AWC 雪密室ゲーム<下>   永山


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#475/598 ●長編    *** コメント #474 ***
★タイトル (AZA     )  15/11/30  22:02  (301)
雪密室ゲーム<下>   永山
★内容                                         18/06/24 03:35 修正 第2版
 ミステリなら、ここで単身出て行くような登場人物は、しばらく行方不明になった末
に、殺されるというのがよくあるパターンだけれど、もちろんそんな事件は起こらなか
った。
 戻って来た浅田は、何らかの目処を付けたのか、少し自信を覗かせている――と、私
の目には映った。
 夕食の席は、雪密室ゲームのことは、ほとんど話題に上らなかった。うっかり口を滑
らせて、自信のある答を知られたくない、との意識が働いたに違いない。
 食事が済んで、皆が部屋に戻る前に、急ごしらえの解答用紙が配られた。
「厳密に時間を守る必要はないかもしれないが、まあ、今日中に出してくれ。間に合わ
なかったら問答無用で最下位、いや、失格にするか。余りのプレゼントは最優秀者がも
らえることにしよう」
「今になってのルールの付け足しは感心しないが、まあ賛成。面白いから」
 力丸先輩の急な提案に、折沢先輩が同意した。他の面々にも反対する者はいない。
「他にルールの付け足しはないですよね? だったら、早速書いてきちゃおうかな」
 浅田が用紙をひらひらさせて、宛がわれた部屋に引っ込んだ。「もうかよ」と驚くよ
りも呆れた風な力丸先輩。その横で、四津上先輩がまたアルコールを摂りながらふと呟
く。
「解答用紙の保管はどうするんだ? みんなぎりぎりに出すもんだとばかり思ってたか
ら、考えてなかったようだが」
「そこまで厳密さを求めるか。気になるのなら、封筒に入れて、封蝋でもするか。蝋燭
は、どこかに転がってたし」
「割り印かサインでいいでしょう」
 殿蔵先輩の案が採用された。みんながみんな、印鑑を持って来ているはずもなく、ベ
ロ(フラップ)の折り返しに、自身の名前及び他の部員二名に名前を書くことに決定。
 私は念のため、浅田にこのことを伝えておこうと、彼の部屋に行った。ノックをし、
了解を得てから入る。
「ルールの付け足しを口実に、探りを入れに来たか」
「違うって」
 笑いながら説明すると、それを聞いた浅田は「なるほど」と得心したように首肯し
た。
「推理小説的には、三人以上による“共犯”も疑うべきなんだろうが、ここは妥協する
としよう」
 三人が組んでお互いのサインを書けば、早く提出したふりをして、ぎりぎりまで考え
ることができるという意味だ。
「プレゼントが具体的にどんな物か分からないのに、そこまで悪知恵を働かせるメリッ
トはないね。ばれたときのデメリットの方が大きいし、“共犯者”が多いのも不安にな
る」
「――いや。三人だけでグループを作ったつもりが、一人が抜け駆けして、残るの四人
とも二人ずつ、三人組になる、なんていう手口を取れば、全員の解答を盗み見た上で、
自分の答が書けるんじゃないか」
「漫画の影響を受けてるな〜」
 これを機に出て行こうとしたのだけれど、呼び止められた。
「真面目な話、お宝をゲットするために、組むのも悪くないと思ってる」
「三人組を?」
「じゃなくて、確率を上げるだけだよ。俺ら二人で共同戦線を張って、最高と思える解
答二つを出すんだ。どちらかが最優秀になれば御の字」
「プレゼントは、山分けにできるような物じゃないだろう、多分」
「そりゃあそうだろうが、共同保有ってことで」
「うーん……」
 はっきり言って、気乗りしない。むげに突っぱねるのも、人間関係を悪くしかねない
ので、言葉を選ぼう。と、考える間を取ったのがいけなかったのか、浅田は私がその気
になりかけていると受け取ったようだ。
「俺達のどちらの解答が一位になろうと、プレゼントは志賀の好きな物を選んでいい。
とにかく、俺は勝ちたいんだ」
「……名探偵がコンビを組むっていうのは、格好悪くないかなあ」
