#4650/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 07/12/08 23:15 ( 31)
本の感想>『福家警部補の挨拶』 永山
★内容
・『福家警部補の挨拶』(大倉崇裕 東京創元社クライムクラブ)
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綿密な計画を作り上げ、身長に実行し、首尾よく行ったはずの完全犯罪のど
こにミスが?
とても刑事には見えない福家警部補が、犯行現場をうろちょろし、鑑識の報
告を受け、関係者の話を聞く内に、不自然な点をかき集めて真相に辿り着く。
刑事コロンボ、古畑任三郎の系譜を称する倒叙ミステリ短編集。
作者は読者に先回りされるのを極度に警戒しているのか、しばしば重要な事
項を記述しない、もしくは至極曖昧に記述した上で、「細かいことに気付いた」
福家刑事の優秀さを示している。このやり方は、逆効果にしか思えない。「オ
ッカムの剃刀」のラスト、いつから疑っていたのか?に対する答なんか、とて
もいいのに、そのことを示す記述が曖昧なために切れ味が鈍っている。
犯人にしても、あまりにも大きなミスを見逃しているケースがあり、ちょっ
といただけない。
犯人を追い詰める最後の一手にしても、今ひとつの感が拭えない。常に“た
った一つの冴えたやり方”であれとは言わないが、他にもやり方があるだろう
と容易に思い付くようなのはまずいのではないか。帯でコロンボや古畑の系譜
を謳うからには、より高いレベルを求められることを予測(覚悟?)せねば。
とは言え、総体に充分合格レベルであり、倒叙ミステリを書いていくぞとい
う意気込みがひしひしと伝わってくる。これからが期待できるシリーズと言え
そう。
本筋とは無関係だ(と思う)が、「愛情のシナリオ」で、犯人が被害者を訪
ねた時点で、被害者がインスタントコーヒーを飲んでいる描写が納得できない。
この時点で、コンロの乾電池はどうなっているのか。どう想定しても、辻褄が
合わない気がする。
あと、福家刑事が捜査の責任者には見えない云々のやり取り。映像でなら面
白いかもしれないが、短編集で繰り返し出て来ると、鬱陶しさが勝る。連載中
ならまだしも、短編集にまとめる際に削ってほしかった。
ではでは。