#6/569 ●短編
★タイトル (hir ) 02/01/03 03:50 (132)
お題>神のいる国 闇川出雲
★内容
お題「神のいる国」 闇川出雲
街は熱狂していた。救世主が降り立ったという。皆が皆、救世主を崇め、その宗教に
溺れている。人間は愛がなければ生きられないと、ほざいているらしい。馬鹿々々し
い。みんな、狂っている。
もう二十年間、この国は周辺諸国との小競り合いを続け、人々は飢餓状態に陥ってい
る。いっそ纏めて攻めてくれば滅びることも出来ように、国際世論とやらを気にしてい
るのだろう、国境付近で互いに小規模な消耗を繰り返すばかりだ。決着がつかない戦
争。長引けば儲ける奴らがいるのだろう。
男たちは戦場に駆り出され、残っているのは老人と子供、そして有力者の息子たちだ
けだ。最近では男女平等をカサに女まで戦場に送り出し始めたものの、まだまだ女の方
が多く残っている。至る所で、以前なら男が占めていた位置に女が就かねばならなって
いた。工場労働者は殆どが女だし、工事現場で働くのも女たちだ。女は変わった。
世の中に男と女がいて初めて、女が女だったのだ。男がいなくなり、女は既に女では
なくなった。いや、女だけの社会になると、女の中で男と女が分化する。女の欲望は、
女に向けるようになった。女同士の性愛は、社会的に許容されるようになった。……変
態どもめ。
私は高級軍人の家に生まれたから、戦場に出なくて済む。食い物に不自由はしない
し、大学に残って、モノの役には立たぬ文学なぞ研究している。専攻は十八世紀の仏文
学、サドをテーマにしている。サドは真実を語っている。法律も道徳も、嘘っぱちだ。
特に宗教家は己の欲望を実現するためにのみ、宗教を利用する。通常の理性と知性があ
れば、そんなことは、すぐに得心できる。理解できない奴らが、愚かなのだ。いま巷で
救世主と呼ばれている奴も同じだ。私は、救世主の秘密を知っている。淫らな欲望に凝
り固まっている正体を。
研究も行き詰まり、私は暇を持て余していた。私は、一人の少年の姿を目で追うよう
になっていた。彼は使用人の息子で今年十七歳になる。男として完成しきっておらず貧
しいため痩せ気味ではあるが背が高く、滑らかな褐色の膚の下では筋肉が発達し始めて
いる。無学だから、純真で従順だ。私の命令に逆らうことは決してない。何時しか私
は、彼を犯すことを夢想するようになった。
如何に彼を犯すか、思い巡らせる愉しい作業に、私は耽った。縛り上げ鞭打ち、泣き
喚かせる。まず口で私を舐めさせる。徐に、谷間で震える処女の蕾を散らす。サドに倣
って毒を飲ませる。苦しみのたうつ彼を犯す。私が満足した後は、犬に犯らせるのも一
興だ。
幼い面影を残す彼が、苦痛と屈辱に端正な顔を歪める瞬間を、私は平然と過ごせるだ
ろうか。強張り汗に濡れた彼のしなやかな肢体がヌメり輝くのを、私は冷静に見つめら
れるだろうか。私は夢中になって、己の妄想を克明に書き綴った。バスティーユでサド
が感じた熱狂が、私にも舞い降りたのだ。
彼に対する陵辱が、原稿用紙の数百枚を埋めた頃、私は逆説的な計画を思いついた。
私が今まで考えてきた彼への陵辱は、ただ肉体のみを対象としていたことに気づいたの
だ。確かに彼の美しい顔が歪む様は見ものだろう。しかし、そのような表情は、彼が果
てるときに見ることができる。しかし、拘束し、もしくは強制して彼を犯した場合、彼
は〈被害者〉となる。泣きじゃくり抵抗することは、犯される瞬間にあってさえ、彼が
純真であることを主張、証明してしまう。肉体への陵辱は、行為によって実現できる。
それだけを望むとは、私は何と寡欲であっただろう。
彼の純真無垢な魂をこそ、犯し尽くしたい。彼の魂を穢し、淫らな地獄に突き落とし
たい。彼は敬虔で、淫らなことを殊更に避けようとしている。其れが故に私の劣情を此
処まで掻き立てるのだが、男として、私に犯されることは最悪の屈辱であり背徳となろ
う。ならば、彼が自ら私に肉体を差し出すよう仕向けるのは如何だろう。行為に於いて
も、彼に苦痛を与えてはならない。苦痛は、彼への免罪符となる。彼は苦痛を言い訳
に、自分が官能に溺れることを拒むだろう。彼に淫らな人間の本性、官能を求めて已ま
ぬ真実の自分を、思い知らせてやるのだ。十分にほぐし、初めて貫かれた瞬間から官能
の波に呑み込み、自ら貪欲に私を求めさせてやる。彼の魂を穢れに塗れさせてやるの
だ。
私を信頼し尊敬しきっている彼を籠絡するのは、いとも容易いことだった。敬虔な彼
が、珍しくもない戦争の記事を新聞で読み、死んだ兵士たちのために祈っているところ
に声を掛けた。ところで性欲は膨張を指向する欲望であるから、同様の欲望を根底に据
えた戦争も、同様に肯定すべきだと私は思っている。それどころか、戦争ほど大掛かり
