AWC 本の感想>『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』 永山


        
#4801/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  08/02/17  23:05  ( 41)
本の感想>『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』 永山
★内容
・『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』(法月綸太郎 編 角川文庫)
                           15/4451
 乱歩のエッセイでたびたび紹介され、日本のファンの記憶に刻み込まれたノ
ックスの短編「動機」。周りを処女雪で囲まれた野外舞台に女の全裸死体? 
あの西村京太郎がこんな密室短編を書いていた、「白の殉教者」。犯人当て小
説の一種の最終形にして大いなる皮肉、「誰がベイカーを殺したか?」。事実
は小説より奇なりを地で行く、患者症例記録「偽患者の経歴」等々。
 法月綸太郎が、辻真樹『仮題・中学殺人事件』の章立てに合わせてセレクト
した、バラエティに富んだアンソロジー。

 毛色の変わった物が多く、プロ作家の手並みを見るにはいい作品集かもしれ
ません。ただ、毛色の変わった作品というのは本来、真っ当な作品群の中にぽ
つんとあってこそ光るものだと思うので、少々胃もたれ気味になった心地もし
ます。
 さて、編中で言及しておきたい作品が一つ。中西智明「ひとりじゃ死ねない」
です。※ネタバレ注意
 早すぎた傑作『消失!』でデビューしたきり、“消失”したとまで言われた
作者が、大学推理研時代に発表した犯人当て小説(の改稿版)とのことで、大
いに期待したのですが、読了してみると、いまいちな感じが。
 犯人を指摘できたし、**トリックを仕掛けてあることも見抜いた。もう一
つの仕掛けには思い至りませんでしたが、その隠し方は見事でした。その上で、
苦言を呈します。犯人当てとして成立しているとは思えない、と。
 犯人を指摘できたにも拘わらず、こんなことを言うのは変ですけど、この犯
人が本当に犯人である確証がない。私が当てることができたのは、ミステリの
流儀に沿って、くどい記述からシンプルなトリックが成立し得ることを汲み取
っただけのことであって、この人物が真犯人である確実な証拠も論理もないよ
うな。読者への挑戦を挟まず、単なるミステリとして書いた物ならOKなのに。
 さらに、この人物が犯人なら、こんな回りくどい計画を立てず、一度に全員
を始末することを考えるべきじゃないかしらん。見える結果は同じのはず。逆
に、犯行を数度に分ける方がデメリットが大きいと考えられます。特に、真犯
人が濡れ衣を着せようとした相手にアリバイが成立していたら、どうするつも
りだったのか。
 真犯人の計画通り、警察が別の人物を犯人と断定したくだりは根拠薄弱。語
り手が電話のことを警察に伝えないのは不自然。犯人のモノローグにも、『消
失!』を踏まえて引っ掛けてやろうと、欲張りすぎたのか、首を傾げてしまう
点がいくつかあるし、他にも――という風に、あれこれ文句を付けたくなるの
は、ちょっと手を入れることで、問題点を解消できたはずだから。
 編者の後書きによると、この作者は長編をひっさげて復活を期しているとか。
万全な形で読みたいものです。

 ではでは。





前のメッセージ 次のメッセージ 
「◇フレッシュボイス過去ログ」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE