#119/598 ●長編
★タイトル (hir ) 02/12/04 01:38 (188)
南総里見八犬伝本文外資料15 伊井暇幻
★内容
南総里見八犬伝第九輯巻之二十九簡端或説贅弁
嚮に友人告ていへらく或云本伝第九十九回素藤鬼語を聞く段より第百四十九回一休画虎
を度する段まで事々物々怪談鬼話ならぬは稀なり。且上に十二地蔵の利益あり、下に薬
師十二神の霊異あり、又前に狸児の怪談あり、後に画虎の怪談あり。其事都て重複を免
れて互に相犯さずといへども大凡看官に怪談を好むと好ざるとあり。其怪談を好ざる者
は必飽く心地すべしといへり。この言当れりやと問れしに、予答ていへらく、否否然ら
ず、唐山大筆なる稗史に縁てもて是を思ふべし、彼鬼話怪談の多かる独西遊記のみなら
ず譬ば水滸伝の如きも又是怪談をもて趣向を建たり、見るべし、始に石碣一百十箇の魔
君を走する事あり、終に石碣一百八箇の魔君を治めて遂に宋朝の忠義士に做せしは彼が
一部の大趣向にて作者の隠微こ丶に在り。{予嘗水滸隠微発明評一編あり今亦贅せず
}。且羅真人公孫勝の仙術戴宗が神行樊瑞高廉が幻術及九天玄女の霊験冥助皆是多く怪
談に渉れり。そは左まれ右もあれ本伝も亦始より鬼話怪談をもて趣向を建たり。豈啻九
十九回以下のみならんや。所云始に役行者の利益あり、又伏姫腹を劈て竟に八犬士出世
の張本になれる奇談あり。是よりして後、多く怪談に渉る者事皆勧懲の意もてせざるは
なし。就中地蔵薬師の霊応利益は世の怪談に惑へる婦幼及事を好む雅俗をいかで竊に覚
さんとて叮寧反覆してもて綴りたり。然るを怪談多しといへるは右もていまだ覚ざる
か、弁ずるともいふかひなかるべし。抑怪談に雅俗の差別あり。不及ながら予が綴る怪
談は勧懲にあらざる者なし。こ丶をもて世に在る所の怪談と相似て同じからざるをよく
見る者は予が言を俟ざるもあらむかし。この故に吾常に云、吾漫に物の本を綴り初しよ
り此に五十余年なり。実に無益の技なれども已に老煉に至りては、いよ丶ますます精く
して十二分にせざるはなし。然るを看官は只三分四分のみ二三の同好知音の評も六七分
の上を出ず、其心を用ひ力を入る丶処、精粗同じからねばなり。しかるに近曾人ありて
予が旧作なる俊寛僧都嶋物語を評して八犬伝を除くの外是を第一の佳作とすといへりは
私言のみ。予は決して諾なはず。但予が諾なはざるのみならで十目の視る所、大かたは
同じかるべし。人各褒貶を其好憎に儘するは必公論ならぬものから誉られて歓ぶはなべ
て人の情なれども己が如き僻者は誉られてなかなかに恥かしき事あり否なる事あり。い
まだ己を知ずして、いづくにぞよく人を知らん。或は▲(石に武)▲(石に夫)の美き
を負むが為に光を瑞玉に争まく欲し或は瑣々たる小鶏彼距を挙て力を封牛に比まく欲す
るが如きは是予が恥る所なり。
友人又告ていへらく、或云本伝第百三十一回八犬士稍全聚ひて倶に安房へ徴れて里見の
家臣になるといふ段、是宜く大団円なるべし。是るを又金碗の姓氏の事を説出して京師
の話説十八九回あり。{第百三十一回の末より第百四十九回に至れり}。こは疣贅にあ
らずや、といへり。嗚乎又此等の言あるか。本伝に京師の事を説く十数回は是始よりの
腹稿なり。然るを疣贅とせらる丶はよく思ざる故にこそあらめ。そを何とならば八犬士
倶に安房に到りて里見の家臣になるのみにて犬江親兵衛を除くの外七犬士等かくの如く
にして可ならんか。且京師の話説微りせば俗に云田舎芝居に似て始より説く所、東八州
の事に過ぎず。然では話説広からで大部の物の本に足ざる所あり。譬ば水滸伝の如きも
