AWC 大型営業小説  「電話口の向こうで」  佐野祭


        
#114/569 ●短編
★タイトル (GVB     )  03/08/31  16:41  ( 39)
大型営業小説  「電話口の向こうで」  佐野祭
★内容
 はじめのうちは、なにも鳴ってないのに携帯電話を取り出していきなりしゃべ
りだす人を見ると違和感があったものである。マナーモードにする人が増えてき
て、それもごく当たり前の光景になった。
 だからそのとき、電車の中で隣の席の男がいきなりしゃべりだしても特になに
も思わなかった。
「はい、松本です。……あどうも、いつもお世話になっております。先日はどう
もありがとうございました。……いえいえ、とんでもありません。またよろしく
お願いします。
 はい? ……はい。……はい。……ご注文は三十個でしたよね。……はい。…
…力道山が。……調べてこちらからご連絡差し上げます。
……はい。……そうなんです。あそこは最初ドイツ製を使ってたんですけど、も
うピョンピョンはねちゃって大変で。
 今度のはすごいですよ。なにしろ海上自衛隊で使われてますから。……あとは
任天堂ですよね。……ほら、ああいうところって、桐のカス札に書いてあるじゃ
ないですか。……それどうもね、ドイツ製のやつだとうまくつながらないみたい
なんですよ。……司馬遼太郎ですからね。
 で、16ミリ28ミリ32ミリとあるんですけど、……ニュース23に出てる。草野満
代ですか? ……ああ、小倉弘子。……じゃあ、28ミリでOKですね。このタイ
プはドイツ製にはないんですよ」
 何の話をしているのか、私は妙に知りたくなった。男がどこぞの会社の営業で
お客さんの問合せに答えている、くらいはわかるのだが。
「はい?……そうそう。これは昔愛知県図書館さんに納めさせてもらったものな
んです。……ええ、この粘りがドイツ製だとうまくでないみたいで。これがまあ
ふわふわふわふわして気持ちいいのなんのって。……油ですね、それは。油です
よ。……よくドイツ製でそうなりますよ。荒俣宏も書いてましたよ。
……それはのりしろが足りないんだと思います。……唐招提寺がそうだったんで
す。……ドイツ製とうちのではのりしろの位置が逆みたいなんですよ。やっぱあ
れって文化の違いですかね。
 ええ。……人によって好みが違うんでなんとも言えないんですが、昔秋田県大
会で優勝したそうですよ。……すごいでしょ。……決勝の相手がドイツ製だった
んですけどね。
 亀です。……そう、一番大きいのだとそのくらいですね。……ああ、それはド
イツ製のやつでしょ。……いえ、司馬遼太郎ですね。
……いえいえ、とんでもありません。……ではまたこちらからご連絡差し上げま
す。……いえこちらこそ。……失礼します」
 男は電話を切ると無表情になった。
 私はとっても何の話だか聞いてみたかったのだが、さすがに見ず知らずの人に
は聞けなかった。まあいい。とりあえずドイツ製より優れていることはわかった
のだし。





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