#1154/1158 ●連載 *** コメント #1153 ***
★タイトル (sab ) 22/10/10 11:45 (142)
ニューハーフ殺人事件18 朝霧三郎
★内容 22/10/12 08:01 修正 第5版
副題:ガイシャが薄い理由とペニス羨望の理由
レストラン マロニエの前には、ランチの見本が並べてあった。
ラーメン800円。
チャーハン700円。
ランチメニュー(日替)ロールキャベツ、サラダ、スープ付き900円。
「これでいいや」と光男はランチメニューの食券を買った
店内に入ると会議室にある様な椅子を引いて腰掛けた。
「なんだよ、社食みたいな店だな」と光男。
「村上春樹みたいですね」と明子巡査。
「え、なんで?」
「皇居の周りをうろうろしていると、村上春樹みたいにおのぼりさんに
なった気分になるんですよ」
「おいおい、俺らだって警視庁の警察官なんだからおのぼりさんってことは
ないだろう」
「村上春樹の小説って、
はとバスみたいに都内の名所をぐるぐる回るんですけれども、
西武系とか出てこないんですよね」
「へー」
「和敬塾とか、イグナチオの土手とか、伊勢丹の裏の深夜映画館とか、
アルプスの広場とか、
はとバスみたいに東京の名所が出てくるのですが、渋谷とか出てこない。
「ノルウェイの森」に限ってですが。
あれはミツさんみたいに、コンプレックスがあるんですかね。
西武とか金持ちに。
金持ちなんて糞くらえ、と書いていますが」
「村上龍の小説には出てきそうだな。プリンスホテルとか。
村上龍の方が濃いんじゃないの? 村上春樹に比べて」
すぐにロールキャベツが運ばれてきた。
「それにしても、あのガイシャは薄かったな」
「あのガイシャが薄かったのは…」
ロールキャベツを口に運びながら明子巡査が言う。
「やはり「神の死」が関係しているんですが」
「おい、又精神分析かよ」
「ブランド品に限らず、男女関係でも、
「神の死」がないと付き合えない人がいるんですよ。
ちゃんとした素人の女性で、成人式に振袖を着て行く様な女性とかには
近寄れない。
そういう人がどこに行くかというと、風俗店です。
何故なら、風俗店には「神の死」があるから。
成人式で振袖を着ている女子には神がついているから触れられない。
だから、とりあえず、風俗店に行く。
それも、しかし、長続きしない」
「何で?」
「生活安全課が手入れをして、風俗店は潰れるから。
そうすると、肛門性愛に走るんです」
「え、何で?」
「もともと、振袖の女性に触れられないのも、
ブランド品に触れられないのと同じで、
相手に手脂がついてしまう、
醜い自分の身体の脂がついてしまうという不安からでしたが、
この段階で、
自分の身体を嫌っているんですね。
だって身体からは手脂が滲み出てきますからね。
だから、拒食症患者が皮下脂肪を嫌うみたいに、
どんどん身体を殺していくんです。
滅私です。
これは、フロイト博士流に言うと、死に向かっている感じですね」
「死に向かう?」
「ええ。普通は胎内から母子関係、そして世界と進んでいきますが、
ガイシャの場合は逆で、
世界、母子関係、胎内、そして受精する前の死と逆方向に進んで行くんです。
「死への欲動」です。
生に向かっている時にはエロス、ペニスの愛ですが、
死へ向かっている時はタナトス、肛門性愛なんです。
性の退行というやつですね」
「性の退行…」
「つーか、手脂がつくから素人の女には触れられないのだから、
ペニスを向ける相手はいない訳ですから、肛門性愛に走るしかないんですが」
「増えているのか、肛門性愛というのは」
「統計資料がある訳じゃないですが、生活安全課の人に言わせると
増えているって事ですね。
まず、あのガイシャが使っていたみたいなアナルグッズがやたらと売れていると。