「コンビの名探偵だって、いくらでもいるだろう」
「主に、テレビドラマにね。小説ではかなり稀な存在だと思うよ。名探偵とワトソン役
の二人一組というスタイルがスタンダードだから、二人とも名探偵というのはあまりな
いんだろうね」
「うぐぐ……」
 黙ってしまった浅田を見て、ちょっと気の毒になってきた。
「君さえよければ、なんだけど。相談するのはありだと考えてる。相談と言うよりも、
ディスカッションかな。その過程で出た案のどれを書いて出すのかは、各人の自由。こ
れなら、偶然同じ案を選ばない限り、君の言ったこととほとんど変わらない」
「お宝は?」
「それはまあ、どんな物があるのかを見てから、決めればいいんじゃない? 必要であ
れば、今度は二人だけでゲームをやって、買った方がもらうことにしてもいいし」
「よし、乗った」
 気が変わらない内にと思ったのか、返事が早い。そのまま、ディスカッションに突入
する。椅子とベッドの縁にそれぞれ腰を下ろし、スタート。
「実を言うと、問題文の文言をどう受け止めるべきか、迷ってるんだ。そこを相談した
くてしょうがなかった」
 浅田がそう切り出したが、すぐには意味が飲み込めない。こちらが首を傾げると、彼
は話を続けた。
「『雪に足跡を付けることなく』とあっただろ? あれって、馬鹿正直に受け取るな
ら、足跡以外は付けてもかまわないってことになる」
「ああ、言われてみれば」
「もしそう解釈していいとしたら、逆立ちするとか、自転車に乗るとかもありか?」
「自転車は、この別荘にないみたいだけど」
「たとえだよ、たとえ。他にも、足跡を靴跡と同じ意味と見なしていいのだとすれば、
スキーや竹馬なんかもOKになっちまう」
「さすがにそこまでは、認められないような。足を使って歩いたことが明白なんだか
ら、それがたとえスキーや竹馬の跡だったとしても、足跡だよ」
「そうだろうなあ。でも、逆立ち案はキープしておいていいと思ってるんだ、今のとこ
ろ」
「そうだね。こればかりは、先輩達に尋ねる訳に行かないし」
 二人してメモを取る。尤も、現時点で逆立ち案を採用するかと問われれば、私は否と
答えるだろう。とんちや謎々的な面白味はあるが、ミステリとしての面白味に欠けると
思うから。売れっ子推理作家・内藤隆信からの出題に、こんなとんちめいた答は似合わ
ない。
「さて、ここからはまともな方法を考えよう。飯前に見てきた感じでは、ジャンプして
届く距離ではないのは確かだ。ははは」
「そりゃまあそうだろうけど」
 ちっとも笑えないのだが、浅田は自分で言った冗談に笑っている。仕方なしに、こっ
ちも冗談を挟んでやった。
「本館の屋根に登り、てっぺんから駆け下りてジャンプすれば、届くかもな」
「それは無理」
 何でまともに返してくるんだよっ。
「万が一を考えて、屋根を観察して見たのさ。ここらは豪雪地帯だから、急角度の三角
屋根で、とてもじゃないが、駆け下りるなんてできない」
「……それはよかった」
 実験しないで済んで、本当によかった。
「他に考えられるのは、ロープを渡す方法だな」
「ロープを渡すって、カウボーイよろしく投げ縄? とてもできそうにない。どこかに
引っ掛かったとしたって、そのロープをレンジャーみたいにするすると手繰って移動す
るのは、難しいだろう」
「たとえば、弓矢の矢にロープを結わえて発射するとか」
「現実味がないなあ。しっかり突き刺さるような材質なのかい、離れの壁って。あ、そ
もそも、この別荘に弓矢はないんじゃないか」
「俺の記憶では、離れにはあったぞ」
「うん? そうだったかもしれないが、離れにある物を使うのは、ありなのかな?」
「離れも別荘の一部には違いない」
「それは分かる。だけど、本館から足跡を付けずに離れに行こうってのに、そのために
離れにある弓矢をどうやって取ってくるのかという……」
「雪が降る前に、持ち出したと」
「うーん。本末転倒してるような」
 事前に弓矢を持ち出したのなら、お宝も併せて持ち出しとけばいい。
「一応、離れには弓矢を始めとして、色んな物があることだけは留意するよ」
「そうか。俺はこれもキープ」
