#9054/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 16/10/06 20:24 ( 42)
本の感想>『オルゴーリェンヌ』 永山
★内容
・『オルゴーリェンヌ』(北山猛邦 東京創元社ミステリフロンティア)17/556
1
そこは書物を所有してはならない世界。あらゆる書物は検閲官の捜索対象となり、発
見され次第、その場所ごと燃やされる。特に殺人や犯罪を扱う『ミステリ』は、一番に
やり玉に挙げられる存在である。故郷の英国を離れ、一人で旅を続ける少年クリスは、
そんな世界で『ミステリ』を執筆するのを夢とする。彼はかつて世話になった恩師のキ
リイ先生に会いに行く道すがら、検閲官に追われる少女ユユと出会う。ユユを助けんと
するクリスは、顔見知りの少年検閲官エノと再会を果たし、どうにか窮地を脱する方法
を探る。エノによると、ガジェットと呼ばれる『ミステリ』の結晶の一つを、ユユが持
ち出した疑いがあるという。しかしユユはそんな物は持っていない。濡れ衣を晴らすべ
く、クリスとユユはエノとともに、ユユが逃げてきた水没しつつある廃墟:海墟へ向か
う。そこに建つカリヨン邸というオルゴール製作所を兼ねた屋敷では、カルテという少
年検閲官が捜索の指揮を執っていた。そんな中、オルゴール職人達が次々と殺される事
件が発生する。
前作『少年検閲官』から七年。待望のシリーズ第二作。
本格ミステリとして読むには、欠損した部分があるかもしれないが、傑作と呼んでい
い作品。
まず、序奏として語られる「月光の渚で君を」と副題された物語が、素晴らしい。こ
れだけでぐいぐい読ませます。その後に続く物語の主な舞台となるカリヨン邸における
過去エピソードなんですが、スラム出身のオルゴール職人と主の娘で盲目の少女との恋
を、幻想的に描いています。その結末も含め、短編ファンタジーとして充分成立してい
るんじゃないでしょうか。
続く本編は、架空世界の設定をしつつも、推理小説になっています。
最初に、クリス達が海墟へ渡るまでの過程が細かく描かれており、ユユの、口をきけ
ないが天使の歌声を持つという属性が、強く印象に残ります。序奏ほどではないにせ
よ、読ませる内容だと思います(前作既読なら尚更)。海墟に渡ると第二の少年検閲官
カルテの初登場。このキャラクターが気怠い雰囲気で、何か嫌なんだけど、魅力あり。
そして殺人事件発生。灯台の鉄骨に突き刺さった死体に始まり、横倒しになった六階建
てのビルの五階における転落死、オルゴールに囲まれた密室殺人と、オルゴール職人達
が死んでいく流れは、本格ミステリらしさ満載。検閲官は書物やガジェットの発見と処
分が職務であり、殺人の解決は本分ではないため二の次になりますが、それでもガジェ
ット発見につながる可能性が高いとして、捜査は進みます。そして解決編を迎える訳で
すが……できる限りネタに触れたくないので、ここから先は読んでくださいとしか。
本格ミステリとして読むと、推理する材料がさほどないことや、トリックの現実味や
確実性など、いくつかの物足りなさは感じられると思います。だけど、それを補って余
りある、仕掛けと物語性が本作にはあります。
あと、読んでいる間中思ったのは、アニメ化に向いてるんじゃないか?と言うこと。
イメージは、「キノの旅」に近いかも。キャラクターの絵や動きや声まで、想定しなが
ら読んでしまいました(笑)。
ではでは。