AWC 本の感想>『幻影のペルセポネ』   永山


        
#3990/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  07/03/04  20:38  ( 42)
本の感想>『幻影のペルセポネ』   永山
★内容
・『幻影のペルセポネ』(黒田研二 文藝春秋)14/4451
 ネット上の仮想現実世界“惑星ペルセポネ”。そこは、参加者各人がアバタ
ー(分身となるイメージキャラクター)になり、現実世界と同じような生活を
送る電脳空間であった。
 ペルセポネに参加した来栖は、いきなり“密室殺人”に巻き込まれる。しか
も、そのアバターのマスター(アバターを操作する当人)もまた、現実に殺さ
れたことを知る。状況も同じ、密室で。
 奇妙なことに、ペルセポネでは以前にもアバターが殺された後、マスターが
実際に殺されるという事件が起きていた。これは予告殺人なのか?
 ある理由から事件を調べ始めた来栖に接触してくる、ペルセポネの様々な人
達。彼らは全て真実を喋っているのか嘘をついているのか、思惑は何か……。
そして三人目の死者が。
 バーチャル世界の“殺人”と現実世界の殺人が連動した新感覚ミステリ。

*久しぶりにネタバレ注意です。
 こうも易々とパスワードを盗めるんじゃあ、謎が謎として作用しない感じ。
トロイの木馬に思い当たるのも遅い。二〇〇四年の作品ですが、今なら差し詰
めキーロガーが真っ先に浮かぶのかな?
 ログイン・ログアウトのタイムスタンプの重要性に触れたにも拘わらず、こ
の点に全く無頓着なのは合点が行かない。本作のトリックを成立させるために
は、タイムスタンプに注目されてはまずいのは分かるが、じゃあ何で作中で触
れたんだろ。
 “死んだ”アバターのIDを実は確認していなかったというのにも驚いた。
当然確認したものだと思って、こっちは読んでいたのだから。現実の事件で死
体の身元確認をしないなんてことがあるだろうか。これも後の種明かしにつな
がっているし、種明かしのための伏線はちゃんと張ってある。よくできている
だけに、最初の段階でごまかすような書き方をしたのがもったいない。
 <ひとが死んでいます>のアイディアは凄くいいと思うのだけど、ごまかす
のなら、<人が死んでいます>ではなく、<ひとが死んでます>にするんじゃ
ないか。後者の方が気付かれるリスクが低いはずだから。
 と、否定的な文言を連ねましたが、これまでに刊行された仮想現実の世界を
舞台にしたミステリの中では、最も成功した作品と言えるんじゃないかと(無
論、私がこの系統の作品全てを読了済みとは断言できませんが)。舞台にあっ
たトリックをいくつも投入し、伏線を張り巡らせ、推理できるように物語を構
築した手腕は大いに評価できます。
 ペルセポネ内での話の割合が多いせいか、物語自体は中盤辺りまで淡々と進
み、退屈なくらいです。事件が起きて重要性が認識されて以降はなかなか引き
込まれました。ラストを後味よく締めくくったのはこの作者にしては珍しく、
それがまた高評価につながりました。
 プラスとマイナスの振れ幅が大きい作品というのが総体的な印象です。

 ではでは。





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