思想や利害によって、鎬愛や争いが永久に続くのであろう。
 わが国にも悪い人間はたくさん居るし、時折凶悪犯も現れるが、現状なら、
まだまだ日本は平和で、国民性も穏健である。
 小学校で英語の授業を行うのは是か非か?
 金銭外交さながら、日本の政府が多額の援助金を出費するのはどうなのか?
 私には、何が正しくて何が間違いかを即座に判断する能力はないが、いつか
「堪忍袋の尾が切れて」平和主義を諦め、第二次大戦の二の前にならぬよう、
我々日本人自身が気を付けなければならないし、外国の人たちも、日本国の
弱腰につけ込むような無理・横暴は絶対に止めてほしい。

        [2006年(平成18年)3月29日   竹木 貝石]





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