AWC 本の感想>『写本室の迷宮』   永山


        
#4032/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  07/03/26  22:14  ( 35)
本の感想>『写本室の迷宮』   永山
★内容
・『写本室の迷宮』(後藤均 創元推理文庫)16/5551
 欧州史を専門とする大学教授の富井は、副業の推理作家としても名をなし、
さらに推理小説の新人賞の審査委員も務めるという多才を誇る。
 彼が学会出席のために訪れたヨーロッパにて、趣味と時間潰しのために向か
った模型店への途上、小さな画廊に飾られた絵に心引かれて立ち寄った。
 すると不思議なことに、店の主人はこの日、日本人が訪れるのを待ち構えて
いたらしく、富井に渡したい物があるという。それは海外で評価の高い日本人
画家の星野から預かった書簡と箱であった。その箱を開いたとき、富井は迷宮
に誘われることになる。
 ――終戦直後のドイツ、雪のために立ち往生し、とある館に助けを求めた星
野は、そこで催される推理ゲームに参加することになる。参加者の一人が執筆
した『イギリス靴の謎』なるミステリを読み、翌日の正午までに回答を出すと
いうものだ。だが、正解が示されない内に、本当の殺人事件が起きる。
 三重構造が話題を呼んだ、鮎川哲也賞受賞作品。

 この三重構造という箱は、本格推理としてはある種理想の型かもしれない。
読者に対してフェアでありながら、様々な仕掛けを施せる。必然性が問題視さ
れることの多い叙述トリックでさえ、この型ならば説明を付けることが容易に
なってくる。
 では本書は最高傑作かというと、そうでもない。二重構造で終わらせておい
た方が、ミステリとしてはすっきりしてよかった気がしてくる。
 そう感じさせる原因の一つは、全編に鏤められたペダントリー。それぞれが
謎解きに関連しているとは言え、広範かつ専門的に過ぎると思う。これがもう
少し興味を持てるものなら調べようという意欲が湧くこともあり得るが、いま
いち食指を動かされなかった。
 また、三重構造にした要とも言える最後の締めが、いささか肩透かし気味で
あった点も、マイナスのイメージを強くしている。新人賞応募作で普通なら許
されそうにない「俺達の戦いはこれからだ!」めいたラストだが、にもかかわ
らず受賞できたのは、ミステリとしての骨格がしっかりしているからだと思わ
れる。
 一度、重層構造などではない、至極真っ当な形式のミステリに真正面から取
り組んだこの人の作品を読みたい。その上で、仕掛けをたっぷりと盛り込んだ
作品を披露してほしいと感じた。

 ではでは。





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