AWC 本の感想>『六月六日生まれの天使』   永山


        
#4165/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  07/06/06  00:39  ( 34)
本の感想>『六月六日生まれの天使』   永山
★内容
・『六月六日生まれの天使』(愛川晶 文藝春秋・本格ミステリマスターズ)
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 男の上で絶頂を迎え、我に返ったとき、「私」は記憶を失っていた。今いる
場所も、自分の名前も思い出せない。
 ベッドに横たわる男を起こして事情を聞こうにも、彼は不気味な仮面を付け
ており、異常者に見える。しかしこの男を愛おしく思う感情には、偽りがなさ
そうだ。
 部屋の外に飛び出してみると、夏だと思っていたのに雪が降り、真夜中だと
疑いもしなかったのが、真昼だった。さらには、サンタクロースの格好をした
初老の男に追い掛けられ、「私」の混乱に拍車が掛かる。
 加えて、時折蘇ってくる記憶の極小さな断片が、「私」を警察に向かわせる
ことをもためらわせる……。

 記憶喪失ネタをこれだけ盛り込めばこれくらいはできて当たり前という気が
しないでもありませんが、まあ、よく考えられた叙述トリックミステリと言っ
ていいでしょう。
 欠点としては、かなり分かり易いこと。フェアである証拠なのですが、三つ
ほどある叙述的大仕掛けの内、一つには早い段階で気付きます。そこから作者
の企みを想像すると、通常、二通りのアイディアが浮かびます。で、作中、あ
ることが頻繁に強調されるため、きっと真相はその逆を行くんだなと考えると、
叙述的大仕掛けの二つ目、三つ目にも当たりを付けられる。いくつか意図的な
省略があるおかげで、判断を迷うところはあるものの……。私、らいとさんの
『箱の中の猫と少女と優しくて残酷な世界』を読む前に本書を読んでいたら、
もっと早く真相を見抜けた自信があります。
 設定そのものがご都合主義というのは、読者はそれを受け入れざるを得ない
という点で反則。そのため、どんなに深刻な事情を描いても、深みの足りない
物語になってしまった感がなきにしもあらず。
 後味がよくないのもマイナスかな。後味を悪くするのなら、いっそ最後にも
う一度、冬樹に「六月六日生まれの天使」の台詞を言わせて欲しかった。そう
すれば、後味の悪さに加えて、いやーな空虚感まで堪能できたでしょう。
 否定的な文言が多くなりましたが、叙述トリックにはこういうのもあるんだ
なと味わいたければ、読んで損はありません。

 ではでは。





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