 ロープの次は、橋を架ける方法を検討する。橋と表現するのが大げさなら、足場だ。
「途中までは、本館から続く飛び石があるから、その上を行けばごまかせる可能性があ
る。無論、石の上に痕跡が残るが、雪を被せれば隠せなくはない」
「無理がありそうだけど、仮に飛び石伝いに最接近したとして、離れまでは残り何メー
トル?」
「目測で、五メートル強。ジャンプすれば届く可能性が出て来た」
「届いたとしても、雪が積もっているから、着地点に痕跡が残るんじゃないか」
「うん、そうなんだ。離れの玄関先に大きな庇でもあればいいんだが、なかった」
「じゃあ、無理だ」
「だが、ここで俺は思い出したね。玄関を入ってしばらく行くと、右手に大きな絵が掛
けられていることを」
「玄関て本館の玄関か。絵はあった気がするが、それをどうする?」
「足場にする」
 得意げに言う浅田。私の方は、どんな顔をしていただろう。
「あの絵の横幅は、五メートル近くあった。額縁の枠内に板を敷き詰めて固定し、一枚
の大きくて頑丈な板にする。それを飛び石から離れの方向にひょいと放ってやれば、足
場になる」
「……大きくて平たいから、荷重が分散され、雪に残る跡が目立つことはない、という
理屈だね」
「そういうこと」
「敷き詰める板はどこに?」
「まだ見付けていないが、こんな山に建つ別荘なんだから、どこかにあっても不思議じ
ゃない」
「あったとしても、後始末はどうするのさ。恐らく、絵がぼこぼこになる」
「放っておけばいいんじゃないか?」
「いや、だって、絵を元の場所に掛けておかないと、怪しまれる」
「そこなんだよ。俺が感じた、問題文に対するもう一つの疑問。雪密室のトリックを使
ったとして、そのことを他人から隠さねばならないのか?」
「……推理小説的には、隠すべきだろう」
「しかし、犯罪じゃないんだぞ。プレゼントをくれるというからもらうために考えただ
けだ」
「そんなことを言い出したら、雪に足跡を付けずに離れに行く方法なんて考えずに、鍵
の場所を内藤さんが教えてくれるまで待って、みんなで仲よく取りに行けばいいことに
なる」
「ゲームはゲームとして尊重したい。ゲーム内でのことを言ってるんだ、俺は」
「分かった、理解した。じゃあ……犯罪でもないのにトリックを使うのは、トリックに
よって他人を驚かせたいからだろう。それなのに、どんなトリックを使ったか、あから
さまに証拠を残すのは、その精神に反しているとは思わないか?」
「おお、なるほど。真理だな。そうなると、さっき俺が言った絵を使うトリックは、だ
めだな。絵を元の場所に戻せない。絵を焼却して、盗まれたように偽装しても、トリッ
クのヒントになることには変わりがない」
「絵を足場にするくらいなら、スキー板を利用する方がましだ」
「ほう。たとえばどんな風に」
「たとえば……多分、ここにはスキー板が何組もあるだろうから、重ねてブリッジ状に
するんだ。橋脚になる物さえあれば、恐らく渡れる。長さ的に足りないけど、ブリッジ
自体が可動式だから、何とかなるだろ」
 これは口から出任せの即興だ。色々と穴はあるが、とりあえず橋脚をしっかり固定す
る手段がないだろう。しかし、浅田は真剣にメモを取った。「物干し竿も使えるかも
な」等と呟きながら。
「ジャンプやロープや橋の他に、何か方法があるかな」
「あとは……空中浮遊ぐらいしか。ドローンみたいなスマートヘリがあればの話だけ
ど」
「だよな」
「密室殺人じゃないんだから、時間差を利用するトリックも応用が利かないし」
「時間差ねえ……。雪が降り出すまでに離れへ行き、そのまま留まって、雪が止んだあ
とどうにかして本館に帰るっていうのは、問題文の条件から外れるか」
 浅田の言う通り。雪が降り止んだあと、足跡を残さず、“行き来”しなければならな
いのだ。
 このあとも少しの間、ディスカッションは続けられたが、もう出がらしのようなネタ
しか残っていなかった。適当なところで切り上げ、私は自分の部屋に戻った。

 結局、七人全員、提出がぎりぎりになった。言い換えると、サイン云々の保管対策は
行使されなかった。
 リビングに集まると、テーブルを囲む。そのテーブルの中央には、四折りにされた用
