AWC 本の感想>『片桐大三郎とXYZの悲劇』   永山


        
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★タイトル (AZA     )  17/02/16  20:14  ( 32)
本の感想>『片桐大三郎とXYZの悲劇』   永山
★内容
・『片桐大三郎とXYZの悲劇』(倉知淳 文藝春秋)15/4451
 山手線の通勤電車内で毒殺事件発生。すし詰めの車内で、犯人はどうやって目的の人
物に毒針を刺すことができたのか(「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」)。著名な画家が邸宅
の物置部屋で殺害される。犯人は何故、数ある凶器の中からわざわざウクレレを選択し
たのか(「極めて陽気で呑気な凶器」)。子守のバイトを引き受けた女子大生が殺さ
れ、赤ん坊が消えた。程なくして、子供の靴下が届けられ、更に脅迫電話が。ところが
電話が犯人自身によって切られることが三度続き……(「途切れ途切れの誘拐」)。
数々の難事件を前に、耳が聞こえなくなって引退した銀幕の大スター、片桐大三郎の趣
味――犯罪捜査――の幕が上がる。
 エラリー・クイーンの“悲劇四部作”の向こうを張った、本格推理中編集。

 読み始めてまず感じたのは、倉知淳てこんな文章を書く人だったかなということ。凄
くうまいって訳ではないにしても、もうちょっとメリハリの利いた文章だったと思う。
本作では定型に填めた、ともすれば退屈な筆致になってるような。
 それはさておき、名作として知られる“悲劇四部作”に挑むと謳うだけあって、なか
なか力が入っているなとは思いました。凝ったロジックを用意し、執筆に取り掛かった
んだろうなということが想像できたです。
 その結果できあがったのが、本家にも劣らぬ見事な本格推理ならばよかったんです
が、そこまでの域にはさすがに達していないかなあ。悪くはないものの、根掘り葉掘り
突っ込んで読むと、ぼろが出て来るというか。
 細かな点を挙げていったらきりがないくらい多くなると思うんで割愛しますが、全体
に、推理の方針や判断基準蛾が恣意的だなと感じました。たとえば……あるときは、犯
人は目撃されることを恐れたという前提に立ち、別の場面では、目撃されることを恐れ
ずに偽装工作をしたという風に論理を組立てている。それがまたびしばし当たるものだ
から、都合がよすぎだなと白けてしまう。
 編中のベストは、上記粗筋では触れなかった最後の作品「片桐大三郎最後の季節」で
しょう。これもヒントはちりばめられているけれども、決定的なものに掛けるかなとい
うきらいはありますが、その仕掛けは最後を飾るのにふさわしい。また、“悲劇四部作
”を知る読者にこそ、より効果的に機能する仕掛けであることも、マニア心をくすぐり
ます。

 ではでは。





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