でも、それじゃあおさまらないで、次には、ニューハーフ風俗に走るんです」
「何でゲイじゃないんだ?」
「そもそも同性愛者じゃないですから。
それにゲイだと「薔薇族」みたいに濃い感じですしね。
もっと薄い、BLみたいな感じです。
というか、そもそもは、手脂を嫌っているから、薄くなるんですが、
「はいからさんが通る」の阿部寛の旧日本陸軍の軍服は濃いけれども、
敗戦という「神の死」があって、
欅坂46のナチスのコスプレになると薄くなる、というのに似ていますね。
だから、あのガイシャは薄いし、
多分、ニューハーフを追いかけているんじゃないかと推察しますね」
「うーむ」
「でも、いい事もあるんですよ」
「なに?」
「そもそも、伊勢丹メンズ館でも、阿部寛の旧日本陸軍の軍服でも、
神のあるものは苦手だったんですよね。手脂があるから。
でも、自分も薄くなって、相手もニューハーフとなると、
もう、伊勢丹メンズ館でも、イケメンでも、コンプレックスがなくなるんです」
「何で?」
「そもそも、男性って最初は母親を愛していますよね。乳児の頃は。
だって、母親に捨てられたら餓死だから。
だから、母親を愛するんですが。でも父親にダメって言われて、
外に出て行って別の女を探す。
この様に、胎内から母子関係、世界と出て行くんですが、さっき言ったみたいに。
この世界で探しているのが、振袖を着た素人の女です。母親の代替品として。
でも、その女にもダメだ、手脂がつくから、となって、
ニューハーフに走るというのは、
タナトス、「死への欲動」ですから、
これは、又母親のところに戻ってきている感じです。
母子関係のとこまで戻った時に何を求めるのかというと、
自分の求めるものではなくて母親の求めるものを求めるんです。
みんながヴィトンを求めるから自分もヴィトンを求めるみたいに、
母親が求めるものを自分も求めるんです。
この時母親が求めているものは何かというと、
父親のペニスを求めていますから、
自分もペニスを求めているんですね。
つまり、ニューハーフのペニスを求めているんです。
という訳で、もうこの段階では、母子の外の世界の、
振袖の女とか、表参道のブランドショップとか、阿部寛みたいなイケメンは
関係なくなっちゃっているんです」
(本当かも知れないとも思う)光男はロールキャベツのスープを最後まで
スプーンですくいながら飲むと思った。
(もしニューハーフを相手にしていたら、
西武へのコンプレックスも、
阿部寛みたいな濃いイケメンへのコンプレックスも
解消されるというのなら、夢の様な話だな。
本当だろうか…。
滝川クリステルがムカついていたが、
それは、昔、30代の頃、大宮ハリウッド座で遊んで帰ってくる時に、
金曜、土曜、日曜と遊んで、
日曜の夕方にJ−WAVEの「サウジサウダージ」を聞きながら
帰ってきていたのだが、
今、「サウジサウダージ」のナビゲーターは滝川クリステルで、
俺の失われた時の位置に座っているという感じがするからだ。
それでも、滝川クリステルが結婚もしないで動物愛護運動なんてしている時には
よかったが、進次郎と結婚妊娠となると、ムカーっとして、
それは、伊勢丹メンズ館や西武にムカつくというのと似ているのだが。
しかし、「サウジサウダージ」を思い出してムカついているところに
アリスがいるとすると、なんとなく、J−WAVEも「サウジサウダージ」も
関係ないじゃんと思えてくる。
そもそも、あんなにまったりしたボサノバじゃなくて、
ハウスとかトランスって感じがするし。
だから、シーメールとやっていれば、滝クリ的なものへの憎しみからは
逃れられるのかも知れないな。
それに、俺のペニス羨望の理由も分かった気がするし。
しかし、そこまで推理しているとは、
明子巡査というのは見かけによらず鋭い女だな)