紙が七枚、重なって山になっている。
「では、ランダムに見ていくとするか」
 ここでも力丸先輩がイニシアチブを取る。現部長が来ていないのだから、当然だ。
 前の部長は、一番上の用紙を取り上げた。
「おっと、いきなり自分のを引いた。何かトップバッターは気恥ずかしいな。えー、
『他人に行かせる』が俺の答だ」
「え?」
 どよっ、と部屋の空気がざわめく。
「他人に行かせるって、つまり、自分の足跡さえ付かなければいいっていう解釈です
か」
 私が尋ねると、力丸先輩は皆の反応に満足したように、にやりと笑った。
「ああ。他にも候補はあったんだが、これが一番ユニークだと思ったんで書いた」
「そ、そんな」
 殿蔵先輩が、開いた口がふさがらないとばかり、ぽかんとしている。
 力丸先輩は「先に全員のを見てしまおう」と、二枚目を手に取った。
「二枚目は、殿蔵だ。犯人当てにかかり切りだったから、こっちはお疲れかな? どれ
どれ……『自分以外の関係者を招く前の段階で、本館を白い布で覆って隠す。また、離
れの窓から別の離れがあるのが見えるよう、小屋を建てておく。やって来た皆には、離
れがさも本館であるかのように案内する。この間にお宝を頂く。その後、一度全員で外
出。戻ってきたら、今度は本館に入る』――長いな」
「長い上に、いまいち意味が掴めない。分かるような分かんないような」
 四津上先輩の批評に、殿蔵先輩は捨て鉢な反応を示した。
「頭がこんがらがった状態で書いたんです。犯人当ての推敲が終わったばかりだったん
で。あー、そうですとも、自分の責任ですから仕方ありません。でも、まさか、『他人
に行かせる』なんてのがありだなんて……真面目に考えた自分は、とほほですよ」
「疲れてるな〜。いいぞ、今は無礼講だ、ぐだっとなって休め休め。よし、次は」
 上から三つ目。ちらっと見えた名前は、浅田だった。果たして、どの案を選んだの
か、少々気になる。彼の顔を窺おうとすると、ちょうど目が合った。慌ててそらす。
「浅田だな。一年の答は……『逆立ちして往復した』」
 結局、最初に思い付いた案を選択したのか。浅田らしいと言えばらしい。
「足跡を付けたらだめっていうなら、手なら文句あるまいってことで」
「一見するとうまく裏を掻いたようだが」
 四津上先輩が、何やら意地悪げな目をしている。
「もしほんとにお宝を持ち出すとしたら、逆立ちで運ぶのは一苦労しそうだな。重量の
ある物だったら、リュックに入れて背負ったとしても、バランスを崩しそうだ」
「そのときは、重たい物はあきらめて、軽めの初版本でも頂いていきます」
 浅田は笑いながらではあるが、真面目に反論した。勝ちたいという言葉に、嘘はなか
ったようだ。ただ、この答でその目的が達成できるかどうかは、心許ない。
「で、次は四枚目になるのか。えー、柿谷」
「はいはい」
 名前を呼ばれたせいか、返事をする柿谷先輩。
「オリジナリティでマイナスになると分かってしまったので、しょんぼり」
「というと、誰かと被ったか。どれ、『雪が凍るよう、予め水を撒く。凍った後、ゴム
ボートに乗って、氷の上を滑るようにして離れと本館を行き来する』――被ってるか
?」
「浅田君のと同工異曲でしょ。雪に足跡以外の痕跡が残るという点で」
「えらく自分に厳しいな」
「それよりも、この別荘のどこにゴムボートがあるのかを聞きたい」
 折沢先輩が言った。
「近くにボートを使うような水場もなさそうだし」
「去年来たとき、物置部屋の片隅で見たんですよ。膨らませてないから確証はないけれ
ど、あの色合いと質感はゴムボートで間違いありません」
 柿谷先輩がそう話しても、他の先輩方はぴんと来ないようだ。あとで見に行こうとな
って、五枚目の用紙を開くことに。
「四津上、おまえだ。字が酷いな。酔いが抜けないまま書いたな、これ」
「すまんな。内容の方も酔っ払ってるが、勘弁してくれ。読みにくければ交代するが」
「うんにゃ、どうにか読める。『そこいらにいるであろう昆虫を一匹捕らえ、その体に
細くて軽くて丈夫な糸を結わえる。釣り糸がよろしいが、ここにあるかどうかは不明な
り。なき場合は、衣服の端をほどけば事足りる。糸を結わえた昆虫を、窓から離れに向
