#5028/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 08/06/28 20:36 ( 30)
本の感想>『道具屋殺人事件』 永山
★内容
・『道具屋殺人事件』(愛川晶 原書房)13/3451
脳血栓で倒れた落語家が、殺人の容疑を掛けられる。彼が前もって用意して
いた扇は、特別誂えで刃物が仕込んであった。その刃に人の血が付着していた
のだ(「道具屋殺人事件」)。師匠が付けた名前を、勝手にころころと変える
桃家福神漬。そんなろくでなしが新しい女を連れてきた。前の女は失踪したよ
うだが、隠された真相が(「らくだのサゲ」)。詐欺の容疑者扱いされた教師
が、アリバイ証明のために、ある期間の演芸場の出し物を知りたいと言ってき
た。ところが、記憶にある噺が記録にない(「勘定板の亀吉」)。
落語を一席終えたとき、謎が解けている。噺家の世界を舞台にした落語ミス
テリー。
腑に落ちない点が、一つあります。上記粗筋のように、「勘定板の亀吉」で
は詐欺を扱っており、落語を題材にした短編集なのですから当然、“時そば外
人”を取り上げています。あの、片言の外人がよくやるという、思い出したよ
うに流行る釣り銭詐欺のことです。
ところが、作中では、時そば外人や時そば詐欺なんて呼び名は、全く出て来
ません。代わりに、壺算詐欺という言葉が登場します。くだんの釣り銭詐欺の
仕組み自体は、落語「壺算」の手口にそっくりであり、呼び名としては壺算詐
欺の方が実態に即している。でも、世間的には時そば外人で通っている(少な
くともかつてそうであった)のですから、触れておくべきだと思うのですが、
いかがでしょう。
さて、内容ですが……ミステリとしては薄味で、物足りないかなと。落語に
ウェイトを置きすぎて、話の流れがやや遅い気もしました。
反面、落語を好きな人には、楽しめるんじゃないでしょうか。細かい点では
実態にそぐわないところもあるんでしょうけど、その辺を含めて、にやりとさ
せられる箇所が多くあるのではないかと思います。ただし、落語に詳しい人に
は、示される謎――特に二作目と三作目――が、(ミステリマニアとは別の意
味で)簡単かも?
ではでは。