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★タイトル (AZA ) 08/05/19 19:40 ( 25)
本の感想>『ルピナス探偵団の憂愁』 永山
★内容
・『ルピナス探偵団の憂愁』(津原泰水 東京創元社)16/4561
若くして急逝した摩耶。彼女は死を間近にして、何故、無理難題を夫に突き
つけたのか(「百合の木陰」)。師事する大学教授宅を辞した直後に起きた事
件(「犬には歓迎されざる」)。彩子が合コンで出会った男の子は、かつて謎
解きをした殺人犯の息子だった(「初めての密室」)。卒業式を控えたルピナ
ス学園の動物小屋で殺人が起きる(「慈悲の花園」)。
ルピナス探偵団の足跡を、社会人から高校卒業式まで遡る。
カバー折り返しに書かれたフレーズ、“皆で謎を解いたあの日々は、今も奇
蹟のような輝きに満ちている”が、本書を端的に表しています。逆に言えば、
上述したようなミステリに即した粗筋紹介は無粋で、本作のカラーをちっとも
表していない訳で。内容に触れずに、「とにかく読んでください」で済ませた
いところです。
ミステリとしては、前作の『ルピナス探偵団の当惑』の方が、度合いが高い
でしょう。本作はミステリの濃度が若干下がった代わりに、物語色がより強ま
っています。また、キャラクター小説の趣きも強くなった気がします。そして
その結果(なのかな?)、探偵“団”としてよく機能している――と言えそう。
エピソード間に小さなネタふりがあるのも楽しい仕掛けですが、それ以上に、
この遡って回想する形式が、実に効果的に決まっています。第四話のラストシ
ーンが第一話につながり、感慨が深くなる。
ルピナス探偵団の“これから”の物語は、残念ながらあり得ないのでしょう
が、“かつて”の物語は、まだ可能であるはず。語られざる事件が存在し、そ
して語られることを期待してしまいます。
ではでは。