七十回の後招安の事及京師の話説あり。こ丶に至て一百八箇の魔君皆よく変じて宋の忠
義士になれり。▲(ニンベンに尚)是等の事なくて七十回にて局を結ばば彼一百八人は
梁山泊嘯聚の強人のみ。何をもてよく勧懲にせんや。是に由てこれを観るに水滸伝百二
十回は羅貫中が一筆なるに疑ひなし。然るを又彼金瑞は七十回以下を誣て続水滸伝とし
て反て酷く▲(ゴンベンに山)りたり。他が如きは水滸の皮肉を知れるのみ、骨髄を得
たる者にあらず。然ば有人の臆断に本伝百三十一回を団円にせば宜しからむといひしと
又金瑞が水滸七十回を強て結局にしたると日を同くして論ずべし。そも吾惷寿桑楡の暮
景に至るをもて看官なべて本伝の結局をいそぐ故にこそありけめ。予もいそがざるにあ
らねども腹稿尚余りあるを芟遣捨んはさすがにてこの九輯下帙の下乙編十巻を分巻十五
冊にして稍大団円に至る者なり
○筆次にいふ。本輯巻の二十九第百四十七回犬江仁が三関を破るの出像に画工謬て作者
の稿本に違へて仁が馬上に敵の雑兵を礫に捉て擲つ為体に画きたり。第百二十七回左右
川の段の出像に仁が跪て両手に敵の雑兵を捉抗たる処と又第百四十回の出像に仁が馬上
に徳用を抓抗たる処あれば此彼重複にて且馬上の人礫は仁に相応しからぬを看官必難ず
るもあらむ。又云画工是を聞て聊改めしを作者に見せざりければ知らでこの義に及べ
り。右の一条は削去るべし。
天保十年花月念八
曲亭主人識
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南総里見八犬伝第九輯巻之二十九口絵
松柏如君子 美人似春花
松柏は君子の如く、美人は春花に似る。
秋篠将曹広当あきしのせうさうひろまさ・再出雪吹姫ふぶきひめ
わすれ草わすれすに買へ大津画の鬼のしこ草もあふミ野の花 半閑人
大杖入道稔物おほつゑにうどうねんぶつ・根古下厚四郎鴿宗ねこしたあつしらうはとむ
ね・老松湖大夫惟一おいまつこたいふこれかず
★「鬼のしこ草」は謡曲大江山に出てくる巨大な草
昔年同気相求処今日同憂奚不憐
昔年には同気相求めし処、今日の同じき憂いに奚(なん)ぞ憐れまざる。
箕田馭蘭二円通みのたぎよらんじミつみち・根角谷中二麗廉ねつのやちうじうらかど・
廉吉彫ユ之
虎と見て射ぬる矢たねやのこりけむ今もたつ野の石竹の花 ▲(頼のした鳥)斎
一休和尚いつきうおせう・義政公よしまさこう
★試記・虎と見て射ぬる矢種や残りけむ、今も立野の石竹の花
君酔甚多言壁垣維有耳
君は酔えば甚だ言を多くす。壁垣に維(これ)耳あるぞ。
君酔へば甚だ言多し 壁垣維(これ)耳あり
小才二こさいじ・世智介せちすけ
ホリレン
すみ田川すミわひて渡りやすからぬ世をうき橋ハ昔なりけり 著作堂
千代丸図書助豊俊ちよまるずしよのすけとよとし・下河辺荘司行包しもかうべせうじゆ
きかね
★試記・隅田川、住み侘びて渡り易からぬ世を浮き橋は昔なりけり
本輯下帙の下所云下套の乙号編は五巻にていまだ足らず。因て十巻にして局を結べり。
この内中巻の卅一と卅四五六は楮数いと多かり。こ丶をもて釐て上下各二冊とす。共に
是十五冊なり。其十五冊の中五冊夙く彫果るを先出せり。右の第百五十三回以下も必続
て出すと云。看官亦復僂待つべし。
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第百四十六回
「白河山に代四郎小姐を救ふ 談講谷に親兵衛大蟲を射る」
諸悪勿作衆善奉行
諸悪、作(な)すなかれ。衆善、奉行せよ。