な陵辱はないと信じている。資質に恵まれていれば、私も父のように高級軍人への道を
選んだことだろう。しかし悩む彼に私は、愛を説き戦争の不幸を嘆いてみせた。彼は涙
を流して共感し、無垢な瞳で私を見上げた。この目だ。この目が私を苛立たせる程に興
奮させる。この無垢な瞳が絶望し涙に濡れて視線を彷徨わせるのを思い浮かべながら、
何度自慰したことか。私は努めて平静を装い、彼を部屋に導き入れた。バイブルを読ん
で聞かせると言って。
バイブルなぞ自分を善人だと思いたがる奴らのバイブ/自慰の道具に過ぎない。私ほ
ど宗教を理解している者はいない。その証拠に、巷で私は「救世主」と呼ばれている。
冗談の積もりで書いた幾つかの宗教に関する論文などに依る渾名だ。私はバイブルを手
にして、彼にバイブを捻じ込む瞬間を思い浮かべた。少し頬が火照った。神妙に座って
いる彼の薄いシャツを通して、案外に厚い胸板や盛り上がった肩の筋肉が感じられた。
贅肉のないウエストが、くびれていた。この年頃の少年は、目を離した隙に成長してい
る。稚児のような幼い、まだ性徴を来していない少年を犯しても詰まらない。男を犯し
てこそ、自分が能動主体であるべきだと刷り込まれ信じて疑わぬ男を受動の立場に堕と
してこそ、私の悦びが生まれるのだ。
媚薬を混ぜた、口当たりの良い強い酒を彼に飲ませた。初めてアルコールを口にした
のか、彼の足下はふらつき、大きく喘いだ。寝台に導いた。倒れ込み朦朧としながら彼
は、呂律の回らない舌で自らの無様を繰り返し詫びた。「呼吸が楽になるから」と言っ
て、シャツを脱がせた。逞しく筋肉の浮き上がった褐色の膚が波打っていた。私の心
が、さざ波立つ。ズボンに手を掛けた。驚き見上げる彼の顔は、怯えて強張っていた。
私は優しく微笑み、ゆっくりと脱がしていった。まだ下着は取らない。彼は安堵し、眠
りに落ちそうになった。私は全裸となって、逆様に彼にのしかかっていった。股間で彼
の顔を埋め、私も彼の股間に口づけた。彼は藻掻こうとするが、其の力は弱々しかっ
た。彼の下着をズリ下ろし、彼を口に含んだ。強張り喘ぐ彼に、私は舐めるよう命じ
た。媚薬は確実に効いていた。初めは躊躇いがちに、徐々に滑らかに彼の口唇が私を愛
撫した。私は口いっぱいに広がった彼を舐め回し吸い込みながら、彼よりは遙かに小さ
な私の突起も固まり敏感になっていることに気づいた。若々しい彼は数十秒の後、大き
く叫びながら爆発した。
私は動きを止めなかった。彼の根本を握り、二度目はすぐに爆発しないよう気遣いな
がら、目の前で固く窄まった蕾に指を這わした。再び彼は大きく叫んだ。しかし、もう
抵抗はしなかった。這わせた指で揉みしだき、ほぐれた頃合いを見計らって、一本目の
指を挿れた。私の股間に塞がれた彼の唇から、くぐもった呻きが漏れた。盛り上がった
筋肉が私の膚に食い込んできた。
私は彼を頬張ったまま、体を回転させた。彼の表情がよく見えるようにするためだ。
彼は泣きじゃくりながら、聖母の名を繰り返し呟いていた。激しい官能に、彼の魂が穢
されつつあった。もう遅い、お前は穢れたのだ。私は含そ笑み、彼から指を三本とも引
き抜いた。小さく叫び彼が仰け反った。すぐさま私は、軟膏を塗り込んだ張型を彼に押
し込んだ。彼は獣のような叫びを上げたが、案外に抵抗なく根本まで入った。苦痛を与
えぬよう、ゆっくりと回転させた。彼は私の手の動きに合わせて激しく喘ぎ、唇を噛み
締め、頭を激しく振って、時折虚ろな瞳で天井を見上げた。結局、彼は私の口の中で三
度爆発し、眠りに落ちた。
それから私は、劣情を催す度に彼を呼びつけ、犯した。如何ような背徳も、一度受け
容れてしまえば、強いて拒む理由がなくなる。強いて拒みはしないものの、まだ彼の中
には道徳心が残っているらしく、羞恥の表情を時折見せる。真っ白なカンバスは、単な
る布に過ぎない。其処に少しだけ絵の具を落として初めて、白が際立つ。彼の魂は、ま
だ純真さを幾分残しているものの、既に私に穢された。その具合が、名匠の絵画のよう
に、私の心を震わせる。彼の胸中にある屈辱感、その屈辱感と抵抗感を自覚しながらも
私の行為を受け容れてしまう彼自身への憎悪、官能を求めしまう彼自身への憎悪に思い
巡らせ、私は彼を支配している満足を感じる。私は命じて、あらゆる体位を試み、彼を
汚辱で包んだ。
サドの作品にも倦んだ気怠い午後、私は彼を如何様に屈辱的な格好で犯すかイマジ
ネーションを膨らませた。今日のセクシャリティーに相応しい方法を見つけ、インタホ
ンで彼を呼ぶ。悩める彼は、いつものように、強張った声で返事をするだろう。彼の魂
に対する陵辱は、此の瞬間から始まっているのだ。インタホンを通し、思った通りの声
で彼が答える。
「はい、お嬢様。今すぐ参ります」。
(了)