けて放ってやる。一度でうまく行く保証はなき故、成功するまでチャレンジするがよろ
しい。首尾よく、昆虫が離れまで飛んでいった暁には、糸を引き、本館まで戻ってくる
よう、導いてやるがよろしい』……驚いたな、俺よりもひねくれた答があるとは」
 力丸先輩自身、『他人に行かせる』と答えた手前、この四津上先輩の昆虫を利用する
答を否定できないらしい。それにしても、問題文に言及されてないとはいえ、昆虫を飛
ばして往復とは……。
「俺のは忘れてくれ。気を取り直して、六枚目に」
「そうするか。えっと、残ってるのは二人で、次は……折沢」
「『最後から二番目の真実』になるかな」
 折沢先輩は薄く笑って、ミステリのタイトルを口にした。そういえば、『雪密室』と
いうミステリもあるなあ。
「『オランダのスポーツ運河跳び――フィーエルヤッペンの要領で、本館から離れへ跳
躍する。帰りも同様。ポールは周囲に生えている竹を使う』とは、また特殊なネタを持
って来たもんだ」
「雪に一点だけ、ポールを着いた跡が残るが、まさか“犯人”がフィーエルヤッペンの
名手だとは、誰も思い至るまいというトリックさ」
 台詞とは異なり、特に誇る様子もなく、淡々と語る折沢先輩。
「最初は、もっと本気で考えていたんだけれどね。内藤さんの用意したプレゼントが七
つのはずがないと気付いたから、ちょっとやる気が削がれた」
「え? でも、人数分を用意したとあったじゃないですか」
 浅田が問い返すと、折沢先輩は首を横に振った。
「お忘れかな。僕は冬合宿に飛び入り参加なんだよ。内藤さんは、事前に六人参加と聞
いた上で、プレゼントを用意したはずだろ」
「あ、そうか」
 言われてみれば、である。でも、数が足りないなら、最下位になった者がプレゼント
なしという取り決めにしてもよかったのに。
「お宝の数の問題は、棚上げするとしてだ。最後の一枚、志賀の分を読むぞ」
 手を叩き、全員の注意を惹く力丸先輩。静かになったところで、読み上げ出す。
「えー、志賀の答は――こりゃいい。『雪解けまで待つ』」
 静寂に覆われていた室内が、一転して沸いた。「気が長いな」「再び雪が積もれば、
確かに」などという感想が飛び交う。
「おまえ、そんなこと考えていたとは。ディスカッションのときは、おくびにも出さな
かったくせに。やられたぜ」
 浅田に背中をばんばん叩かれた。
 順位はどうなるか知らないが、受けがよかったので、私はほっとした。

 その後――十二月二十六日になると同時に、内藤さんからのメールが着信した。これ
に鍵の在処と、雪密室の解答例が記載されている。私達推理研のメンバーは、息を殺す
ようにして文面に目を走らせた。
 だが、鍵の在処も解答例も、はっきりとは書かれていなかった。
 ゲームに関係のある文言としては、台所の床にある貯蔵庫に下りてみなさい、これだ
けである。
 私達七人は揃って台所に行き、床に設けられた観音開きの扉を開けた。よくある貯蔵
庫だ。根菜類や味噌などを保管していると聞いた覚えがある。
「意外と深いな。それに、広い。これなら下りられる」
 力丸先輩が懐中電灯を持って下りた。懐中電灯は他に二つしかない。全員が下りて酸
欠になったら洒落にならないし、ここは四津上先輩(今は酔っていない)が加わるのみ
とした。万が一、悪い意味でのトラブルやハプニングが起きた場合、残る一本の懐中電
灯を持って、助けに行く。
 が、そんな緊迫感とは無縁の、力丸先輩ののんびりした声がやがて聞こえてきた。
「面白い物があったぞ。扉だ」
 扉? 残された五人は顔を見合わせた。クエスチョンマークがいくつも浮かぶ。
「扉には、目の高さにプレートが貼り付けてあって、そこにはこう書いてある」
 今度は四津上先輩の声。若干、反響しているが、充分に聞き取れる。
「『離れまでの秘密の地下通路はこちら』だとさ」
「ええー?」
 売れっ子推理作家が、秘密の通路を使うなんて……あり得ない。

――終わり




元文書 #474 雪密室ゲーム<上>   永山
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