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★タイトル (AZA ) 09/01/18 21:47 ( 35)
本の感想>『天城一の密室犯罪学教程』 永山
★内容
その前に。
AWC大賞部門賞の投票は今日が締め切り。そしてお題募集中。
本の感想>『天城一の密室犯罪学教程』(天城一 日本評論社)12/6141
幻の探偵作家とされた作者の作品集、待望の刊行。
密室トリックの分類を、実践編と理論編に分けて行い、さらに、“見えない
人”を扱った傑作として名高い「高天原の犯罪」を始めとする、これまでの短
編数編からなる。
やたらと評価の高い本書ですが、些か過大評価のきらいがあるようで。まと
まった形で読めなかった物が出たということで、ご祝儀的ニュアンスなんでし
ょうか。
噂に聞いていた通り、小説としては下手を通り越して、稚拙なくらい。でも
それは純粋なトリックミステリを志向したが故……とも聞いていたのですが、
その評価にも首を傾げてしまいました。状況の描写が決定的に不足しており、
謎が謎として形作られる前に、解決されてしまう感じ。
加えて、小さな見落としがあちこちにあるような。たとえば、「むだ騒ぎ」
では、列車アリバイトリックが出て来ます。ところが、掲載してある時刻表の
どこを見ても、そのトリックに使われた列車が載っていません。本文中では触
れているものの、そこから真相に到達するのは不可能ではないでしょうか。ま
た、「黒幕・十時に死す」では、刑事が意識を失っていた時間を最初は三分ぐ
らいと思っていた、とあるのに、あとの方では一分ぐらいになっています。三
分という数値はトリックに関わっており、それに引きずられて筆が滑ったので
しょうか。
個人的には、前書きとして解説を付した大上段に振りかぶった感のある「盗
まれた手紙」は肩透かし。勘のいい読者なら瞬時に見抜けるであろう謎を、く
だくだしく論じられて終わり。
とはいえ、「高天原の犯罪」と乱歩への批判を込めた献詞、そして密室作法
の載った本書は、マニアには逃すことのできない作品集であることは間違いあ
りません。
※「むだ騒ぎ」に関しては、作者自らによるフォローがあったかもしれないの
ですが、その文章を見つけられずにいます。
ではでは。