くミこ・くミこ・けんさく・くミこ・くミこ・きじ六・代四郎・とくよう・くミこ・ふ
ぶきひめ
★きじ六の胴には、一つ帆の紋。照文は三つ帆の筈であり、きじ六本人の紋か、それと
も絵師の錯誤か、変更か
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第百四十七回
「紀二六月下に真刺に逢ふ 親兵衛湖上に三関を破る」
神箭差ハず虎妖対治せらる
しん兵衛
親兵衛単騎にして撃て三関令を走らする
はとむね・しん兵衛・これかず・大杖入道
ひとつ松・からさき明神
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第百四十八回
「頓智の▲(テヘンに爭)従者妙に利く 奸詐の悔執権還を送る」
大津の駅稍尽処に親兵衛政元に辞別す
五近習・ははかべ十郎・これかず・はとむね・まさもと・ねんぶつ・きんじゆ・きんじ
ゆ・きかん太・よ四郎・しん兵衛・きじ六
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第百四十九回
「石薬師堂に賢少年朝賞を辞ふ 東山の銀閣に老和尚驕君を醒す」
馬を走らせて広当親兵衛を追ふ
ひろまさ・とも人・とも人・とも人・くミこ・くミこ・くミこ・代四郎・しん兵衛・く
ミこ・きかん太・きじ六
良薬苦口樹・石薬師堂
一休偈を説て画虎を度す
熊谷▲(ケモノヘンに爰)二郎・よしまさ公・いつきう・ぼん石天然がび山・一色とき
馬
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第百五十回
「照文二書を捧て東藩に還る 両侯衆議を聴て京信を寛す」
八犬士姓氏勅許に就て照文賞禄を賜り丶大等共侶に両侯に拝見の処
小文吾・毛野・道節・てるふミ・現八・大角・荘介・信乃・清すみ・ときすけ・ちゆ
大・よしさね・よしなり
★此処での紋は、道節が正面揚羽蝶、毛野は月星、小文吾が「古」字、現八が「犬」
字、大角が蔦、荘介は雪篠、信乃が桐
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第百五十一回
「七犬兵を煉り夢想三使を行(→遣)る 定正将を連て水陸大軍を起す」
七犬士海辺に水戦を教煉す
八丁ろぞふ兵・よしみち・なほもと・三ばん手・はやとき・しの・どうせつ・小文吾・
けん八・さうすけ・ざふ兵・大かく・ぞふ兵・ぞふ兵・毛野・八丁ろざふ兵
義通君の山猟に七犬士よく人馬を調煉す
より介の事ハ第百五十二回にありあハせて見るべし
よしミち・なほもと・どうせつ・小文吾・げん八・さう介・しの・より介・大かく・け
の
すめばひなもおのつからなるみやこ鳥足とはし場のあか伝ゐるらむ 著作堂
せんさく・やちう次・なし八・せち介・なし八つま・小才次
★試記・住めば雛も自ずから成る都鳥、足と橋場の飽かで居るらむ/江戸名所図絵で橋
場は都鳥の名所
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第百五十二回
「憲重憲儀聚兵使を同くす 行包在村忠奸諫を異にす」
憲重使して顕定の第に到る
あき定・たかさね・のりしげ
正庁に成氏両冢臣の意見を問ふ
しなかハ七郎・もちみ一郎・ゆきかね・なりうぢ・ありむら
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第百五十三回
「毛野計を呈る八百八人 丶大命を聴く善巧方便」
毛野大角延命寺の方丈に造る
大かく・けの・ねんぢゆつ・ちゆ大